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『ぼくには数字が風景に見える』

ぼくには数字が風景に見える
『ぼくには数字が風景に見える』
著/ダニエル・タメット
講談社

サヴァン症候群で発達障害のアスペルガー症候群である著者が、
自分の生い立ちと、彼から見た数字や文字の“共感覚”について語った手記。

数学好きの父のためにアマゾンで注文したのだが、
話題になった本だけにおもしろかった。

著者のダニエル・タメットが「普通の人と違う」ということを感じながら、
積み木を積み重ねていくように一歩一歩、自立していく様子が感動的。
高校を卒業してひとりで電車に乗ったこともないのに、
彼は海外にボランティアとして旅立つ。
彼が愛するのは自分の家の部屋と図書館の静けさなのだが、
その安心できる場所から出て、自分の足で歩こうという勇気が感じられる。
また、彼の文章が几帳面な性格をよく現わしていて、
色と数字のディティールに満ち、素直でていねいで読みやすい。

また、彼の成長をささえた両親がとても良い。
たとえば、頭を上げて歩けない彼のために、
母親は「あれはなにかしら」と遠くにある垣根や建物について質問し、
歩きながらそれを見るようにうながしたので、
彼は頭を上げて歩くことができるようになったエピソードとか、
パズルの本を買い与えたり、チェス・クラブや図書館に連れて行ったり、
発達障害の子をどうやって育てたらいいのか何も知識もなく、
裕福でもない両親の努力と地道に注がれた愛情がすばらしい。

彼はサヴァン症候群という稀有な例だけど、誰でも努力や勇気をもって
人生を切り開いていくことができるのだと静かに語っている。

※原題は『Born on a Blue Day』
日本語タイトルといい、かわいいイラストの表紙といい、
講談社はこういう造りがうまいですね。

◆読書メモ

ダニエル・タメットのサイト『Optimnem』

あるとき、ぼくの累乗計算好きを知っている弟のリーが、計算機を片手に
ぼくに問題を出した。23は? 529。48は? 2304。95は? 9025。
それからリーはもっと長い式を出した。82×82×82×82は?
十秒ほど考えた。両手をしっかり握りしめ、その形と色と質感を確かめた。
45212176とぼくは答えた。弟がなにも言わなかったので、ぼくは弟を見上げた。
弟の顔がいつもと違っていた。微笑んでいた。
そのときまでリーとは親しい間柄ではなかった。
リーがぼくに微笑みかけたのを見たのはこれが初めてだった。

「誕生日はいつ?」とフランに訊かれたので、
ぼくは「1979年1月31日」と答えた。
「65歳になる日は日曜日だね」とキムが答えた。
ぼくはうなずいて、キムに誕生日を訊いた。
「1951年11月11日」とキムは答えた。
ぼくはにっこりして「その日は日曜日だ!」と言った。
キムの表情が輝き、ぼくにはふたりの心が通い合ったのがわかった。

グルフォス(「金色の滝」という意味)で一日を過ごしたことがあった。
白河に位置し、幅が32メートルにまで及ぶ巨大な白い滝が、
深さ70メートル幅2.5キロメートルの渓谷まで落ちていた。
細かな霧がひっきりなしに湿り気を帯びた大気へ巻き上がっていき、
それが89という数字を思い浮かべたときの風景とよく似ていた。

ぼくの能力は以前とまったく変わっていないのに、子どものころや思春期には
その能力のせいで同級生たちから疎まれ、孤立を深めたが、
大人になってからはその能力のおかげで人とのつながりや新しい友人ができたのだ。

甥の写真を見ると、生きることと愛することは奇跡だといつも思う。

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コメント

こんにちは。YO-SHIといいます。読書ブログをやってます。

この本を読み終わったところです。
私も、彼の両親のことが気になりました。何気なく書かれている色々なことが、できそうでできないことばかりなんですよね。

コメントありがとうございます。

彼の両親は発達障害について何も知らなかったというのに、
“普通の子”と違うと疎んじたり嘆いたりするのではなく、地道な愛情で長所を伸ばし、
短所をゆっくり克服させていこうとするところがすばらしいですよね。
また、彼が大学への進学でなく、外国でのボランティアを選んだときも、
大学進学を望んでいただろうし、とても心配だったはずなのに、
彼の自立しようという意志を尊重するあたりもすごいなと思います。

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著者は、サヴァン症候群とアスペルガー症候群という脳の障害を持っているロンドンお生まれの30歳の男性。著者は、円周率を22,514桁暗証することができ、驚異的なスピードで言語を習得することができ(例えば、アイスランド語を1週間で)、10ヶ国語を自在に操る。その他にも、カレンダー計算や、ある数が素数かどうかの判断などが一瞬でできる。我々の想像をはるかに超えた「天才」なのだ。... [続きを読む]

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