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『ロングテール』

ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略
『ロングテール 「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』
クリス・アンダーソン・著
篠森ゆりこ・訳
早川書房

“ロングテール”という言葉の生みの親である『ワイアード』の編集長自身が
ロングテール現象を軸にネットにおける経済の変化を解説。

ロングテールはWeb2.0の中でもわかりやすく、お金に直結する話だったので、
言葉だけがあっという間にひとり歩きしてしまい、誇大妄想的に語られ、
「ロングテールは幻じゃないか」など批判も多い。
著者はさすがにそこらへんをよく心得ていて、具体的なデータをあげての解説は
説得力があるし、ロングテールにまつわる誤解をひとつひとつ解いている。

「デジタル・ジュークボックスに入っている1万枚のアルバムのうち、
3ヵ月に少なくとも1曲は売れるアルバムは何パーセントだと思うか、と訊いてきた。
典型的な大型書店の販売ランキング上位1万タイトルの半数は
3ヵ月に1冊も売れないし、ウォルマートの上位1万枚のCDの半数もそうだ。
ところが、答えは98パーセントだった。」

「iTMSの100万曲のすべてが少なくても一度は売れた。
インターネットの宅配レンタルビデオ店であるネットフリックスの計算では、
2万5000枚のDVDの95パーセントが少なくとも3ヵ月に一度は貸し出された。
アマゾンの販売ランキング上位10万タイトルのうち、やはり98パーセントが
少なくとも3ヵ月に一冊は売れた。」

「オンライン音楽配信サービスのラプソディの利用データによると、
2万5000位から10万位の1ヵ月平均ダウンロード数は250回。
すべてを足すとラプソディの総事業の4分の1に当たる。
80万位になってもダウンロード数はゼロにならない。
10万位から80万位の総計ダウンロード数は1600万になり、
全体の15パーセントを超える。」

ロングテールはアマゾンやグーグルだけの現象ではなく、
音楽、映画、テレビなど、様々なところで見られる。
音楽業界は新曲を売り出す際にネットに無料で曲を流し、
その反応をもとにマーケティング戦略を考えたりするのだそうだ。
「曲がインターネットで流通すると、
リプリーズはその後の動向を見守ることができる。
ビッグシャンパンのファイル交換データを見るのだ。
すると『アイム・ノット・オーケイ』への関心が高まっているだけでなく、
『ヘレナ』という曲に対してもファイル交換や検索が
頻繁におこなわれていることがわかった。
だから『ヘレナ』がセカンド・シングルになったのである。」

この本が主張するのは、日本語のサブタイトルにあるように、
ロングテール=儲からなかった商品が利益を生むようになる
という話ではなく、むしろ私たち消費者側に選択肢が増え、
それは歓迎すべきだということだ。

「一般から専門へと文化が移行しても、既存の権力構造が消滅したり、
パソコンを武器にした総アマチュア文化に完全に塗りかえられたりはしない。
全体のバランスが変わるというだけだ。
ヒットかニッチか(メジャーかサブカルチャーか)「どっちか」という時代から、
「どっちも」時代へと進化したのである。」

ロングテールの未来がすべてバラ色だとはまだ思えないが、
経済が大きく変化しているということは実感できた。
「今後問われるのは、選択肢が増えるのはいいことかどうかではなく、
本当に欲しいものは何かだ。
無限に広がる商品棚の上に、載らないものはないのだから。」

◆読書メモ

テレビ番組がいまより70年代で人気があったのは、
そっちの方がいい作品だったからじゃなく、
画面に映る作品が他にほとんどなかったからだ。
概ね文化に勢いを与えていたのは、ハリウッドの優れた才能というよりも、
大衆を操作する放送の影響の方である。

『ベルヴィル・ランデブー』を公開時上映していたのは全米でたった6ヵ所だ。

ルパート・マードック
「重要なのはこれだ、と上からものを言うような存在でいては、
若者は集まってきません。彼らはメディアに操作されるのではなく、
メディアを操作したいのですから」

アマゾンで買い物を可能にしてくれる、インターネット以外の要素を考えてみよう。
宅急便、ISBN、クレジットカード、リレーショナル・データベース、バーコードだ。
こうした新しい手段が考え出され発展するのに数十年かかっている。
インターネットの功績は、これらの新しい手段を組み合わせて
ビジネスの勢力範囲を広げたことだ。言いかえればオンライン・サービスは、
何十年とつちかってきた供給改革の諸要素をただ統合しただけだ。

