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本『メイキング・オブ・ピクサー』

メイキング・オブ・ピクサー―創造力をつくった人々
『メイキング・オブ・ピクサー 創造力をつくった人々』
著 デイヴィッド A.プライス
早川書房

『トイ・ストーリー』から『ウォーリー』まで、
ストーリー、技術ともにレベルの高い作品を作り続け、
大ヒットを連発しているアニメーション・スタジオ、ピクサー。
そのピクサーの創世記からディズニーによる買収までを描く。

ピクサーの名前はブランドとして確立しているのだが、
一般には「ディズニー=ピクサー」のようにとらえている人も多く、
「『レミーのおいしいレストラン』はミッキーに配慮した結果なのか」
などと言われると、がっかりしてしまう。
ディズニーによる買収も「ピクサーが買収されてしまった」という人もいるのだが、
私的には、買収という形でピクサーがディズニーをのっとったと思っている。
ピクサー首脳陣(ジョブズやラセター)がディズニー幹部になったことでも
それはわかる。(以降のディズニーアニメ、『ルイスと未来泥棒』、『ボルト』は
ラセターが製作陣に加わっている。)
つまり、ディズニーによる買収は、ピクサーの大勝利なのだ。

買収を決めた理由のひとつとして、ディズニーの新社長ボブ・アイガーが
ディズニーランドのパレードを見て、「ここ10年間のディズニーアニメ作品から
生まれたキャラクターが、ピクサーのものを除けば、パレードに一つも
出ていないことに気づいた」というエピソードが書かれているが、
これは私もディズニーランドに行って思ったこと。
昼のパレードの主役スティッチを除くと、夜のパレードで目立つのは、
『モンスターズ・インク』のサリーや、『バグズ・ライフ』のイモムシ、
バズ・ライトイヤーなど、ピクサーキャラクターばかり。
(もちろん、昔からのアリスやミッキーマウスなどはいるけど)
いかに、ディズニーがピクサーのキャラクターに頼っているかが感じられた。

そんな、ディズニーとの提携から交渉決裂、買収劇までも詳しく書かれている。
そのほか、ジョブズと決裂して、ピクサー社史から抹消されてしまった、
アルヴィ・レイ・スミスの話や、株式公開に際してのモメごとや、
『モンスターズ・インク』をめぐる著作権裁判など、
ピクサーにとっては負の部分もきちんと描かれている点に好感がもてる。

この本で一番感動的なのは、まだコンピューターが静止画を作るのに
精一杯だった時代に、コンピューター・アニメーションを夢見た人々の物語だ。
エド・キャットムルとアルヴィ・レイ・スムスは
億万長者アレグザンダー・シュアーの創設したニューヨーク工科大学(NYIT)の
コンピュータ・グラフックス研究所から始まり、
ルーカスフィルムのコンピュータ部門に移籍する。
ルーカスが必要としたのは、フィルム合成、音響、編集だが、
この時点では、映画フィルムを高解像度でスキャンする機器もなく、
デジタル映像に必要な解像度がどのくらいなのかもわからなかった。
(その時代にデジタル・フィルム合成をめざそうとするルーカスの先見性もすごい)
ルーカスフィルムでは『スタートレック2/カーンの逆襲』の一場面を手がけ、
ディズニーをクビになったジョン・ラセターが参加する。
ルーカスの離婚と事業整理にともない、コンピュータ部門は
アップルをクビになったジョブズに格安で売却される。
ここでもジョブズが最初にやろうとしたのはピクサー・イメージ・コンピュータ
というハードと、レンダリングソフトを売ることで、
アニメーションを作ることではなかった。

今ではこれだけの大成功を収めているピクサーが
何度となく、閉鎖されそうになったことは興味深い。
『トイ・ストーリー』完成目前の時期ですら、ジョブズはマイクロソフトに
ピクサーを売り飛ばす交渉をしていたというのだからびっくりだ。
この長い年月、コンピュータ・アニメーションというものを信じて、
会社を守り続けたキャットムルの信念には涙が出る。
そして、『トイ・ストーリー』の成功がすべてを変えるわけだが、
その成功が決して、まぐれ当たりなどではなかったことも
この本を読むとよくわかる。

ピクサーというとジョン・ラセターが有名だけど、
本当の創設者である、キャットムルをはじめ、
スタントン、ピート・ドクター、ブラッド・バードなどの名前が次々に登場。
キャットムルの開発したZバッファ、テクスチャ・マッピングをはじめ、
パーティクル、エイリアシング、シェーダーなど、
今では必須のCG技術が発展していく様子もドキドキする。
PDI/ドリームワークスとのライバル関係なども、
カッツェンバーグが最初に『トイ・ストーリー』製作を支持したことを
知ると、見かたが変わってくる。
ここらへんの話はある程度、マニアじゃないとわかりにくいと思うけど、
マニアにはたまらない。

