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『カネと野望のインターネット10年史』

カネと野望のインターネット10年史―IT革命の裏を紐解く
『カネと野望のインターネット10年史―IT革命の裏を紐解く』
井上トシユキ/著
扶桑社

昨日、NHKの特報首都圏で『ネットの“祭り”が暴走する』という特集をやっていたが、
コメンテーターとして呼ばれていたのが、著者の井上トシユキ氏だった。

1996年からのインターネット黎明期10年間の舞台裏を追った本。
日本でインターネットの商用利用が開始されたのは1994年。
1995年11月にWindows95発売。
1996年1月、ヤフージャパン設立。
1996年4月、ライブドアの前身オン・ザ・エッジ創業。
携帯電話、PHSが普及し、インターネットが一般的に浸透したのも1996年からだという。
インターネットはまだたかだか10年しか経っていないのだ。

変化が速すぎて、この10年、何が起こったのか、もうよくわからなくなっている。
ドクター・キリコ(1998年)、東芝クレーマー事件(1999年)、光通信(2000年)って
言われても、「どんな事件だったけ?」とか、「もうそんな昔の話ですか?」という感じ。
インターネット事件簿をていねいに追っていけば、
それなりにおもしろかったのではと思うのだが、この本が中心としてるのは、
「IT革命」、「インターネット・ファディズム」と呼ばれた
ネットバブルの裏にあるお金をめぐる話。

80年代バブルを経た人々が、次の金儲けのチャンスとしてIT革命の名の下に
実績のないベンチャー企業を上場させ、ネットバブルを起こしたと語り、
リキッドオーディオ、MTCI、光通信などの例があげられている。
つまり、「新興株式市場が闇社会の資金調達源になっている」訳なのだが、
このへんの経過は“関係者から聞いた話”として書かれているので、
噂話の域を出ておらず、説得力に欠け、週刊誌の記事のようだ。

該当する事件についてもあちこちボカされたり、説明不足だったりするので、
事件自体の詳細を知らないとわかりにくい。
たとえば、
「雑駁に言うと、玩具メーカーが商標登録を申請したのは「なんだと?」と
混ぜっ返すキャラクターであり、A社のそれは「おまえもな」と
自分勝手や視野狭窄な論理をたしなめるキャラクターであった。」
という部分の「玩具メーカー」とは「タカラ」で、キャラクターは「ギコ猫」、
A社はエイベックスで、キャラクターは「モナー」であるが、
のまねこ騒動を語る上で、固有名詞を隠す理由がよくわからない。
この本を読む人なら、知ってて当然の事件かもしれないが、
2005年に起きた、のまねこ騒動でさえ、すでにかなり懐かしい話であり、
そんなこともあったねーという感じなのだから、説明は必要なのでは。

ライブドアの堀江氏については、著者が2004年にインタビューをしており、
思い入れも強いらしく、ページを割いて創業から事業拡大までを追っている。
私は全然知らなかったのだが、超有名サイトだった『komuro.com』を
手がけたのは創業直後のオン・ザ・エッジだったそうだ。
名前こそ書かれていないものの、創業時のパートナーだった女性についても
書かれている。(彼女は株式公開に反対し、袂を分かち、
別会社でウェブデザインの仕事を地道に続けている。)

『komuro.com』って、いやー、なんかすごく懐かしいですね。
オシャレだけど、Shockwaveがウザかったなーとか、
華原朋美、SPEED、globe、って細かくサイトが分かれてたり。
まだ、ホームページっていってもasahi.comとかアメリカ大統領のサイトとかが
知られていて、URLがわからなければどこにもたどり着けない時代で、
komuro.comっていうわかりやすさが笑えたり。

2002年頃については、
「その頃、ブロードバンドが普及すれば、来日しないアーティストのライブが
インターネット経由で見ることができる、と謳われていた。
どうせリアルタイムで見るならライブ(生演奏)のほうがいいし、パソコンで見るなら
リアルタイムではなく、好きな時間にオンデマンドで見れたほうが魅力的だ。
コンサートが行なわれている海外現地との時差を計算し、パソコンデスクの前に座って
「ライブ演奏の熱狂」を見るなんて、よくよく考えればバカバカしいことこのうえない。」
と書かれているんですが、この頃の閉塞感というか、
ネット回線が速くなったところでいったい何をするんですか?
という気分は覚えてる。常時接続(っていう言葉自体がもう古いですね)や
検索エンジンがその後、ネットのあり方を大きく変えてしまうわけだけど、
当時は、ストリーミング映像がキラーコンテンツといわれてもピンとこなかった。

著者は、
「このときに挙がった「使えるコンテンツ」とは、エロやエンターテインメント系の動画、
音声ダウンロード、エロ系のコミュニティ、それにカネ儲けにまつわるもの、だった。」
と書いているんだが、私としては、むしろ違法mp3のダウンロードとか
winnyがキラーコンテンツにだったのではと思う。

◆読書メモ

人々がインターネットに本当の意味で求めていたのは、(中略)
お買い得商品やネットトレードや関係性を狂言回しに、
一体となって繋がりを実感できる「場」だったのである。

現実には存在しない幻想だといわれた共同体を、幻想であるはずの
インターネットの中に求め、つくりだしていく。
ユーザーからの多大な支持を集めたのは、人々が共同体の中で
他人と繋がることを実は希求しており、その望みを実現するには
現実世界ではなく、インターネットのほうが適していると
肌で感じ取ってしまったからではないだろうか。

光通信
3月15日の記者会見では、00年8月期の業績予想を上方修正するとまで発表した。
そのわずか2週間後、3月30日に今度は一転して、00年8月期の業績予想を
下方修正すると発表。中でも衝撃的だったのは、営業利益を60億円の黒字予想から
130億円の赤字予想へと修正したことだ。その差、実に190億円。

ネットビジネスの2大巨頭(ライブドア、楽天)が演じる蹉跌を細かく見ていくことで、
インターネットが国家のインフラであり、そこには現実世界と同じように
経済や政治の力が働いていることがわかる。
これまでインターネットは新しく特別なものとし、現実と対をなして存在する
仮想現実だと区別し、信じ込んできたのは根本的に間違いだったのである。
インターネットを特別だと思うのは、物心がついた頃には
インターネットも携帯電話もなく、部屋に居ながらにして買い物ができる、
どこにいても友達と電話ができるということを、
SFの話として「ヴァーチャルに」想像してきた世代の発想だ。

ライブドアと2ちゃんねるは、はからずも地上と地下を塞いでいた扉も
開けてしまったということだ。そして、インターネットを通じて
カモとして食い物にされたのが、訳知り顔でインターネットにやってきた、
投資熱に浮かされた中高年だったというわけである。

欧米で「監視=サーベイランス」と言った場合、
「管理」とともに「保護」という意味合いをも含むのが常だ。
つまり、「善意の人に対する危険」と「悪意を持った人による犯罪」とは、
同じように「未然に防ぐもの」であり、
社会全体のセキュリティを確保しようとするからこそ「公による監視」も必要なのだ。

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