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『僕とライカ』

僕とライカ 木村伊兵衛傑作選+エッセイ
『僕とライカ 木村伊兵衛傑作選+エッセイ』
木村伊兵衛・著
朝日新聞社

木村伊兵衛の名前は本人の写真より先に木村伊兵衛賞で知ったわけだが、
近代写真史に大きな功績を残したカメラマンのエッセイ集。

「小学校三年生の頃に、浅草公園花屋敷前の大道で、
マッチ箱を大きくした名刺判半截の零判型カメラと付属一式つきを、
三円五十銭で買った」のをスタートとして、
「昭和四年にドイツからツェッペリンという飛行船が来て、
乗組のエッケナー博士がぶらさげていたライカ・カメラが、
しばらくして銀座の出雲商会のショウ・ウインドーに出ていたのを見て、
物を売りはらってそのA型を買った」というライカとの出会いなど、
木村自身が語る写真人生。

さらっと写したようなスナップに被写体の生活感だったり物語だったりが
写し撮られているところがやっぱりすごいわけだが、
そこにはかなり明確な写真論があり、報道写真や
絵画と異なる写真に取り組み続けてきた人らしい言葉が並んでいる。
写真史的なことや、土門拳との対談など、
素人には難しすぎてよくわからない話も多いが、
アンリ・カルティエ=ブレッソンやロベール・ドアノーとの交流についても
言及されていたり、ドアノーの案内でパリ祭を撮ったという写真が
ドアノーそっくりだったりしておもしろい。

◆読書メモ

カメラは機械である。
意志も感情もなく-一定の条件をあたえて一定の時間に
一定の空間をシャッター付けると、にべもなくきまりきった映像がとれる-。
乾板だ。フィルムだ。レンズだ。
それ等は明瞭に物質で、そしてそれ等はうたがいもなく存在している。
レンズを通して光線が入って来る。乾板或いはフィルムに感光する。
薬品は数学的である。数学的なものに依って、それはその感光膜を表わして来る。
印画紙はその化学変化を整調の黒白灰の三色によって表わす。
それを写真と言う。
そして実に、実にたったそれだけの事である。

私達は美しいと思った途端、そのシャッターをきるべきである。
そしてその美しいと思った感情が、一番正確に表わされる為に
一番正しい物の見方がそれに向かって為されなければならない。

うつってみなければ本当の事はわからないのであると思う。
それ以外にこねる理屈も理論もちっとも私達の頭にピンと来ない。

24×36ミリという一つのネガに、対象を凝結させねばならぬ、
と自分自身に約束した。この約束には、理論はない、
しかし、こうしなければ写真は撮れないものと決めてしまったのである。
写真は絵画とは異なるものであり、自然を切りとるワクを決め
瞬間をつかまなくてはならない、という私の写真論が、この約束を確固たるものにした。

ライカの持っている機動性と、レンズの描写力を計算に入れながら
一枚ですべてを語る写真を作ろうと努力した。
写真は、人の感情に訴える力をもっていなくてはならない。
そのためにはネガの面積をフルに使って対象のもつ意味を構図し、
瞬間にとらえることが必要であった。

彼(ウェルナー・ビショフ)がいつも口にすることは、
報道写真家として大きな事件を写すことはきらいで、
人間生活の小さい面を掘り下げて行くことが、
自分の一生の仕事であるということであった。
大きなニュースはその場限りだが、
世界の隅々の人間の悲しみや喜びは永遠に人の心をうつものだというのである。

カルチエさん(アンリ・カルチエ=ブレッソン)が忙しい日は、
お弟子のリブー君が万事をたくされて、
小型自動車を運転しながら私と高田くんを誘いに来てくれた。
そして、いつもいうことがハンをおしたように
「ルミエール(光線)がいいから撮影に行こう」であった。

「お前ドアノーを知っているのか」、「世話になっている」というと、
「あれは本当にいいやつだ。あの写真家はおれたちの本当の代表だ」という。
おれたちのウソ偽りのない生活を新聞に出したり、本に出したりしてくれる。
おれたちの嬉しいことも、悲しいことも知っていて、おれたちの代弁者だ。
あんないい写真家はないという。その男はドアノーの写真をもっているし、
切抜きもある。それを見せてコーヒーまで飲ませてくれた。

監督スタンバーグは、聞くところに依ると、デイトリッヒのクローズアップを撮るのに
助手や関係者を一切寄せ付けず、デイトリッヒと二人きりでスタジオに籠り、
デイトリッヒがその役柄に成り切る迄睨みっこをして、
その揚句に自分でカメラを廻すと云う事である。

根岸のうちから上野をぬけて、池の端をまわって、岩崎邸のとこから湯島へ入って、
本郷座のわきから若竹(寄席)の前を通って、学校へいくんですがね、
この道が、いかにもぐれる道なんですよ。

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