◆読書メモ

「キャラクター・アニメーションは、物体をキャラクターのように見せるとか、
顔や手をつけるとか、そういうことじゃない。
キャラクター・アニメーションっていうのは、物体をまるで生きているかのように
動かし、考えているかのように動かし、そしてそういう動きのすべてが、
自分の思考プロセスによって生み出されたように見せることだ……。
生きているという幻想を与える思考。表情に意味を与える命なんだ。
サン=テグジュペリも書いている。
「大事なのは目ではなく、目つきだ――唇ではなく、ほほえみなのだ」ってね!」
ジョン・ラセター

アイヴァン・サザーランドはマサチューセッツ工科大学(MIT)で
博士論文の一環として、当時革新的だった「スケッチパッド」という
システムを開発した。ライトペンを使って、コンピュータの画面上に
直接白黒の設計図を描くものだ。サザーランドのシステムは、
単にコンピュータを使って絵が描けるというだけではなかった。
むろん、これだけでも十分衝撃的ではあったが。
コンピュータの貴重な1000分の1秒も無駄にすまいと、
ユーザがパンチカードのプログラムをカードリーダーに入れるために
列をなして並んでいた時代にあって、スケッチパッドは一人の人間が
ひと部屋サイズのコンピュータを独占するという、
正気とは思えない考えを前提としていたのだった。

作業を進めるうちに、チームの誰かが、ラセターの色の選び方が変じゃないか
と言い始めた。ラセターは木に紫色の葉をつけたいと考えていた。
葉っぱは紫じゃない、とスタッフは反論した。
ラセターは、サンフランシスコの美術館にグループを連れて行った。
美術館では光をふんだんに使った自然画で知られる、
イラストレーターのマックスフィールド・パリッシュの絵画展が行なわれていた。
しばらくすると、反対したスタッフは、ラセターが正しかったことを潔く認めた。
紫色の葉っぱもあり得るのだと。すべては光次第なのだ。

デイヴィッド・ディフランチェスコが、カーナー大通りのILMのすぐ近くの棟で、
兄弟プログラマーがマッキントッシュでやっているイメージ処理は
一見の価値があると教えたときも、スミスは腰を上げようとしなかった。
「あの頃はちっぽけなマシンに気を回す余裕がなかった」
スミスは後で言っている。
(トムとジョンのノール兄弟は、開発したソフトウェアをその後アドビシステムズに
ライセンスした。フォトショップと名付けられたソフトは、大評判を博した)。

ハンラハンとラニアは、当時人気を博していたソニーの携帯CDプレーヤー、
ディスクマンのような、身につけてどこにでも持ち運べる小型機器という
アイデアをひらめいた。この機器で映画級の立体映像を生成し、
それをバーチャルリアリティ・ゴーグルを通して見るというものだ。
実際にこれを作ることは、1987年当時のピクサーには不可能だったが、
5年から10年たって技術がアイデアに追いつけば、ヒット商品になるかもしれないと
2人は考えた。そこでディスクマンになぞらえて、「レンダーマン」と名付けた。

90年代初めにミルヴォルドはフォトリアリスティック・レンダーマン(PRマン)を
ライセンス取得してウィンドウズに組み込むことに関して、
ピクサーと何度か交渉を行なった。かれの構想では、
PRマンはウィンドウズ・プログラムで高品質のグラフィックスを処理する
標準的な方法になるはずだった。PRマンはゲームなどの双方向アプリケーションに
使うには遅すぎたため、この用途にはPRマンを高速化したサブセット版、
「リアルタイム・レンダーマン」で対処する計画だった。だがミルフォルドは結局、
代案に落ち着いた。マイクロソフトはシリコン・グラフィックスから「オープンGL」と
呼ばれる3Dグラフィックス・ソフトウェアをライセンスしたのだった。

「法務書記に言わせれば、かれには2歳と7歳になる姪っ子がいて、
わたしがこの(『モンスターズ・インク』の公開を禁止する)差し止め命令を
出したらひどくがっかりするだろうと……。そうなれば、国中の子供たちに、
最悪のモンスター判事だと思われるでしょう」

モス・ランディング海洋研究所のマイク・グレアムから、
ケルプは珊瑚礁には生えないという指摘を受けると、スタントンは
珊瑚礁のシークセンスのデザインからケルプをすべて取り除くように指示した。

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