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『音楽入門』

『音楽入門 音楽鑑賞の立場』
伊福部昭・著
全音楽譜出版社

2006年2月に亡くなった、日本を代表する作曲家、伊福部昭による音楽論。
(それだけで語ってしまうのは失礼だろうが、私にとってはやっぱり『ゴジラ』!
ミュージシャンでもあった今は亡きSさんに「伊福部とかもってないですか?」
と聞いたら、「なんで君が伊福部なの?」と笑いながらCDを貸してくれたっけ)

1951年に刊行され、1985年に改訂版、2003年に新装版として発売。
冒頭に博物館を訪れた学生たちが、解説ばかりを一生懸命メモし、
肝心の展示物そのものをまったく見ていないという話が紹介され、
音楽を音楽そのものとして聴くべきという伊福部のごくシンプルな
しかし、深遠で真摯な主張が語られている。
解説にもあるように1951年当時の音楽に対する批判もこめられていたり、
音楽史あたりは門外漢にはわからない人名や用語もたくさんでてくるが、
なにより文章が読んでいて美しい。
デザイナーが書くと、簡単な地図であっても絵のように見えたりするが、
音楽家が書くと、文章もこんなに響きをもつのかと感嘆する。

◆読書メモ

真の教養とは、再び取り戻された純真さに他ならない
ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテ

このように直接的な感動力をもっている音響ないし音楽から、
人類である私たちが、なんら感銘を受け得ないとするならば、
恐らく、人類だけがもっている知性がわざわいしている
と考えることも不可能ではないでしょう。

このような立場からいいますと、音楽は、自分の心の中に描いている
諸々のイメージの単なる伴奏として取り扱われているに過ぎないのです。
イメージと音楽が合致しない場合、または、イメージを創り上げ得ない場合は、
その音楽を理解しないと思い込むのです。

「鳥の鳴く声を聴いて誰もその意味を聞こうとしない。
それで、聴いて楽しいではないか、それなのに何故、
自分に向かって作品の説明を求めるのだろう」
これは画家ピカソの言葉なのですが、
むしろ音楽の場合にこそいわれていい言葉なのです。

ゲーテは「建築は凍った音楽である」と述べておりますが、
この言葉は、誠によく本当の音楽の在り方を示しており、
また同時に音楽の鑑賞の立場をも示しているのです。

「音楽は音楽以外の何ものも表現しない」ストラヴィンスキー

マルラメの有名な「詩は思想で創るのではなく言葉で創るものだ」
という言葉がありますが、これを音楽に当てはめれば
「音楽は思想で作るものではなく音で作るものだ」ということになります。
また観賞の立場からいえば「音楽は思想で聴くものではなく、
その音を聴くべきものだ」ということになるのです。

そして実際につまらない作品に、自ら感動しようと努めたりも致しました。
また、どうしても感動のできない作品であっても、あまり世評の高いものであれば、
自ら感動しているはずであると、自分に、いい聞かせたりもしたものです。
しかし、これは実に間違った努力でした。
いわば、音楽を聴きながら音楽を聴かないように努力していたというべきものでした。

ピタゴラスの教義によりますと、その根源は数学にあり、まず数の一は理性、
二は弁論、三は力、四は正義を意味するというのです。
五は最初の女性数二と最初の男性数三との結び合いによって
作られているところから婚姻の意を寓すると共に、色彩に関する秘密も
隠されているとしたものです。六は寒冷の秘密、七は健康、
八は三の力と五の婚姻との和によって、愛の秘密が含まれているとするのでした。
また形体の面から申しますと、六面体は土、四面体(ピラミッド)は火、
十二面体は天空の秘密を抱いていると考えたのです。
中でも球は完全なる形であり、この完全なる球の配列によって作られている
天空の十二面体の中における星の距離は、
音の高さが弦楽器の弦の長さに反比例し、それぞれ調和するのと同じように、
調和級数をなしていると考えたのでした。ですから音楽を奏するということは、
数学の世界の問題であり、がっちりと数理的に構成された天体の運行は、
最も完全なる音楽であると考えたのです。

わが国にキリスト教が伝来した時「磔になって、涙を流すような意気地のない男を
何故に神としてあがめなければならないのか」
といった武家の人たちと同様の戸惑いを感じたのでありましょう。

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