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『アーティスト症候群』

アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人
『アーティスト症候群 アートと職人、クリエイターと芸能人』
著 大野左紀子
明治書院

本来、絵画の芸術家を指していたはずの「アーティスト」という言葉は、
いつの間にか浜崎あゆみからヘアメイク、ガーリーフォトまで、
誰でも彼でもアーティストと呼ばれるようになった。
そこには「アーティストと呼ばれたい」という願望があり、
「アーティスト」という言葉に込められた付加価値がある。
でも、本当の「アーティスト」って、「アート」って何だったんだろう、という本。

ねーさんから借りた本。おもしろかった。
特に、工藤静香、FUMIYART、石井竜也など
芸能人アーティストの作品分析が秀逸。
画家としての片岡鶴太郎に「過去と訣別したかった男の焦心と小心を見る」
という文は、そうそう!よく言ってくれた!という感じ。
誰もが感じているだろう芸能人アーティストへの違和感を、うまく言葉にしている。
それぞれの作品も冷静かつ客観的に評価していて、
批評していながら、意地悪な感じがないのもいい。

著者自身、芸大を卒業し、30年間、アーティストとして活動していた経験があり、
現在のアーティスト飽和状態の中で、
本来の“アート”が置き去りにされていることに疑問を感じていたのだろう。
後半は、彼女がいかにアーティストになって、いかにアーティストを辞めたか
という話なのだが、ここらへんはちょっと個人的かつ観念的すぎて
ついていけないところも。
文章は非常に読みやすくてわかりやすいので、著者が文筆業に転向した(?)
のはまちがいじゃないと思うのだが、著者の言うところの“アート”は、
言葉ではなく、やはりアートでしか伝えられないものなのだと思う。


◆読書メモ

・本田美奈子は「アイドルじゃなくて、アーティストと呼ばれたい」と発言。
それを聞いた松任谷由実は、「彼女がアーティストなら、私は神だ」
と言い放ったという。

・個性的だと言われる彼女達(浜崎あゆみ、倖田來未) のファッションやイメージを
辿っていくと、どうしても全盛期のマドンナに行き着く。日本の女性アイドルは
オリジナリティを出そうと張り切れば張り切るほど、マドンナの呪縛から逃れられない。

・ビル・ゲイツやロックフェラーの邸宅は、日本建築の方法で建てられている。

・小林秀雄の「美しい「花」がある、「花」の美しさといふ様なものはない」は、
「美」は定義できないものであることを示す言葉として有名だ。

・東京にいたのは、芸大の作曲科を出た坂本龍一がYMOを結成し、
東急ハンズ渋谷店がオープンする前年の77年から82年の春まで。
パルコの広告のイラストを山口はるみが描き、浅葉克己がアートディレクションをし、
糸井重里がコピーを書いて話題になっていた頃だ。
その広告戦略は「パルコ文化」と呼ばれていた。

・1週間に2回は、西武美術館と同じフロアにあった
アート関係書籍専門店「アールウィヴァン」に通っていた。
下の階のスタジオ2000では時々実験フィルムや文化講演の企画があって、
いかにも「コンテンポラリー」な感じの「黒づくめの人々」が来ていた。
それはまるで80年代初頭のトンがった文化に集まる黒い虫のようだった。

・十代のころ知っていた美術は、平原を大きく蛇行していく
大河のようなものだったと思う。それは悠々と海に向かって流れている。
実際に出会ったのは、地下水路だった。地下にある細い水路が次々と合流し、
徐々に太くなり勢いを増していく。その最終地点は、高い山の中腹にできた
亀裂のように「外の世界」に向かって突然ぽっかりと開かれており、
水路の水はそこから大きな滝となって水しぶきを上げながらどうどうと落ちている。
私もその水の一滴となって落ちて行き、はるか下にある巨大な固い岩盤に
小さい穴を穿つのだ。そんな妄想で頭の中をいっぱいにしていた。

・料理人から大工まで、陶芸家から映画監督まで、
自分の作ったものを人々に提供する者は、こう味わってほしい、
ここを見てほしい、これを楽しんでほしい、これについて考えてほしい
という願いや意図をもっているものだ。それが伝わらなくては、
他にどんな面白い解釈をされても、作り手は浮かばれない。


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