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『大聖堂』

大聖堂 (上) (SB文庫)

大聖堂 (中) (SB文庫)

大聖堂 (下) (SB文庫)


『大聖堂』
ケン・フォレット/著
ソフトバンク クリエイティブ

建築関係のサイトでオススメ本として紹介されていたものの、
新潮文庫版はすでに廃刊。SB文庫から復刊されたのを購入。
上・中・下巻、あわせて6センチの厚さという長編。
上巻、中巻は一気に読んだのですが、
忙しくてなかなか下巻に手を出せなかったのを夏休みにやっと読了しました。

大工のトム・ビルダー、謎の女エリン、エリンの息子ジャック、貴族の娘アリエナ、
伯爵ウィリアム・ハムレイ、修道士フィリップ、司教ウォールラン・バイゴッド
大聖堂建設をめぐる人々の壮大な物語。
作者が言うところの「愛と憎しみ、野望と貪欲、
欲望と怨恨と復讐とのヒューマン・ストーリー」というアオリは決して大げさではなく、
延々と続く宿敵同士の対決と復讐にわくわくします。
特に、ウィリアム・ハムレイがアリエナによせる、屈折した愛と欲望は、
どこまでも悪役である彼を非常に魅力的なキャラクターにしている。

「あなたはあの女を愛しているのか憎んでいるのか、いったい、どっちなのだ?
わたしにはさっぱりわからぬ」
「そうだろうな」と、ウィリアムはこたえた。「おれにだって、わからない」

敬虔な修道士フィリップが、自分なら人々の生活を改善できると思い、
修道院長をめざし、大聖堂の建立を願い、
その結果、政治に巻き込まれていくあたりもうまい。
国王の前では教会は力に勝てないのかと絶望しかかった彼が
最後に見出した希望は、神ではなく民衆だった。
(フィリップをめぐる政治対立に、スティーブン王とモードの内戦、
トマス・ベケット司教殺害など、イングランドの歴史がからむ。)

大聖堂はなぜ建てられたのか?、どうやって建てられたのか?
という疑問も小説の中でていねいに説明されている。
(たとえば、中巻では、石切り場の権利をめぐって争いが起きる。
羊毛を売った金で大工に賃金を払うのだが、
飢饉や災害で羊毛が売れなくなると、大聖堂の建設がストップするのだ。)
大聖堂のデザインの意味や、尖頭アーチの発明、
リブ・ヴォールドやフライング・バットレスの誕生が描かれ、
当時の大工たちがどうやって図面を描いていたのかまでわかる。

「トムの描いた身廊は高い。おそろしく高い。
大聖堂は人びとの感動を喚びさます建造物でなければならないのだ。
その大きさによって畏怖を感じさせ、その高さによって、
見る人の眼を天に引き上げるのである。
人びとが大聖堂にやってくる理由のひとつは、
世の中にこれほど大きい建物がほかにないからである。
大聖堂に行かないとしたら、その人は自分の住んでいる家と
大差ない大きさの建物しか見ずに人生を送ることになりかねない。」

「すべての大聖堂と教会堂のほとんどの平面図は、十字形をしている。
十字がキリスト教のもっとも重要なシンボルであることは、いうまでもないが、
そのほかに実利的な理由もある。袖廊をつくることで、付属礼拝所や、
聖具室とか香部屋といった付属室のための、有用なスペースが得られるからである。」

大聖堂の建設には30年以上かかっており、上巻ではまだ図面だけ。
10歳の少年だったジャックが、トム・ビルダーの後を継ぎ、
最終章では50歳を超えた建築職人になり、大聖堂を完成させる。
オープニングの謎が最後にはすべて明らかになって
運命の輪が一回転して綺麗な円を描く、その快感。

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