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『フィロソフィア・ロボティカ』

フィロソフィア・ロボティカ ~人間に近づくロボットに近づく人間~
『フィロソフィア・ロボティカ 人間に近づくロボットに近づく人間』
櫻井圭記/著
毎日コミュニケーションズ

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の脚本を担当した
櫻井圭記によるロボット論。AIBO、ASIMO、HRP-2など実在のロボット、
哲学者、数学者、SF小説の文献を参照しながら、
サイエンスとフィクションの狭間、ロボットはどこまで人間に近づけるのかを考察する。

「ロボットを道具としてとらえ、ひたすらにその作業効率を追求するのであれば、
そのロボットが二足歩行型であったり、あるいは会話能力を備えていたり、
自律的に動き回ったりする必然性はないはずであろう。
しかし、技術がそれを可能にした際に、
我々は「アンドロイド」をつくらずにいられるだろうか。
そしてそうしたアンドロイドが登場したときに、それに感情移入をする者を、
我々は笑うことができるだろうか。」

『攻殻S.A.C.』において、著者が脚本を担当した
第3話『ささやかな反乱 ANDROID AND I 』はよく覚えている。
あからさまなゴダールの引用がいかにも映画青年っぽいなと思ったら、
まだ大学生が脚本を書いていて「なるほど」と納得した。
(話はとてもおもしろいんですが、なんつうか映研の作りそうな話だった。
まあ、印象に残ったから著者の名前も覚えていた訳ですが。)

東大出身で、社会学にかぶれまくった著者の文章や広範囲にわたる引用は、
何もこんな言い回しをしなくてもと思うところも多かったり、
“人称代名詞”に対するこだわりはコジツケじゃないのと思ったりもするが、
指摘していることはいろいろおもしろい。

ここでいう著者の“人称代名詞”論とは、
アップル製品に見られるiMac、iBook、iPod、iTunes、
Windows Me、i-mode、i-appliは、I、Meといった「一人称」で、
ケータイやパソコンは「私」を拡張するツールである。
AIBOは「相棒」の言葉遊びで、ロボット技術は「二人称」、
「IT」は「三人称」の技術である。
ゲーム機「Wii」、YouTubeは、一人称複数(We)、二人称を彷彿とさせるが、
これが意味するのは、新しい人称「四人称」なのではないか、という説。

「本来であれば三人称複数の「they」とでもアドレスされるべき匿名の相手をも
「我々」の一員とみなし、「我々」の範疇に取り込もうとする態度が、
その命名には見て取れるのだ。」

「何とでも名づけられたであろうこの電子情報社会の産業インフラを、
「IT」と呼ぶと決めた際に、そこに「それ」という言葉をもじろうという心理が
確かに働いたかもしれないという気はする。
おそらく、Information Technologyという既存の言葉を略すことで、
「IT」という言葉が産まれたわけではない。
逆に、「IT」(=それ)と呼びたいがために、それに合致する単語の組み合わせを
あれこれ考えた際に、その二語の組み合わせに最もふさわしかった候補が
「Information」と「Technology」だった、という順序なのではないか。」

「YouTubeという命名に再度着目してみれば、
それがiTubeではないということの含意は改めて大きいと言わざるを得ない。」

チューリング・テストという言葉は知っていたけど、
(コンピューターと本物の人間と判定員をそれぞれ隔離された部屋に入れて、
判定員の質問に人間と機械が答える。会話を通して、判定員が
人間と機械を区別できなければ、機械は人間と同じ知能をもっているとみなす)
実際にチューリング・テストを行なう国際大会
ロブナー・コンテストがあるとは知らなかった。

人間のようなふりをするロボットの実例、プログラミングされたロボットの動作に
“意志のようなもの”を勝手に読み取ってしまう人間の例、
『超人類へ!』にでてきたサイバー化する人間の例など、
人間に近づくロボットと、ロボットに近づく人間があげられているのだが、
最終的にロボットと人間の差異を『攻殻』の“ゴースト”に求めているところがおもしろい。
話があっちこっち行って、ロボットとは関係のない話も多いが、
「吉野紗香に草薙素子はできない」と思う『攻殻』ファンは読むべし。

