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本『あなたのTシャツはどこから来たのか?』

あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実
『あなたのTシャツはどこから来たのか?
誰も書かなかったグローバリゼーションの真実』

著 ピエトラ・ リボリ
東洋経済新報社

私が買っている安いTシャツは、
発展途上国で搾取された人々が作ってるんだよ
という本かと思っていたら、そんな単純な話ではなかった。

「あなたのTシャツは誰が作ったものですか?」
という女子学生の言葉に動かされ、
経済学部の教授である著者は、Tシャツをめぐる旅に出る。
著者がフロリダで買った5ドル99セントのTシャツは、
予想通りMade in Chinaであり、裁断、縫製は中国で行なわれていたが、
原料である綿はアメリカ、テキサス産だった。

アメリカは200年もの間、綿生産、世界一に君臨した。
それは、奴隷制度やプランテーションやメキシコからの安い労働力であり、
官民一体となった技術革新であり、(発展途上国では綿は手摘みされているが、
テキサスではすべて機械化されている)、政府の補助金であり、
なによりも政治的な保護政策によって守られているためである。

テキサス産の綿は中国に渡り、糸になり、布になり、裁断され、縫製される。
中国の工場を取材した著者は、そこが単なる“搾取工場”ではなく、
農村を脱出した女性たちの働く場所であり、
かつての日本、台湾、韓国も“女工哀史”による繊維産業をステップに
発展を遂げてきたのだと語る。

自由市場を説くアメリカが、Tシャツ(繊維産業)においては
どれだけ保護主義だったか、経済市場がどれだけ政治に支配されているか
という話は、この本の中心テーマであるが、
原書が発売されたのが2005年で、日本語版が2007年なので、
現在ではだいぶ状況が変わっているだろうと思われる。
(2005年に多国間繊維取極(MFA)が廃止され、
発展途上国からのアパレル輸入の数量制限が撤廃された。
その後、延長された輸入制限も2008年には切れているはずである。)

中国で作られたTシャツはアメリカに輸入され販売される。
さらに不用品として慈善団体に送られたTシャツは
古着としてアフリカで売られる。
古着ビジネスについては、善意によって無料で提供された衣類が
発展途上国の繊維産業をつぶしているという批判も多いが、
(以前読んだ『世界から貧しさをなくす30の方法』
って本にもその話がでてきました。)
著者は、タンザニアの古着ビジネスが、政治的な保護政策とは無縁に、
自由市場を形成していることを賞賛する。

アメリカ→中国→アメリカ→タンザニアとTシャツを追うことで、
イギリスの産業革命からアメリカの保護政策、
日本や中国における女工たちの歴史、
自由市場という名の下に行なわれる輸入制限、
発展途上国の古着ビジネスまで、
わかりやすい経済の物語として描いてみせる手腕はみごと。
ただ、わかりやすいからといって書いてあることを
すべて鵜呑みにするわけにはいかず、
著者が最後に女子大生に語るように
物事の両面に目を向けないといけないなと。

◆読書メモ

一人の若い女性がマイクを手に取ると、群衆に向かって問いかけた。
「あなたのTシャツは誰が作ったものですか。
食べ物も飲み物も与えられずにミシンにつながれた
ベトナムの子供でしょうか。時給18セントしかもらえず、
1日に2度しかトイレに行かせてもらえないインドの女性でしょうか。
皆さん知っていますか。彼女は十二人部屋で生活しているのです。
ベッドは共寝、食事にはお粥しかもらえません。
残業手当も受け取れずに、週に90時間働かされます。
発言する権利もなければ、労働組合を作る権利もありません。
彼女は貧乏なだけでなく、不潔で病気が蔓延する環境で
暮らしているのです。すべてはナイキの利益のために。」
わたしはこれらのことを知らなかった。そして不思議に思った。
マイクを持つあの女子学生は、なぜ知っていたのだろうか。

国籍も、経歴も、対象とする地域も時代も全く異にする研究者たちが、
繊維業における理想的な労働者を表す時に異口同音に口にするのは、
例の「従順な」という形容詞だ。そして、ランカシャーでも
マサチューセッツでも、サウスカロライナ、日本、台湾、香港でも、
その従順さは、労働者に選択肢がなく、経験もなく、
視野も狭いことからくるものだった。

1990年代末、ピュリッツァー賞を受賞したニューヨークタイムズの
ニコラス・クリストフ記者とシェリル・ウーダン記者は、
ゴミ拾いや買春をするアジア人、あるいは職を持たない
貧しいアジア人を取材した。彼らの多くにとって搾取工場で働くことは、
自分には無理でも子供には叶えてほしい夢だった、という。

繊維・衣料品メーカーは海外生産拠点を選ぶのに、
そこが経営上ふさわしいかどうかではなく、
その国に輸入割当があるかどうかを優先してきた。
世界最大の綿シャツメーカーであるエスケル・コーポレーションは、
1970年代後半に香港で創業した。
しかし、輸入割当を獲得できなかったため、生産拠点を中国本土へと移した。
1980年代のはじめに米国が中国製シャツの輸入割当抑制に動いた時、
エスケルは生産拠点をマレーシアへ移した。
ところがマレーシアの輸入割当も厳しくなり、次にスリランカへ移動した。
さらにモーリシャスやモルジブにも拠点を設立し、世界中を飛び回り続けた。

日本の若者たちは、リーバイスやナイキなどのブランドを好む。
このブランドのジーンズやスニーカーであれば、
東京では何千ドルという高値で売れる。
日本人はディズニーも好きだから、完璧な状態のミッキーマウスの
Tシャツであれば、ちょっとした模様つきTシャツの10倍の値段で売れる。
その貪欲な「アメリカもの」への需要のお陰で、
米国古着の最大の顧客は日本人である。
ただ、彼らのビンテージへのニーズは最高級かつ珍しい品目に限られるため、
取引金額では日本が最大の顧客であっても、
彼らが実際に引き受ける米国古着の量はほんのわずかしかない。

ミトゥンバとは、アメリカ人やヨーロッパ人が捨てた洋服のことで、
なかでもTシャツが多い。ニエレレ大統領がこれを見たら
驚いて墓から飛び出してくるだろう。なぜなら、西側の古着は、
祖国の誇りのために進めた「自立ある社会主義」政策下で、
第一級の輸入禁止品目だったからだ。

グラムたちは、この屈辱論には我慢がならない、と言う。
彼らは何度も繰り返し、「屈辱感はミトゥンバから生まれるんじゃない、
何も着るものがないというところから生まれるんだ」と語った。


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