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『テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか』

テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか
『テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか』
吉野次郎・著
日経BP社

以前、ネットはジャーナリズムを変えるのかに以下のように書いた。
「テレビ局はテレビで放送したものをもっとネットでも配信して見られるように
すればいいと思う。実際にネット配信に積極的なテレビ局もあるけど、
どこもコンテンツ作りには苦労してると思う。
一方で、メディアがのどから手が出るほど欲しがっている人気コンテンツが
YouTubeにはある。現在、障壁となっているのは著作権だと思うが、
最初の段階で、この番組はネットでも流すという契約を
出演者たちや権利者と結んでおくとか、方法はあると思う。
iTunesでは人気ドラマを放送した翌日にポッドキャスティングしている。
新ドラマなど最初の1、2回を夕方に再放送しているケースがあるが、
視聴率がふるわないくらいなら、ネットで配信するのもひとつの手なのでは。」

なぜテレビのコンテンツをネットで配信しないのか、
なぜテレビとネットの融合が進まないのか、本書は明快に解答する。
それはテレビが50年かけて築き上げたビジネス構造があるからだ。
そのビジネス構造とは、
映像を配信するインフラである電波塔、
番組を流通するキー局から地方局への系列、
NHKと民放の“二元体制”、芸能界からの人材供給、
下請け制作会社が作るコンテンツの支配などで、
これがテレビ局だけを儲けさせるシステムとなっており、
このビジネス構造の前では、ネットから得られるかもしれない
コンテンツ収入など小さな利益にすぎない。
それよりも、ネットにコンテンツを流すことによって、
このビジネス構造が破壊される脅威の方がずっと怖いのだ。

しかし、ネットが確実にこのビジネス構造に亀裂を入れ始めている
とも本書は解説する。
電波塔に変わるインフラとしてブロードバンド放送があり、
地方局やNHK、制作会社、芸能界も
テレビに変わる舞台としてネットへの進出を模索している。
長い間テレビを保護してきた政府の政策も
通信と放送の融合を推進し始めている。

NHKアーカイブスが出来たときに、なぜ番組をネット配信しないのか
不思議だったけど、NHKは本格的なネット事業が制度的に禁止されているそうだ。
当時は二元体制の崩壊を恐れた民放からの大きな抵抗もあったが、
NHKが受信料のみに頼ることができなくなったこともあり、
2008年あたりから法制度を整え、NHKは本格的にネットに進出する。

テレビ界ではマルチウインドウなど“余計なもの”が
テレビ画面に映ることを「画面が汚れた」というそうだが、
もはやテレビ画面はテレビだけを見るものではない。
本書に載っているNHK、電通総研、総務省の調査では、
「一人が地上波テレビを見ている時間は一日当たり平均3時間31分である。
一方、BS放送やCS放送は合わせても平均12分にとどまる。
DVDとビデオの平均視聴時間は合計8分。
テレビ・ゲームに至っては平均5分に過ぎない。
テレビ局の番組がテレビ画面を占領している時間が、いかに長いかわかる。
インターネットの一日の利用時間も平均37分と地上波テレビを下回る」
そうだが、私の実感としては、
地上波テレビ30分、BS放送1時間、ネット2時間、という感じ。
DVDレコーダーで録画したテレビ番組をどこに位置づけるのかよくわからないが、
妹でいえば、DVDレコーダー2時間、ゲーム2時間。
映像コンテンツという意味でいえば、Yahoo!動画とかYouTubeとか、
ネットで見ている割合もずっと増えた。ワンセグチューナーを買ったら
テレビではなく、PCで見ることも増えるだろう。
これは私だけの特異な事情ではなく、今後もっと加速するのでは。

「芸能ビジネスはテレビを中心に展開してるんです。
長年をかけて築き上げられたテレビと芸能界の関係が、
そう簡単に崩れるわけないじゃない。
ましてテレビとネットの融合なんて、夢物語ですよ」
「今やジャニーズのタレントが登場しない人気番組って
ほとんど見つけられないですよね。そのジャニーズは所属タレントを
絶対にネットには出さないわけですよ。
テレビでしか見られないようにすることで、
メジャーなイメージを演出しようとしているのです」
と、本書に出てくる電通のテレビ広告担当者は言うのだが、
これを今でも本気で言っているとしたら、よっぽど危機感が薄いか、
あるいは私たちには見えないテレビ業界の構造がよっぽど歪んでいるかだ。

何年後になるかわからないが、テレビの天下は長くないだろう。
ネットに飲み込まれずテレビが生き残ろうとするなら、
自らネットに進出し、新たなビジネス構造を築くしか道はないように思われる。

◆読書メモ

1970年代半ばまでに新聞社とテレビ局のスッキリした系列が完成した。
読売新聞社と日本テレビ、毎日新聞社とTBS、産経新聞社とフジテレビジョン、
朝日新聞社とテレビ朝日、日本経済新聞社とテレビ東京という形の系列である。
(現在は、毎日新聞社とTBSの資本関係は切れているものの、
友好会社として交流は続いている。)
新聞社とテレビ局が系列化している市場構造は、世界的にも珍しい。

「もともと吉本は、劇場に来たお客さんから木戸銭をもらって収入を得ていたんです。
けれどテレビの時代になると、テレビ局を通じてお金をもらうビジネスが増えていった。
それが、ネットを通じてコンテンツを売ることで、再びお客さんから直接お金を
ちょうだいできるチャンスが増えたのです」

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