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『エレクトリックな科学革命』

エレクトリックな科学革命―いかにして電気が見出され、現代を拓いたか
『エレクトリックな科学革命 いかにして電気が見出され、現代を拓いたか』
デイヴィッド・ボダニス/著
早川書房

電信に始まり、ベルの発明した電話、エジソンによる電球から、
無線、レーダー、コンピューター、さらには脳の中の伝達物質まで、
電気と電子をめぐる人物を中心とした歴史物語。

本当の意味で電信を発明したのはジョセフ・ヘンリーで、
モールスは抜け目なく特許を横取りしたとか、
グレアム・ベルは聴覚障害を持つメイベルと結婚するために、
電話を発明したとか、エジソンはベルの電話を模倣したが、
電球を発明し、発電所、スイッチなどの多数の開発に追われると、
他人の特許を真似ることはなくなり、真の発明王となったなど、
おもしろい人物エピソードが満載。

「彼(ベル)を駆り立てたのは、貪欲さでもなければ、権力への意志でもなかった。
彼がこの発明を成し遂げたのは、彼が恋をしていたからである。」
(ベルは聴覚障害者に話し方を教える教師であり、
彼の祖父は発声法の専門家で、ヘンリー・ヒギンズ教授のモデルだった。
彼は発声の技術を応用し、声を電信で伝えることに成功し、電話を発明した。)

ファラデーが構想した“力場”を、何年も後になってから証明することになる
海底の大西洋ケーブルの敷設や、イギリスとドイツのレーダー戦争の話は、
臨場感あふれるノンフィクションだ。

「1866年に敷設を試みたものの失敗に終わった大西洋ケーブルは、
そのまま放置されており、今もなお海底に横たわっている。」

なかでも、コンピューターの原形を構想しながら、同性愛を非難され、
青酸カリ入りのリンゴをかじって自殺したチューリングの話は特に心に残る。

人物伝の一方で、目に見えない電気の仕組みや電磁場について、
数式をまったく使わず、わかりやすく解説。
電信によって、情報が瞬時に伝わるようになり、時間の意味が変わった、
夜のあまった発電能力の利用法として遊園地がつくられ、
若者の交流方法が変わった、といった調子で、
電気による発明がいかに社会を大きく変えたかが綴られている。
読み終わったときには、現在の私たちの生活が奇蹟のように感じられ、
宇宙から飛んできて空間に満ちている電子が見えるような気になる。

◆読書メモ

エジソンをはじめ大勢の技術者がやったように、これと同じ原理で
もっと大型の装置を作れば、回転する金属棒は、一トンを超える重量の
エレベータでさえも、高層ビルの昇降路のなかをまっすぐに持ち上げられる
力を発揮するだろう。
これは、高層ビルにとっては極めて大きな意義があった。
強靭な金属製の梁も当然必要だったが、利用者が数十階ぶんもの階段を
足で登らねばならないのならば、そんなものを建てようという意欲など沸くはずがない。

彼(マイケル・ファラデー)は、「わたしたちが読まねばならない自然の書物は、
神の手によって書かれている」と記したことがある。

あるとき、若く聡明な女性が、ファラデーの電気に関する発見が
彼女自身の研究に対して大きな意味を持つかもしれないと、深い関心を抱いた。
この女性は、英国詩人、故バイロン卿の娘で、
ラブレス伯爵夫人エイダそのひとであり、彼女は、今で言う
コンピュータ・プログラミングの先駆的な研究を行なっていた。
当時の技術では、彼女が思い描いたものを完全に構築することは
とてもできなかったが、もしもファラデーが彼女と協力したなら、
どんなアイデアを思いついていたかは誰にもわからない。
彼もエイダにとても強く惹かれたようだが、
自分の結婚生活を守るためであろう、まもなく彼は身を引いた。

すべてのプロパガンダは、国民に訴えかけるものでなければならず、
その知的水準は、語りかける相手のうち、最も劣った者の受容能力に
合わせねばならない。より多くの人間に届けたいのなら、知的水準を
より低く設定しなければならないだろう……。どんなに恥知らずなほら話をしようが、
その一部は必ず相手の心に残るであろう。
(アドルフ・ヒトラー『わが闘争』より)

