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『知られざる日本の恐竜文化』

知られざる日本の恐竜文化 (祥伝社新書 80)
『知られざる日本の恐竜文化』
金子隆一/著
祥伝社

毎年、何十万人という観客を集めている恐竜展。
恐竜図鑑や恐竜グッズが次々と発売され、
アメリカをのぞけば、ここまで恐竜に関心をもっているのは日本人だけだ。
しかし、日本人は本当に恐竜が好きなのだろうか?
成功しているように見える恐竜展でさえ、
ビジネスとして儲かっているわけではないし、学術的に信用できない展示もある。
恐竜ブームと言われる一方で、日本人の多くは恐竜の正確な定義すら知らない。
巷にあふれる恐竜イラストはパクリが横行し、骨格を無視したものが多い。
恐竜本の多くは、権威筋の監修に頼り、古い学説と安いイラストで作られている。
と、日本の恐竜文化の実像を批判し、本当の恐竜学を問う。

著者は、テレビ番組『恐竜惑星』や、雑誌『恐竜学最前線』、『ディノプレス』、
恐竜展などイベントの監修を手がけたこともあるそうで、
経験に基づいた恨み節が満載。
(ちなみに、「萌え」の語源が、『恐竜惑星』のヒロイン、鷺沢萌であるという説を
著者自ら否定している。)
文章力のある人なので、恐竜ビジネスの裏側として、おもしろく読めたが、
さすがにこの恨み節にはゲンナリする。

ある出版社が恐竜本のために画家に発注した料金は総額300万円だった、
と著者は嘆くのだが、本のイラスト代で300万円が安いとも思えないんだけど。
(図鑑本で1冊3000円、1万冊刷ったとして(恐竜本はそんなに売れないだろうけど)
3000万円。その10分の1がイラスト代って、むしろ高いんじゃない?)

何より、どうかと思うのは、著者が恐竜ファンにヒエラルキーを持ち込み、
恐竜展に足を運び、市販の二次情報、三次情報で満足している人々を
“第一次段階の初心者”と呼び、ほとんどバカにしていることである。
著者にとって、本当の恐竜ファンは、一次情報(海外の恐竜学の論文)を
読むべきであり、「これをやらない人間とは、恐竜を語るに値しない」と言い切る。

ネットでこの本の感想を見ていたら、
「難しい恐竜学の話をわかりやすく解説してくれる著者の本が好きだったのに、
そんな自分は第一段階の恐竜ファンにすぎないと否定されてショックだった」
という意見もあった。そりゃそうだよねー。
普通のファンは、たぶん論文なんて読まないし、
恐竜ファンの不勉強を嘆くなら、著者がやるべきことは、
彼らを否定するのではなく、彼らの底上げを図ることだろう。
(実際にそのために作った雑誌が廃刊になったことで、
著者にしてみれば恐竜ファンなんて当てにできない、
裏切られたみたいな気持ちもあるのだろうけど。)

イベント会社やマスコミ、イラストレーターたちが
恐竜について何も知らないと怒っているけれど、
著者のアニメや特撮に対する知識だってずいぶん怪しい。
「著者にとって、むしろそれらのジャンル(アニメや漫画)は、
唾棄すべきSFへの寄生虫であり、SFの貴重な財産を
無為に食いつぶす敵でしかなかった」そうだが、
『プロジェクトA子』を「日本人でも古参のオタク以外は
名前も聞いたことがない」と言っていたり、
「ディズニーやピクサーが興行成績ばかり大きい空疎な作品を繰り出してきても、
そこには宮崎駿や庵野秀明や押井守の
千分の一、万分の一のクリエイティヴィティが認められるわけでもない。」
と語っているあたりで、著者のアニメに対するレベルがわかる。
「『ゴジラ』シリーズが2006年まで継続している」という一文だって、
『ゴジラ FINAL WARS』の公開は2004年なのだから、
ちょっと調べれば、間違いだとわかる。
結局、人は自分の好きな分野以外なんて、その程度なのだ。

著者の矛先は恐竜学にもおよび、
分枝分類に固執する現在の古生物学を批判している。
最後に著者は、社会は本当のところ恐竜学を心から必要としておらず、
ビジネスにもならない、恐竜オタクはオタクとしての道を極めるべきだと
絶望にも似た悟りを語っている。
「本書ではオタクという言葉を、自らの興味の対象に対してどこまでも果てしなく
研鑽を積み重ね、さらに広い領域へと知識の幅を広げていく、
知的パイオニアというほどの意味で使っている」と言うが、
恐竜マニアをオタクと呼ぶことに最後まで抵抗を感じているのは
著者自身だったことも伺える。

いろいろ書いてきましたが、隕石によって恐竜が絶滅した説は、
今では疑われていることが詳しく書かれていたり、
『ゴジラ』の山根恭平博士の台詞がなぜおかしいのか、
『ゴジラ』が日本人や海外の研究家に与えた影響、骨格の分析、
『恐竜学最前線』、『ディノプレス』の編集者、井上正昭氏に対する想いや
原形師、松村しのぶ、イラストレーター山本聖士の紹介など、
おもしろい話も多いので、一読の価値はあると思う。

◆読書メモ

米コーネル大学の故カール・セーガンによれば、われわれの深層心理には、
遺伝子レベルで刻み込まれた爬虫類への反感が潜んでいるという。
恐竜が地上を支配していた中生代、われわれの遠い祖先は、
ネズミのような姿をして恐竜の足元に隠れ潜む、か弱い小動物にすぎなかった。
小型恐竜のなかには、ひじょうに視覚機能が発達し、
夜間でも哺乳類を捕食するものがいた。これらの恐竜に追い回された時の恐怖が、
哺乳類の脳裏にあまりにも深く、鮮明に刻み込まれたため、
今でもヒトはヘビを怖がり、世界中の民族の神話や伝承のなかに、
悪の象徴、神秘的な力の象徴としてのヘビやドラゴンが頻出するのであるという。

アメリカやカナダの研究者には、日本に負けず劣らず熱狂的な怪獣マニアが多い。
カナダのロイヤル・ティレル博物館のドナルド・ブリンクマン博士は、
モンゴルの白亜紀前期の地層から発見されたカメの化石に、
シネミス・ガメラと学名をつけた。

ロバート・バッカー博士は熱狂的な軍艦マニアである。
日本の恐竜展の主催者に対し、日清・日露戦争で活躍した
旧帝国海軍の巡洋艦「吉野」の設計図を手に入れてくれれば、
無料で恐竜展の監修を引き受けてもよい、という条件を提示してきたという逸話がある。

ニューヨークのアメリカ自然史博物館の一階ホールには、
海洋堂の松村しのぶによる、バロサウルスの親子と
アロサウルスのフィギュアが展示されている。

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