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『生物と無生物のあいだ』

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
『生物と無生物のあいだ』
福岡伸一/著
講談社

現在、ベストセラー邁進中の分子生物学についての本。
前半は科学者列伝ともいうべき内容で、
ニューヨークのロックフェラー大学を中心に、
かつて在籍した野口英世の再評価、
オズワルド・エイブリー、アーウィン・シャルガフから
ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックに続くDNA発見物語、
PCRを発明したキャリー・マリスの伝説などが語られる。
ここの部分がめっぽうおもしろく、特にDNA発見に多大な貢献をしながら、
それを知ることもなく若くして亡くなったロザリンド・フランクリンの話は、
彼女の地道な研究スタイルが語られているだけなのに、
憂いのある知的美人といった感じの写真とともに印象に残る。

前半が「生命とは何か?」という問いに対し、
「それは自己複製するシステムである」という答えを
DNAの発見によって導きだす話だとすると、
後半は、その答えだけでは定義できない部分、
「生命とは動的平衡にある流れである」という答えをめぐる話。
ここらへんになると、急に難しくなり、ジグソーパズルや砂の城の例え、
ていねいな実験方法の説明はあるものの、ついていくのがやっと。
それでもこの手の本にしては格段に読みやすく、
生命というものがいかに科学的にできているか、なおかつ、
科学では説明しきれないダイナミックさに満ちているか、感嘆する。

全体的に情緒的すぎる文章ではあるが、
それがこの本の最大におもしろいところでもある。
ニューヨークのロックフェラー研究所、ボストンのハーバード大学医学部、
それぞれの場所で研究を続ける著者や同僚、先輩科学者たち。
アカデミックであり、地味であり、静かな情熱と暗い競争。

新しいタンパク質の発見をめぐってライバルチームと競争していたある日、
著者が研究所に着くと、同僚が「知ってるかい。とられちゃったんだよ」と言う。
取られたのは、彼らの研究ではなく、研究所のすぐ近くにあり、
著者が毎日目の前を通っていた美術館のフェルメールの絵画『合奏』なのだが、
分子生物学には何の関係もなくみえるこのエピソードが、
彼ら研究者を象徴するものとして、ひときわ輝いている。

「その年の秋、私たちのチームは目的とするGP2遺伝子の特定と
その全アミノ酸配列をアメリカ細胞生物学会で発表した。
ライバルチームもその同じ学会で私たちとまったく同じ構造を発表した。
同着だった。ヒト・ゲノムの全貌が明らかになった今となっては、
それはジグソー・パズルのささやかなワン・ピースでしかない。」

◆読書メモ
ラホイア(La Jolla) スペイン語で宝石を意味する


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