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『人造美女は可能か?』

人造美女は可能か?
『人造美女は可能か?』
巽孝之・荻野アンナ・編
慶應義塾大学出版会

慶應義塾大学で行なわれたシンポジウム『人造美女は可能か』をもとに、
フランス文学から映画、アニメまで広く“人造美女”について語った論説集。

“人造美女”と聞いて私は当然アンドロイドの文化史を期待していたんだが、
『コッペリア(オランピア)』や『未来のイヴ』、
『メトロポリス』、『イノセンス』あたりはまだわかるものの、
『不思議の国のアリス』、『ロリータ』、
恋月姫や『さゆり』まで登場するにいたっては幅が広すぎて
“人造美女”の定義をもっとちゃんとしてほしい。
(ちなみに「アンドロイド」という言葉は、「アンドロ」が男性を意味するので、
人造女は「ガイノイド」というのが正しいらしい。
そして、ガイノイドと言った場合、物語によっては性的な意味も含むそうだ。)

全部で10人の論説(荻野アンナのはエッセイみたいなもんだが)
が掲載されているが、おもしろく読めた文学論から
何を言っているんだかさっぱりわからないものまで様々。
語られている文学や映画やアニメを知っているかどうかで
興味も変わるとは思うが、学者先生が『エヴァ』や『攻殻』について
大真面目に論じてるのはいささかこっけいだ。
人造美女というテーマでフランス文学からオタク論まで
いっしょくたに語ろうとすることにそもそも無理がある。

そんな無理をしようと学者先生に思わせたきっかけは
おそらく映画『イノセンス』であり、これが、
フランス文学からハンス・ベルメール、オタク文化までを一気に結ぶ。
(映画『イノセンス』に出てくる企業ルクス・ソルス社は、
フランスの作家レーモン・ルーセルの作品のタイトルであり、
「孤独な場所」を意味する。)
しかし、本書で新島進が語っているように、
『イノセンス』は「衒学を衒学で嗤うような映像作品」なので、
登場するモチーフひとつひとつをとりあげてみてもあまり意味がない。

草薙素子や綾波レイが人造美女だというのはわからなくもないが、
そういってしまうとなんだかつまらないよね。

エドガー・アラン・ポオが『大鴉』創作について語った
「最も憂鬱で最も詩的な主題は“美女の死”である」
という言葉を受けて、
「いちど死んだ美女だけが人造美女になりうる」
という巽孝之の指摘や、
『フランケンシュタインの花嫁』を受けて、
「敢えて人工の女性を造るならば美女でなければ意味がない」
という高原英理の話などは、なんとなく納得。
(『大鴉』の創作とか昔、文学史で習ったよ。
なつかしかったけど、『大鴉』について知らないと
意味がわからないこの論文ってスノッブ。)

「シュルレアリスムの発想は
ゴシックロマンスにはむしろ親和性を強く持つ」
という話はちょっと興味深かったが、
宝野アリカが自分のゴスロリ趣味や
歌詞について得々と語った部分は意味不明。
ためしに『ローゼンメイデン』の1、2話を見てみたのだが、
こっちのほうが、ずっと本質的に人造美女やゴスロリを描いていておもしろい。

マテルの創始者でバービーの生みの親ハンドラー夫妻の孫娘
ステイシー・ハンドラーが書いた
『The Body Burden Living in the Shadow of Barbie』
という本も読んでみたい。
(彼女の叔母バーバラからバービーの名前はとられており、
彼女の父親からケンの名前がつけられた。
ステイシーもバービーの友達の名として登場する。
彼女は完全無欠のプロポーションをもつバービーに囲まれて育ち、
外見のイメージという抑圧のもと、長いこと過食で苦しむ。)

そのほか、透明花嫁が登場する『ヴィルヘルム・ストリッツの秘密』、
稲垣足穂『少年愛の美学』、
フリッツ・ラング『メトロポリス』のもとになったという
E.T.A.ホフマン『砂男』などもおもしろそう。

アリスやロリータのような美少女にしろ、美女にしろ、
本当に美しいのは一時期。
それを文学や人形やロボットとして
永遠に閉じ込めようとする試みが“人造美女”なのだろうが、
それは何も今に始まったことでもないのだ。

「人造美女創造の物語は、
現実の女性たちが不完全であることに対する失望から作り出される」
フランセット・パクトー『美人-あるいは美の症状』

◆読書メモ

「われわれの神々もわれわれの希望も、
もはやただ科学的なものでしかないとすれば、
われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか」
『未来のイヴ』5巻16章

「人間に恋は出来なくとも、人形には恋が出来る。
人間はうつし世の影、人形こそ永遠の生物。
という妙な考えが、昔から私の空想世界に巣食っている。」
江戸川乱歩「人形」

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