1886年、シカゴの宝石商が送った腕時計の箱が、誤って
ミネソタ州ノースレッドウッドの地元卸売業者のもとに届いた。
その業者がそれを欲しがらなかったので、
ノースレッドウッド駅の駅長リチャード・シアーズは自ら買いとり、
鉄道各駅の駅長に時計を売りさばいてそこそこの利益を得た。
本社の規模はどんどん拡大していき、最終的に
シアーズとアルヴァ・C・ローバックはシカゴのウエストサイドに、
通信販売と事務をおこなう約16万平米のビルを約500万ドルで建設した。
1925年、シアーズが試しに通信販売事業所の中に店をオープンさせたところ、
ただちに成功した。大型小売店の誕生である。

初期のスーパーが成功した要因には、
ショッピングカート(1937年登場)、自動車、無料駐車場、
店舗と自宅両方の冷蔵庫の登場が挙げられる。

ボリス・エリツィンは自伝の中で、1989年に
ヒューストンのスーパーマーケットを訪れたときのことをこう書いている。
「ありとあらゆる種類のとてつもない数の缶や箱や商品で
棚が埋め尽くされているのを見たとき、率直に言って私は
ソビエト人民のことを思い、目の前が暗くなった。
本当なら富裕な大国だったかもしれない我が国が、
あれほど貧しい状態に置かれているとは!
考えたくもないほどひどいことだ」

アマチュアamateurという言葉は、ラテン語のamator=「愛する人」や
amare=「愛する」から来ている。

ニールセン・ブックスキャンが2004年に調査した
120万タイトルの本の売れ行きを見てみると、
20万タイトルは1000部に満たず、
95万タイトルは99部にも満たずといった状況だ。
販売数5000部を超えたのは2万5000タイトルにすぎない。
アメリカの本の平均販売部数は1タイトル約500部という計算になる。
要するに稼ぐ気があろうとなかろうと、98パーセントが商売にならない。

ブロックバスターの発表によると、
貸し出される映画の約9割は劇場用新作映画だそうです。
ところが我がネットフリックスでは少し事情が違います。
約3割が新作で約7割が旧作なんです。
顧客層が違うわけじゃありません。我々がコンテンツの需要を創出し、
本当に愛せる名画を発見する手助けをしているからです。

協調フィルタリング
個人の嗜好データから、似たユーザーの嗜好データをもとに
好みの商品を推測するシステム

ロングテールを機能させるためにフィルタがなぜこれほど大事なのかというと、
フィルタがなければロングテールはただの「雑音」になる危険性があるからだ。

効果を増幅させるレコメンデーションは需要をテールへ押していくために必要だが、
実は逆に作用してコンテンツをテールからヘッドに押し上げ、
ヒットとニッチの不均衡をさらに増すのではないか。
これは口コミの増幅効果が大きい場合に起こりうることだ。
しかし実際には、ロングテール市場ではヒットとニッチの差は縮み、
べき法則分布はフラットに近づく。実はフィルタやレコメンデーションは
一つのジャンルやサブジャンルの中のニッチに対して強く影響するのだ。
ジャンルを超えて外へ飛び出すと影響力が弱まる。

レコメンデーション時代

ロングテールの集積者は、ニッチとヒットの両方を抱えなければ成功できない。
全員に欲しいものが用意されているロングテールの中で、
テールの先のほうへつづく道を照らして導く役割をヒット商品にしてもらうためだ。

マルクス主義の社会学者レイモンド・ウィリアムズは
1958年、『文化と社会』にこう書いた。
「大衆は存在しない。人々を大衆と見なす方法があるだけだ」
彼には先見の明がある。

「視聴者がテレビ局になった」グレッグ・スピリデリス

レゴ・ファクトリーでは自分の作品を画面上でデザインすると、約1週間後、
作品づくりに必要なレゴブロックや部品がセットで送られてくる。
他のファンもそれと同じセットを購入できる。
「iTMSが音楽でしているのと同じことを、
レゴ・ファクトリーはものづくりが好きな人たちにしているんですよ」

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