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本『日の名残り』

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

『日の名残り』
著 カズオ イシグロ
ハヤカワepi文庫

ねーさんから借りていたのに1年以上読めずにいた本。
ゆっくり落ち着いて読みたかったからなんだけど、
結局、実家から戻る電車の中で一気読みしてしまいました。

「何をお読みになっているのかしら、ミスター・スティーブンス?」
「ただの本です、ミス・ケントン」
「そんなことは見ればわかります、ミスター・スティーブンス。
何のご本ですの? とても興味がありますわ」
「これはどういうことです、ミス・ケントン。
私のプライバシーを尊重していただくよう、お願いせねばなりませんな」
「でも、なぜそんなに隠されますの、ミスター・スティーブンス?」

いちいち、ミスター・スティーブンス、ミス・ケントンと
呼びかけるふたりの会話がもどかしくも素敵。
これはふたりの礼儀であり、距離であり、親しさなのだ。

人生には確かに大事な一瞬がある。
そのときどうするかで、その後の運命が変わってしまう。
でも、そのときはそんなこと考えずに選んでいるのだ。

丸谷才一の解説はこの物語を悲劇だという。
だけど、私にはそう思えない。
ミスター・スティーブンスは自分の人生をふりかえって
深く後悔しているかもしれないけれど、
その人生はなんて美しいのだろう。


「品格」という言葉は、一時期、使われすぎて、
すっかり安っぽくなってしまったけど、
原書をチェックしたら「dignity」。
英語としても、難しい単語なのでは。


イギリスの地図を一生懸命たどっていたら、
"The Remains of the Day" Route
という公開マップがありました。結構長旅。


◆読書メモ

あのとき、もしああでなかったら、結果はどうなっていただろう……。
そんなことはいくら考えても切りがありますまい。
「転機」とは、たしかにあるのかもしれません。
しかし、振り返ってみて初めて、それとわかるもののようでもあります。
いま思い返してみれば、あの瞬間もこの瞬間も、
たしかに人生を決定づける重大な一瞬だったように見えます。
しかし、当時はそんなこととはつゆ思わなかったのです。
ミス・ケントンとの関係に多少の混乱が生じても、私にはその混乱を
整理していける無限の時間があるような気がしておりました。
何日でも、何ヵ月でも、何年でも……。
あの誤解もこの誤解もありました。
しかし、私にはそれを訂正していける無限の機会があるような
気がしておりました。一見つまらないあれこれの出来事のために、
夢全体が永遠に取返しのつかないものになってしまうなどと、
当時、私は何によって知ることができたでしょうか。

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