« 『Web2.0超入門講座』 | トップページ | ごろごろ »

『ジェノサイドの丘』

ジェノサイドの丘〈上〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

ジェノサイドの丘〈下〉―ルワンダ虐殺の隠された真実

『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』
フィリップ・ゴーレイヴィッチ・著
柳下毅一郎・訳
WAVE出版

映画『ホテル・ルワンダ』で描かれた
1994年のルワンダ大虐殺を追ったルポルタージュ。

上巻では虐殺の経緯、歴史的背景を
数多くのインタビューを通して丹念に追っている。
『ホテル・ルワンダ』のモデルとなった、
ミル・コリン・ホテルのポール・ルセサバギナや
ニック・ノルティが演じた国連軍指揮官のモデルとなった
カナダ人将校ロメオ・ダレールも上巻の後半に登場するが、
この本を読む限り、『ホテル・ルワンダ』で描かれたのは、虐殺のほんの一部。
映画ではホテル内もいつ民兵が襲ってくるかわからない危険な場所に見えたが
避難所であるはずの教会で牧師が虐殺を指揮したルワンダにおいて、
ミル・コリンはかなり安全な場所だったのだ。
著者フィリップ・ゴーレイヴィッチは言う、
「なぜ牧師が弱くなってしまったかの理由を知りたいとは思わない。
ポール・ルセサバギナがなぜ強くあれたのかを知りたい」

ていねいな取材を通して、著者はこれはフツ族がツチ族を殺し、
ツチ族がフツ族を殺した、愚かで単純な民族対立ではないことを説き、
国際社会の責任も追及する。
『ホテル・ルワンダ』の感想でも書いたが
虐殺の背景には、ベルギーが植民地支配の一環として
フツ族とツチ族の対立を利用した歴史がある。
さらに虐殺が行なわれている間、国際社会はこれを黙殺した。
(映画『ブラックホーク・ダウン』で描かれたソマリア侵攻の直後であり、
アメリカは軍事介入をしなかった。)
フランスは虐殺を行なったフツ至上主義者を軍事面で支持した。
その後、多くのフツ族難民が生まれた。
(ここが混乱しやすいところなのだが、難民となったのは
ジェノサイドを行なった側である。
報復を恐れたフツ至上主義者たちは、
一般のフツ市民にまぎれて難民キャンプへ逃げ込んだ。)
国際的な人道援助団体により設営された難民キャンプは
結果としてジェノサイドを行なった殺人者たちを助け、
彼らの再軍備に利用された。

ルワンダ虐殺後を描く下巻になると
さらに何が正義なのかわからなくなる。
難民キャンプを閉鎖しようとしたルワンダ愛国軍(RPA)の作戦が失敗し、
2000人のフツ住民が死亡する。
『ホテル・ルワンダ』では、ルワンダ愛国戦線(RPF)の支配地域に
逃げ延びたことで、ポールたちは助かる。
そのときはRPFはジェノサイドを止めたヒーローだったが、
彼らもまた住民たちを殺した。
難民キャンプが閉鎖され、強制的に帰還させられた人々によって、
ルワンダはかつて殺人を行なったものと、
家族を殺された生存者たちが一緒に住むことになる。
フツ至上主義部隊とRPAの戦闘はその後も続き、
隣国ザイール(コンゴ)やウガンダもいまだ安定していない。
ルワンダ人は言う、
「すべての人間は生まれながらにして平等だ、ときみは言う。
そんなのは嘘だし、そのことはきみだってわかっているはずだ。
それはただ受け入れやすい政治的真実というだけだ。
このひとつの言葉しかない狭い国でも、ぼくらはひとつではない。
だけど本当にひとつになるまではそのふりをしつづけないとならない。」

本の中でははっきりとは書かれていないが、日本も無関係ではない。
難民キャンプを維持した国連高等難民弁務官は緒方貞子だったし、
外務省のサイトにも「日本は、国際平和協力法に基づき、
ザイール共和国(当時、現コンゴ民主共和国)のゴマ等に
約400名の難民救援隊・空輸隊等を派遣した」と誇らしげに書かれている。
(ルワンダは日本主体の人道的な国際救援活動として
自衛隊を海外派遣した最初の例である。)

現ルワンダの大統領ポール・カガメは言う、
「あるいは、我々は実際に難民キャンプを支えた人たち、
キャンプに一日百万ドルを注ぎこんだ人たち、
彼らが軍隊を再建して武装難民となるのに手を貸した人たちを
告発すべきなのかもしれない。
結果的に難民たちが戦闘に加わって死んだのなら、
その責任はルワンダより、コンゴより、同盟軍よりもはるかに彼らの方にあるだろう。
なぜ彼らを告発してはならないのか?
それが彼らが振り払おうとする罪悪感ではないのか。
彼らがそらそうとしているものではないのか」

アメリカの翻訳ものにありがちな
詩的な文章はあまり好きではないのだが、
隣人が隣人を殺し、10人に1人が虐殺されたこのジェノサイドを語るには
フィリップ・ゴーレイヴィッチの文体はふさわしい。
重すぎる現実を描きながら、感動をもって読むことができる。


« 『Web2.0超入門講座』 | トップページ | ごろごろ »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

アフリカについて学んでいます。

『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』は新装版が発売されているのですね。ぜひ読んでみます。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/27590/2867253

この記事へのトラックバック一覧です: 『ジェノサイドの丘』:

» 国連の再生のカギを握るのは『ミドルパワー』だ [江戸摩呂日記 ~メディア千本ノック~]
朝日新聞 2006年(平成18年)8月17日(11面)虐殺なぜ防げなかった ルワンダ撤収から10年 国連支援団元司令官ダレール氏に聞く 対北朝鮮の制裁で、国連の動きについての報道が多くなっとる。今日は、1990年に勃発したルワンダ内戦で、1993年より停戦監視活動を... [続きを読む]

« 『Web2.0超入門講座』 | トップページ | ごろごろ »