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『ポピュラーサイエンスの時代』

ポピュラーサイエンスの時代―20世紀の暮らしと科学
『ポピュラーサイエンスの時代―20世紀の暮らしと科学』
原克・著
柏書房

20世紀、人々に影響を与えたのは正確な科学知識ではなく、
もっと漠然とした“科学イメージ”だった。
例えば、手動の歯ブラシより、機械仕掛けの電動歯ブラシの方が
「高性能に見える」というイメージ。
クリネックスが清潔な暮らしを生み出すというイメージ。
家事の機械化により主婦は自由な時間を獲得するというイメージ。
電気シェーバー、トースター、皿洗い機、トランジスタラジオなどの“新製品”や
当時の科学雑誌の記事を通じて、科学イメージが描いたものを追う、という本。

コンタクトレンズの元祖がカール・ツァイス社の『密着メガネ』だったとか、
「モータも誕生日の贈り物のように見えなくてはならない」というデザイナーの言葉とか
トースターの宣伝コピーが「トーストを焦がして旦那様の機嫌を損ねるべからず」だとか
アメリカの専門誌『ラジオ・ニュース』のキャッチコピーが
「100パーセントワイヤレスな雑誌」だったとか
いろいろとおもしろいエピソードが書かれている。

新製品の紹介記事や宣伝広告が描いたのは、
「科学はすばらしい」というイメージだけではなく、
白い歯は美しいとか、最新の電気器具を使いこなすライフスタイルが新しいとか
忙しい会社員に大切なのはスピードといったメッセージ(幻想?)。
これは内容が変わっただけで、今でも同じ。
「地球にも自分にも優しいライフスタイル」とかね。

20世紀が話の中心なので、19世紀末から1960年代ごろまでの変遷を追っているが、
それぞれの製品が現在どうなっているかまで触れて欲しかったところ。
例外的に、1920年代に登場したコイン式全自動カメラスタンドが、
プリクラにつながっているという話がでてくるが、他の製品でもこうした考察はありだろう。
たとえば、蓄音機やトランジスタラジオの文化は今ではiPodになっている訳だし。

幸田露伴が「泥棒の重量を感知すると電気が点き、
泥棒の顔写真を撮影する装置」を提案していたり、
寺田寅彦が蓄音機の時代に「山里の夜明け、谷川の音、
浜辺の夕闇に響く波の音を録音したレコード」
を考えていたりするのはおもしろい。

著者は1954年生まれだそうで、学生街の喫茶店への郷愁や
「プチブル」、「ゲリラ」といった表現がやや古くさい気もするが、
「ネット上の会話というと新種のコミュニケーションのように思いがちだが、
メールにしろブログにしろ、文字という古いメディアを介してのやりとりにすぎない」
という指摘は、忘れがちだが的を射ている。
ただ、その質やコミュニケーションの形はやっぱり変わってきていると思うけどね。

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