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『偽ブランド狂騒曲』

偽ブランド狂騒曲―なぜ消費者は嘘を買うのか
『偽ブランド狂騒曲―なぜ消費者は嘘を買うのか』
サラ・マッカートニー・著
ダイヤモンド社

人はなぜブランドを愛するのか、
そしてブランドを愛しているのになぜ偽物を買うのか、を検証した本。
ニューヨークの小売店で簡単に偽ブランド品が手に入ったり、
ネットオークションで本物そっくりのブランド品が売られている現状を
著者自身が実際に体験し、消費者から偽ブランド品を買う心理をアンケート。
すでに本物と区別がつかなくなった偽物の実体をさぐる。

幅広い検証を行なっているのだが、基本的にブランド品を買う消費者側と、
イメージばかりが先行し、本質を見失っているブランド側からの考察なので、
偽物を作って売っている側(犯罪組織の収入源になっているとも言われる)
の実体は見えてこない。
しかし、ラッシュのマーケティングを担当している著者らしく、
ブランドイメージを作る側、ブランド品を買いたいと思ってしまう消費者心理は
かなりよくとらえている。

村上隆がデザインしたヴィトンのマルチカラーは
雑誌で見る分にはかわいいのだが、街で女の子が持っている見たら、
「ヴィトンのパチモンみたいだ」と思ったことがある。
著者がネットオークションで見かけたマルチカラーのバッグは
実際には生産されていない偽造品だった(モノグラムの同タイプはある)。

「コピーや偽造にまつわる話で一番皮肉なのはヴィトンだ。
旅行かばんの生地にLVのイニシャルを織り込むようになったのは、
コピーを防ぐためだったのだ。偽造が横行している今では、
LVのシンボルが世界中に知れ渡っているがゆえに最大の標的になっている。」

「ヴィトンの日本市場は巨大で、一時は同社の売上げの75%を占めていたほどだ。」

「一般人がロゴ入りの服やアクセサリーを身に着けて
うろうろするようになったおかげで、高級ブランドのイメージは下がったのだろうか。
不適切なセレブを宣伝に起用したり、
何万人もの日本人OLにバッグを持たせたりしておくことのほうが、
偽造品によるダメージよりも深刻だという人もいるくらいだ。」

「欧州のヴィトンが日本人観光客向けに一人につきバッグ三個まで
という制限を設けている噂は知られているが、こうしたルールは
手に入りにくいという神話をつくり上げたいがためという気もする。」

「ジャスパー・コンランは、「ものすごいお金持ちでなくとも、
いいものを持つべきだ」と信じている。LVMHならば絶対にそうはいわない。
高級品が真に高級であるためには近寄りがたいものでなければならない。
高級ブランドは需要をつくり出しておきながら、それを満たすのを拒否する。
だから偽造屋たちは嬉々として現れては、満たされない消費者の欲望を
高級ブランドになり代わって満たそうとする。」

偽ブランド品ではないが、デザインを勝手に真似するコピー商品は
ファッション業界では当然のように行なわれているらしい。
『ガイアの夜明け』かなんかで、街を歩いている女の子の服をスケッチし、
それを元に新製品をデザインするメーカーの話をしていた。
このメーカーのやり方は盗用すれすれだと思うが、
雑誌で見たブランド服は高くて買えないから、
同じようなデザインのもっとお手頃価格の服を探すぐらいのことは
みんな普通にやっているだろう。

「一般大衆でも最新のファッションを手にできるのは、
自分たちのようなハイストリート・ショップ(目抜き通りに並ぶお手頃価格のブランド)が
ロビン・フッドよろしく流行のスタイルをしとめてきては、
恵まれない弱者に分け与えているからなのだ。」

「キャットウォーク・カンニングペーパー」雑誌『イヴ』のタイトル
「スタイル・ストーカー」雑誌『B』のタイトル
「ハル・ベリーが主演映画『キャットウーマン』のプレミアで着ていた
マシュー・ウィリアムソンの1000ポンドのドレスは売り切れてしまったが、
ASOSドットコムでなら類似デザインのドレスが35ポンドで買えるそうだ。」

結局、ブランドイメージばかりが先行し、購買欲を掻き立てるマーケティングが
偽ブランド品を拡大させてきたわけだ。

「ブランドの核心部分をなすのは象徴的価値ではなく、
顧客がお金を払って手に入れようとしている製品またはサービスそのものだ。」

「顧客が品質と価値の両方を認めるところに、必ずブランド・ロイヤルティはある。」

検証が幅広く、著者の言いたいことの焦点がわかりにくいが、
そのぶん、小ネタはあちこちおもしろい。

◆読書メモ

製品でもサービスでも、特定の人と結びつけたブランド・イメージづくりは
諸刃の剣になりうる。マドンナはGAPの役に立ったのだろうか。
ジェニファー・ロペスはヴィトンにとってプラスになったのか。
マイケル・ジャクソンとペプシ、ディビッド・ベッカムと携帯はどうだったろう。

「ヴァン・ダッチを買う人たちは品質には関心がありません。
マーケティングに乗せられているだけです。
そのブランドを身に着けることが何かを象徴するわけではありません。
しいていえば、個性のなさを象徴してるとでもいいましょうか」
(ファッション評論家マンディ・ミルズ)

