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『わたしを離さないで』

わたしを離さないで
『わたしを離さないで』
カズオ・イシグロ・著
土屋政雄・訳
早川書房

カズオ・イシグロの本を読むのは初めてですが、
期待にたがわず打ちのめされました。

SF的な設定を借りてはいるものの、語り口はリアルなので、
たぶんこの設定がなくても物語は成り立つ。
冒頭から語り手が大きな喪失感を抱えていることは暗示されているので、
灰色の空や道路についての描写でも、どこか孤独感がただよう。
“介護人”とは“提供者”とは“展示館”とは?
すべてのなぞが明らかになった後でも、
その答えは最初から知っていたような気がする
(ってヘールシャムの教育方針みたいだ。)
彼らほど過酷ではなくても、人生をどう生きるか、
生きていくことにどんな意味があるのか、というのは普遍的な命題。
それを静かな諦観とともに書いているところがすごい。

原文で“介護人”、“提供者”はどう書かれているのかと思ったら、
“carer”、“donor”でした。
ここで原文を見る限り、かなりシンプルな英文。
ジュディ・ブリッジウォーターは架空の歌手で、『Never Let Me Go』は
村上春樹がカズオ・イシグロに贈ったジャズCDから取ったとか。
(この二人に親交があることに驚きましたが、
インタビューでも村上春樹について語っています。
カズオ・イシグロは「この世界を子供時代のメタファーにしたかった」と言っています。)

「何か大事なものをなくしてさ、探しても探しても見つからない。
でも、絶望する必要はなかったわけよ。
だって、一縷の望みがあったんだもの。
いつか大人になって、国中を自由に動き回れるようになったら、
ノーフォークに行くぞ。あそこなら必ず見つかる、って……」


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