チューリングは少年時代、あたりを飛びまわっている何匹もの蜜蜂の
飛行方向をベクトルで表して地図に描き込み、その交点を求めて、
その位置に蜂の巣を見つけた。

地球の表面のほとんどがシリコンでできており、
エベレスト山の主成分もシリコンである。

趣味でSF小説を書いており、文学的センス溢れる、
ジョン・ピアーズというベル研の技術者が、
レジスタンス(抵抗)をトランスファー(変化)するという点に注目して、
トランジスタと名づけた。

ベル研を離れたウィリアム・ショックレーは、サンフランシスコ南部の、
アプリコットの林が散在する平地に新会社を創立し、
彼の名声に引かれて優秀な若い研究者が集まった。
ショックレーのもとを離れてからも、彼らは近くに自分たちの会社を作った。
「集積回路」の発明者のひとりであるロバート・ノイス、
インテルを創立したゴードン・ムーアも、彼の元を去った。
カリフォルニアのアプリコット林には、新しい名前が付けられた。
「シリコンバレー」の誕生である。

彼女(グレース・マレー・ホッパー)は、女子バスケットボール観戦を
長年の趣味としており、特に、「前方へのパス」というものが
どうして可能なのか、観察する機会が幾度もあった。
ボールを投げる選手は、それを受け取ってくれるはずのチームメイトが
どの位置に来るかを前もって予測し、そのチームメイトがその位置に
実際に到達する前に、ボールをなげているのである。
晩年ホッパーは、世界初のコンパイラを開発していた当時、
コンピュータが実際にスイッチを切り替える作業を行なう少し前に
その指示を送信する(送信された指示は、しばらく待機することになる)
というコンパイラの仕事をはっきりと把握するのに、
このバスケットボール選手のイメージをよく使ったという話をするのを特に好んだ。

人間のキーボード操作など、いかに手馴れて速かろうか、
電子から見ればぎこちなく、かったるいほど遅く、
そのあいだ電子にはたっぷり時間がある
(普通のノートパソコンのすべてのキーは、毎秒何十回となく
チェックされており、その都度電子が、「たたいていない、たたいていない」
という報告を、コンピュータの中央処理装置に送りつづけている。)

エジソンは1931年に亡くなったが、当時のフーヴァー大統領は、
エジソンの葬儀が行なわれる日の午後10時に、全米で灯りを消すよう呼びかけた。

レーダー技術を開発したロバート・ワトソン・ワットは、
1950年代のはじめ、スピード違反で交通巡査に捕まった。
そのとき警察は、レーダーを応用したスピードガンで交通取締りをしていた。

誰かに電話をかけるときに聞こえる呼出音は、
わたしたちが電話している相手の電話機から発生しているのではない。
これは、電話の発信者が相手の電話を聞いているという印象を得られるよう、
中央の電話交換局が発信者に送っている信号である。
電話の中央交換局が始まったころからの、歴史あるトリックだ。

(ドイツが使用した)ヴェルツブルグ・レーダーの波長はわずか10インチの
極超短波であったが、波長3インチの電磁波はマイクロ波と呼ばれており、
これを利用したのが、マイクロウェイブ・オーブン、電子レンジである。
電子レンジの基本原理はレーダー発信機と同じである。

トランジスタが従う論理スイッチングは、19世紀中葉に、
存在しうるあらゆる論理的な言説をすべて記号化しようとした
イギリスの数学者、ジョージ・ブールの研究を応用したものである。
正しい言説が2つあるとき、その2つをつなげても、その結果生じる言説は
やはり正しいが、これを彼はT+T=Tという方程式で表した。
正しい言説ひとつと、間違った言説ひとつをつなげると、
その結果生じる言説は間違っているが、これはT+F=Fという方程式で表した。
こんな、ほとんど自明なことをわざわざ大仰に表現するなんて、
奇妙なことだと思えるが、「正しい」を「1」で、「間違っている」を「0」で表すと、
さきほどの方程式は、それぞれ1+1=1と1+0=0となる。
これはまさに、2進コードである。

1947年のある日、ハーバード大学で開発中だったコンピュータの回路に
蛾が入り込んでショートを起こしているのを見つけて、
ホッパーは、蛾の死骸をていねいに取って、作業日誌に貼りつけ、
「実際に発見されたバグの最初の例」と書き添えた。

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