とかくブランドのオーナーというのは、順番待ちリストに登録してでも
そのレーベルの商品を手に入れたいという客がいるからには、
自分たちは安泰だと思いがちだ。けれども、バーバリーが
英国で少々目立ちすぎるようになったとき何が起きたかを思い出してほしい。

ロゴのついていない偽造品を見たことはあるだろうか。
大勢の人々が偽造品を買うのは、偽のロゴに嘘をついてほしいから、
そして真実と思い込みたいからなのだ。

近頃は独立ブランドを立ち上げるのはあまり流行っていない。
ブランド拡張のほうが安全と考えられているからだ。

1998年にニューヨークで摘発・押収された偽ブランド服が、
東欧難民への人道支援対策の一部として提供されたが、
ほどなく難民キャンプへ行ったはずの服が大量にイングランドの露店から押収された。
以来二度と同じことが起こらないよう、
難民キャンプに送られる偽造デザイナー・ブランド製品から
ロゴの刺繍をほどき、ラベルを切り取るようになった。

「あまりにも多くの人が『問題があれば政府がなんとかしてくれる』
と考えてきたのではないでしょうか。そういう時代を生きてきたのです。
『困っているから、給付金をもらおう』『住むところがないから
政府に住まいをあてがってもらおう』という具合に。
要するに自分の問題を社会に押しつけているのです。
 けれども、いいですか、社会などというものは存在しません。
存在するのは個々の男と女、そして家族なのです。
どんな政府も個人を通さない限り何もできません。
それに人はまず自分の面倒は自分で見なければならない。
最初に自分の面倒を見て、それから隣人に目を向ける、それが私たちの義務です。
 ところが、義務をそっちのけで権利のことがばかりを考える人たちがいます。
最初に義務を果たさなければ権利などないのです」
(サッチャー)

1980年には、英国政府も米国政府も機会の平等を促すことを
自分たちの責任とは考えなくなった。チャンスは自分でつかめという時代が来たのだ。
そこで野心的な若者たちは新たな見方をするようになり、
「お金でステータスは買える」と考えた。
平等はもはや望ましいものではない。第一、誰と平等になりたいというのだ。

ヤッピーはものの価値が全然わからないのか。わが祖母の名言をもう一つ。
「ものの値段は知っていても、値打ちは知らない連中だね」。

日本と台湾では、化粧品用に社名の「Lush」のほか、
「Rush」という単語も商標登録した。日本語ではどちらも「ラッシュ」と読めるからだ。
グッチが「Rush」という香水を開発したとき、
ラッシュがグッチに対し、商標「Rush」の使用を許可するということで円満解決した。

オーストラリアでは、ある会社が製品の包装すべてに「フレッシュ」という言葉を使い出し、
ラッシュに対し「フレッシュ」の使用を差し止める禁止命令を取りつけた。
その命令が出たのはクリスマス・イブだった。
マーク・コンスタンティンはついに堪忍袋の緒が切れ、相手を逆提訴、勝利を収めた。
そして和解条件の一つとして、クリスマス休暇をメチャクチャにしたお詫びに
マークの自宅に10本の赤いバラを届けることが加えられた。
この一件は、バブルバー製品「アマンドポンド」が生まれるきっかけにもなった。
表面に本物のバラのつぼみが埋め込まれたこの石鹸には、
和解の申し込みという意味がある。(日本では「ごめんねダーリン」と名付けられた)

ちなみに中国人自身は模造品には興味がない。
彼らが求めているのは本物だから。
欧州のブランド品を最高の値段で買ったことを
人に見えるために、値札を外さないでおくくらいなのだ。

マーク・バイ・マーク・ジェイコブスは、マーク・ジェイコブスと同じではないことや、
通販のラ・ルドゥート向けのキャシャレルは、
キャシャレルとは違うことを知っている人は知っているのだ。

コミュニケーション学の権威エヴァレット・ロジャーズは
1962年の著書『イノベーション普及学』の中で、
ある商品をいずれ必ず買う人をいくつかのカテゴリーに分類している。
最初の2.5% イノベーター(革新的採用者)先陣を切って冒険する人たち。
(最初の0.5% リアル・グラウンドブレーカー(真のパイオニア)とするバージョンもある)
13.5% アーリー・アダプター(初期採用者)
34% アーリー・マジョリティ(初期多数採用者)
34% レイト・マジョリティ(後期多数採用者)
16% ラガード(採用遅滞者)
 ロジャーズの理論が示しているのは、新しい製品やサービス、
新しいファッションが成功を収めるには、イノベーターという先導者が必要だということ、
そして目新しいものにすぐに飛びつく人たちがいる一方、
まずは試してからでなければ手を出す気になれない人たちが
購買人工の少なくとも半数いるということだ。
イノベーター、つまり流行に敏感な人は、
自分が発見したものを仲のよくない人間が取り入れているのに気づくと、
そろそろ乗り換える時期だと本能的に感じ取る。

『セックス・アンド・ザ・シティ』があれほど成功したのは、
視聴者が華麗な四人組に何かしら自分との共通点を見出したからだ。
大勢の女性があのドラマを地で行きたいと思った。
まさにショッピング命というライフスタイルだ。

1990年代になると、現代のことわざ
「もっと残業すればよかったと悔やみながら墓に入った者はいない」が生まれた。

英国では1990年代になって突如ヨガが流行り出した。
プーマはシューズを売り出した。プーマはどこのヨガの先生にでもいいから
一言相談するべきだった。ヨガは裸足でやるものだ。

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