« 『ドリームガールズ』 | トップページ | 『グーグル革命の衝撃』 »

『ジャパナメリカ』

ジャパナメリカ 日本発ポップカルチャー革命
『ジャパナメリカ 日本発ポップカルチャー革命』
ローランド・ケルツ/著
永田医/訳
ランダムハウス講談社

『オタク・イン・USA』は、アメリカのオタク青年が日本への想いをつづった本だったが、
『ジャパナメリカ』は、日本のアニメやマンガが、なぜ今、アメリカで受けているのか、
アメリカ側から分析した本。
東映アニメーション、手塚プロダクション、GDH、スタジオ4℃などの
日本のアニメスタジオから、マンガの輸出を行なっているトーキョーポップ、
スーザン・J・ネイピアのような日本のアニメ研究家、日米のオタクたちまで
幅広く取材し、答えを探ろうとしている。

私は“クールジャパン”にはひどく懐疑的で、
日本政府がアニメやマンガを本気で輸出しようとしているのを
かなり冷めた目で見ていたのだが、著者は、
「アニメやマンガが高く評価され、求められているのに、
日本側はコンテンツとして、知的財産として輸出することができずにいる」
と、経済やビジネスの問題として指摘している。

「『ポケモン』はアメリカに輸出された日本のアイデアだった。
小学館とその提携会社が、アメリカの配給会社であるフォーキッズに、
数百万ドルも“横取り”されたというエピソードは、アニメ業界でよく知られている。」

日本のアニメ制作者たちが、過酷な労働に長年耐え、
成功に見合うだけの報酬を得ていないこともアメリカ側から見ると
非常に奇妙なことだと言う。
「日本企業は概してアイデアを生み出す者に気前の良い金銭報酬を与えてこなかった。
ハローキティをつくった女性やたまごっちのアイデアを出した女性は、
日本以外の国では大金持ちになっていたはずだが、実際は大金持ちではない。」
パックマンの発明者、岩谷徹が、平凡な住宅地に住む、
中年サラリーマンであることも驚きをもって書かれている。
「日本以外の国なら、今頃はゴルフ場にいて、二度と仕事をしなくていい身分に
なっていることを本人も十分承知しているはずだ」

押井守、大友克洋、荒牧伸志、庵野秀明ら世界的に認められた
アニメ作家は、ほとんどが60年代生まれであり、
後継者がいないのに、若いアニメーターが育つ環境がない。
このままでは、世界で起動に乗る前にアニメ産業が廃れてしまうのでは
と著者は懸念する。一方で、グローバル化のために、
日本アニメの良さが失われてしまう可能性も指摘している。
「日本人は他の国の人にどう思われるかを気にし過ぎるとき、
本当に好きなものを作らなくなってしまう。自意識過剰は芸術を駄目にする。」
(アメリカ人作家マット・アルト)

すばらしい作品を作った日本のクリエーターたちが
金銭的に正しい見返りを得ていないというのは、その通りで、
日本のアニメ産業の大きな問題点だろう。
海外で大成功した『ポケモン』ですら、輸出による利益を
きちんと得ていないという話も驚きだ。
日本がアニメやマンガをコンテンツとして輸出できるようになれば、
クリエーターたちはその賞賛に見合うだけの
金銭的成功を手に入れられるようになるだろう。
そう考えると“クールジャパン”の取り組みもそれほど奇妙には思えなくなる。
むしろ、今、積極的に道を作らなければ、
日本のアニメ自体が弱体化するかもしれないという考え方は
なかなか衝撃的だった。

「原爆が引き起こした社会の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を
マンガやアニメ作家がテーマにすることで、日本は“終末後を生きる社会”となった」
という村上隆の説は、たしかにちょっと単純すぎるけど興味深い。
そして、9.11以降のアメリカがトラウマに満ちた時代を迎え、
日本のアニメ世界をより受け入れるようになったのでは、という著者の考えも
ちょっと単純すぎるけれど、一面、当たっているところもあるかもしれない。
(それよりは、『ポケモン』などの下地で育った今のアメリカの子供たちは
日本のアニメやマンガを受け入れることに抵抗がないという話の方がわかりやすい。
受けるものは日米問わず受けるし、オタクはどこにでもいるんじゃないか?)

『アフロサムライ』でアメリカで本格的にアニメを展開しようと模索するGDHなど、
著者が会った人たちの話はそれぞれ日本のアニメを考える上で参考になる。

◆読書メモ

アトムが特に日本人らしいのはどんなところだろうか。
答えは驚くほどはっきりしていた。「アトムは悩んでいる。
そして心配する。すごく心配する」(手塚プロダクション・清水義裕)

清水氏は日本のアニメ全般の特徴である「あいまいさ」について語ってくれた。
『機動戦士ガンダム』から『攻殻機動隊』まで、今日に至るアニメ作品は総じて、
明確に定義できるジレンマ、道徳、解決策のすべてを欠いているのである。
日本には道徳を規定する中心的宗教がない。日本の仏教にも、
日本独特の信仰である神道にも道徳的行為を定める戒律はなく、
また、人生の生き方を指導する聖書もない。前後関係や、特定な状況において
どのように行動するべきか、が重要視されているのだ。

ジブリは日本の会社として、海外で利益を上げた注目すべき例外であることは
間違いない。もう一つの例外はサンリオであり、
ハローキティを箱入り娘のごとく厳重に守っている。

「(『もののけ姫』制作エピソードについて)
ちょっとした映像でアシタカの方が体重が重く、体が大きく身のこなしは
少し不器用でいて、それでも力強いことが伝わる。宮崎はこう言う。
『視聴者はこうした細かいところに気付いているとは意識していない。
けれども、実際には気付いていて、潜在意識のなかに根付いている。
視聴者はその雰囲気が分かるのだ』と。」

「アメリカでは『ポケモン』に関して何度も訴訟を起こした。任天堂アメリカには
素晴らしい弁護士のチームがいる。そうしなければ、我々は生き残れなかった。
そして私はもう一つ教訓を得た。アメリカでは成功すると訴えられる。
アメリカで誰にも訴えらていなければ、まだ成功していないという意味ですよ」
(小学館・久保雅一)

「日本には、着物や鳥居のように、線だけで世界を捉えるものの見方があります。
ヨーロッパでは、光と影を利用してきました。そのため、欧米人は昔から平面より、
立体とその量感に注意を払ってきたんです。欧米人は線にあまり注目しません。
日本人は線を使って形や輪郭やアイデアを表現することを学んできたので、
形で遊ぶのが得意です。形というのは、少し変えても同じに見える。
日本人はそのことを理解しています。でも、欧米人は光と影で物事を考えます。
光を変えると、全てが変わる。日本人は、いくら形を変えても元の要素は残る、
というように理解しています。」(スタジオ4℃・田中栄子)

「2005年、シーグラフで『9』という作品がベストストーリー賞を受賞した。
映画監督のティム・バートンが、すぐに映画化したいと言った。
しかし、受賞者は、本当は日本で仕事がしたかった。
しかし、我々は彼に働く場所を提供できなかった。
ほんとうに情けない」
(東京アニメセンターの設立について。小学館・久保氏)

« 『ドリームガールズ』 | トップページ | 『グーグル革命の衝撃』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/27590/6824084

この記事へのトラックバック一覧です: 『ジャパナメリカ』:

« 『ドリームガールズ』 | トップページ | 『グーグル革命の衝撃』 »