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『脱「風景写真」宣言』

脱「風景写真」宣言―二〇一〇年の花鳥風月
『脱「風景写真」宣言 二〇一〇年の花鳥風月』
宮嶋康彦・著
岩波書店

またまた写真論。
風景写真論なのだが、著者にとっては都市も人も含めて風景だそうだ。
そしてやっぱりそこには生と死という意識が絡む。

「そこでいう自然は、ぼくがやってきて、やがて行くところに他ならない」
「花鳥風月という自然観は、死生観に他ならない。
花鳥図に表された絵図は自然の生と死を詠じている。」

「その“指向”は、長く称美されてきた、伝統的な美意識によるものといえるだろう。
ぼくらの身内には気づかないうちに様式美が育っている。
教授されたわけでもない美の形式が、好むと好まざるとにかかわらず、
ごく当たり前に身についているのだ。それを文化というのだろう。」
「前田信三氏の写真を最も特徴づけたのは、
日本人が共通言語として所有する図像の様式美であった。
その写真はときに、日本画そのものを想起させた。」

と言って著者は日本画の構図に支配されたような
ただ綺麗なだけの風景写真からの脱却を説く。
満開の桜ばかりを追いかけるのは「花を見て木を見ていない」
「花を見るだけで桜木を見ないのは、桜の一面しかみていないことではないか」
と言い、満開の桜だけでなく、冬の桜木も撮り続ける。
「写真のために写真以外の勉強をしろ」と若い頃に言われ、
苦々しく思っていたことが、今はよくわかると言い、
花火を撮るのに花火の名前を知らないカメラマンたちを嘆く。

まあ、ちょっと観念的だなーというか、説教くさい感じもする。
一本の木を撮るために四季を通じて追いかけ続ける
というのはすごいと思うけど、そうして撮られたという著者の写真には
心を動かされるものもあったり、なかったり。
山川を写したものより都市の風景写真にひかれる。

「雨の日には雨情を写したい」という考えは新鮮。
今まで雨の日に写真を撮るということはあまり考えてなかった。

1981年、29歳のときに著者は
「身近なものを亡くした畏れから、東京の暮らしを止した。」
と日光の山中に引っ越す。そして、日光の森の中で
“なにか”を感じ、それを追いかけるうちに風景写真を撮るようになる。
はっきりとは書かれていないけれど、“身近なもの”とは
恋人か誰かだったのだろう。本には何枚もの風景写真にまじって、
「風がその人の髪をゆらした」というコメントとともにひとりの女性が写っている。
ほかの写真には撮影月と場所はあっても年号は書かれていないのに
その写真だけ「1973年」となっている。
写真家はどうしても生と死を背負うものらしい。

◆読書メモ

「ピクトリアリズムの名称が示すように、
写真作品のおおかたは絵画のように撮影されている。
ヨーロッパでは後期印象派を範としたが、日本の場合は日本画であった。」

「日本の神は自然現象のなかから誕生している。
そして、自然のあらゆる事物に神の宿りがある」
「樹木の神ともいうべき須佐之男命の顎鬚は杉になり、胸毛は檜になった。
尻の毛は薪に眉毛は楠に変身したという」
「記紀神話は、自然を構成するすべてのものが神の分身であると記しているのだ。」
「自然のあらゆる現象に神々を想像してきた日本人の自然観は、
すくなくともキリスト教の世界にはない。キリスト教では、
神が天地を創造したのであるが、日本の神は自然世界から誕生したのである。
記紀には、定かならない混沌のなかに「なにか」が兆したと書かれている。
気配こそが神であった。この宗教的体験の「兆し」のなかに、
日本人固有の自然観は生まれ、育ってきたのではなかったのか。
山界に人知のおよばぬ「なにか」が在る、と確信めく気持ちは、
宗教の発生を追体験していることなのかもしれない。」

「海山、ご近所、昆虫や鳥、あるいは池や沼や小川、何でもいい。
オーソドックスな対象でいいから、一つのものに
徹底的にこだわって写真を撮ることを提案する。
長く愛することのできる対象を選んで、
こつこつと、様々なシーンを撮りつづけることだ。」

「世のすべての光は白に集約され、すべての色は黒に集約される。
白と黒は、語り過ぎないけれども、その内側に世界を秘めている。」

「あなたは闇の中からこの世にやってきた、あなたは今、
あなたがやってきた闇へ戻ろうとしている」親鸞

「(航空機から撮影する場合)窓の汚れをぼかすために、
絞りを開放に近い値にすること。」

オウム真理教の教団アジトの家宅捜査の模様がテレビに映し出されていた。
「パソコンが何台も並んだ部屋だった。そのパソコンのひと隅に貼られた文字が、
ぼくの眼を釘付けにした。「世のすべては無常」と書かれていた。」

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