「自由にアクセスできる情報ネットワークや、すべてを目に見える形で記述して
保存することができるデータベースが浸透した状態になると、
本人でさえまったくアクセスできず、目にも見えず、記述もできない、
抽象的な概念に、自分という存在の根拠を全面的にゆだねなければならなくなる。
すべてが支配可能となったときに、人は「決して支配し得ないもの」に、
己の準拠点を見いださねばならなくなる。
ゆえに人は支配可能なサイバースペース内において、決して支配し得ない
「ゴースト」を持たずにはいられない。」

「ロボットがどこまで人間に近づけるだろうか。
ロボットに魂(知能)が宿ることがあるのだろうか、というクリシェは、
我々はそもそも魂(知能)を持っているのだろうか、
という問いにダイレクトに跳ね返ってくる。
ちょうど、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に登場する
ロボットであるタチコマの「ロボットであるボクらにゴーストが宿ることはあるのか」
という問いが、映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の草薙素子の
「人間である私にはそもそもゴーストがあるのか」という問いと、
反転した関係を成していたように。」

付録の『ロボットとフィクションの関わり』年表もなかなかおもしろい。
『ロボット・カミイ』が入っているところが私的にはポイントが高い。
年表作成者のひとり、福富忠和氏は『攻殻』のDVDにおいて、社会学論的な、
『攻殻』と関係あるようなないような解説を書いていた。

◆読書メモ

SFなどにおいて繰り返し描かれてきた「人間VSコンピュータ」という伝統的な図式は、
コンピュータの裏切りに対する我々の裏切るんじゃないかな、という「興味」によって
はじめて可能になるものであることが改めてわかる。
将来、仮に現実問題としてコンピュータが人間に対して
反乱を起こすことがあるとしたら、それは人間の側が、
コンピュータに自分の予測し得ない意外性を求めるあまりに、
どこかで自分を裏切るようにプログラムしてしまうからであろう。

電源を入れたばかりの状態では、AIBOは寝そべったままでいるが、
ユーザーと数日間遊ぶことにより、やがて、四足で立ち上がるようになり、
次第に歩行を開始するようになる。さらに、その歩き方も、はじめのうちは
かなりヨチヨチとした、たどたどしい歩き方でしかないのだが、
ユーザーがAIBOとのふれあいを繰り返すと、やがて足取りはしっかりしてくる。
この四足による歩行は、開発の初期からうまくいったわけではなかったのだという。
しかしそのうちに、技術開発のそれぞれの段階において実現した歩行パターンと、
AIBOの成長という要素をうまく組み合わせられるのではないか、
という発想が生まれた。ゆえに、それ以後は、
印象に残る歩き方のプログラムは捨てないようにして、
開発の途中経過もAIBOの成長段階の途中経過として表現することに成功したという。

興味深いのは、AIBOにおいて再現されている動作や、
成長過程における多くのステップは、実際のイヌにおいては観察されないものである、
という点である。AIBOにおいて再現された成長過程の多くは、子犬ではなくて、
人間の赤ちゃんや子供を参考にしているという。

巌谷國士によれば、当時の人形技師において、
自動人形は不思議なものを作ろうという意志から作られたのではなく、むしろ、
人間というのは機械なのではないかという疑念に基づいていたのだという。

ピクサーも当初は、普通の人間のキャラクターを3DCGで再現しようとしていたのだが、
どうしてもカクカクとしたCGのポリゴン感が残ってしまうことに辟易していたのだという。
どうしてもその技術の壁が突破できなかった製作サイドは、
ならばいっそカクカクと動くおもちゃだという設定のストーリーをつくればいいのでは
ないだろうか、と発想を逆転させたのであった。

「サイバースペース」とは、ウィリアム・ギブソンのSF小説『ニューロマンサー』において
登場し、以後、現実のメディア社会の用語としても転用された経歴を持つ造語である。

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
電脳という人間の脳がコンピュータ・ネットワークに接続されている、という状況が
日常茶飯事化した時代において、人々は「スタンド・アローン」すなわち、
ネットワークに接続されていない状態をあえて選択するかもしれない。
「コンプレックス」=「複合体」、「固定観念」「強迫観念」
情報ネットワークから離脱することを選択した個々人の群れが、
大きな集団を形成している様子。同時に、情報ネットワークから孤立した人々が、
やはりどうしようもなく孤立していることに焦燥感を覚えている様子。
このタイトルには、スタッフが託した、そうしたダブル・ミーニングの意図を
読み取ることが可能であろう。

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