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本『フラット化する世界』

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
フラット化する世界 [増補改訂版] (下)

『フラット化する世界』
著 トーマス・フリードマン
日本経済新聞出版社

今さらですが、読みました。
アメリカで第一版が発売されたのが2005年。
私が読んだ「アップデート&増補版」が2006年。
さらに、「増補改訂版」が2008年に発売されており、
その間に世界の状況も多少、変わっているはず。

この本に影響を受けたり、引用している本を何冊か読んでいるので、
それほどびっくりするような内容が書かれているわけではなく
「世界はフラット化している」というテーマはすでに共有されていると思うが、
ロングセラーになるだけあって、とてもおもしろい。

著者はこのフラット化の流れがベルリンの壁崩壊から始まったと書く。
「1980年代の初めから半ばに始まった情報革命だ。
全体主義体制は、情報と権力の独占に依存しているが、
ファックス、電話、さらにパソコンの普及によって、
鉄のカーテンをすり抜ける情報が飛躍的に増えた。」

『スラムドッグ$ミリオネア』の主人公はインドのコールセンターで
お茶汲みをしている。映画では「たんなるお茶汲みが大金を手にする」
とクイズの司会者に揶揄されているが、コールセンターの仕事は
インドではお金にもなるし、社会的地位も高いそうだ。
今では、アメリカのユーザーがデルやマイクロソフトのサポートに
電話をかけると、インドのコールセンターにつながる。
飛行機の遺失物案内もインドにアウトソーシングされている。

そのほか、アメリカの病院ではCTスキャンの読み取りを
インドやオーストラリアにアウトソーシングしているとか、
Y2Kのソースコード検査によって、インドのIT産業が世界に知られるようになったとか、
壊れた東芝のノートパソコンはUPSによって東芝の修理工場に運ばれるのではなく、
UPSの支店で客から受け取り、UPSの修理工によって修理され、客に戻されるとか、
現地取材に基づく、具体例がいっぱい。

なかでもマルクスとエンゲルスが世界のフラット化を予測していた
という指摘はおもしろい。
「生産物を売るための市場をたえず拡大する必要に迫られて、
ブルジュアは地球上をせわしなく駆けめぐる。あらゆる場所で家庭を作り、
定住し、つながりを結ぶ。ブルジュアの世界市場開拓によって、
生産物と各国の消費には、全世界共通の特徴が備わる。
新しい産業では、国産の原料ではなく、遠隔地の原料を加工する。
生産物は国内で消費されるのではなく、地球のあらゆる場所で消費される。
昔はさまざまな欲求を国内生産だけで満たしていたが、
いまは遠い国や地方の生産物によって欲求を満たすことが求められる。
かつては地方や国が閉じこもって自給自足していたが、
いまはあらゆる方面と交流し、世界各国が相互に依存している。
物質ばかりではなく、知的生産物の面でも同じである。
一つの国の知的創造が、共通の財産になる。国家が偏向したり
狭い考えを持つことは、いよいよ難しくなり、無数の国や地方の文芸から、
一つの世界文芸が生まれる。」(『共産党宣言』)

本書では、フラット化がなぜ起きたか、
フラット化に取り残されないために教育はどうあるべきなのか、
(向上心のあるインドや中国に比べて、アメリカでは工学や数学を
勉強する学生は減っているそうだが、日本なんてもっとひどい状況だろう。)
フラット化の弊害は? フラット化を阻害する要因は何なのか、
といったことを探っていく。
イスラエル報道をしていた人だけに、アルカイダへの記述が多い。
エネルギー問題への懸念は最近発売された『グリーン革命』につながるのだろう。

知り合いのライターさんから、「デルのサポートに電話をしたら、
まともに日本語が通じなかった」という話を聞いたことがあるが、
現在、デルのサポートは中国で行なわれている。(日本の場合?)
デルの工場は世界に6ヵ所あり、(アイルランドのリムリック、
中国のアモイ、ブラジルのエルドラド・ド・スル、テネシー州ナッシュビル、
テキサス州オースティン、マレーシアのペナン)、
客から注文を受けると、世界各地から必要部品を取りよせる。
(部品のサプライヤーのリストは約2ページにわたるので引用を断念。)
好むと好まざるに関わらず、世界はフラット化しているのだ。

◆読書メモ

ITバブルが最高潮に達していた時期、ダボスの1999年世界経済フォーラムで
ビル・ゲイツが行なった記者会見のことは、今後もずっと記憶に残るだろう。
ビル・ゲイツは、「ゲイツさん、このインターネット関連株の高値はバブルですね?」
といった趣旨の質問攻めに遭っていた。
「いいか、あんたたち、バブルに決まっているじゃないか。だが、
このバブルは、インターネット産業に新たな資本を惹きつけていて、
イノベーションをどんどん加速させているんだ」
ゲイツは、インターネットをゴールドラッシュになぞらえた。
地中から金を掘ること自体よりも、リーバイスのジーンズやツルハシや
シャベルを売ったりホテルに客を泊めたりするほうが、
ずっと金になったというのを説明するためだ。

「両親は南カリフォルニアのIBMで出会い、僕はパサディナの北の
ラ・カナダという町で育った。家にはずっと昔からコンピュータがあった。
買い物のリストは、昔のIBMのメインフレームで使っていた
パンチカードにメモしていた。」
アパッチコミュニティーのブライアン・ベーレンドルフ

ザラの手法は、高度なITに負うところが大きい。
「客の好みをモニターするために、店長は全員送受信能力のあるPDAを携帯し、
中央企画室にデータをじかに送る」
9.11直後、ザラの経営陣は、消費者が深刻な気持ちになっていると見て、
数週間以内に黒を基調とする新製品を店舗にストックさせた。

ウォルマートの幹部が私に語った。ハリケーンの季節には、
保存が簡単で傷みにくいスナック類の消費が増える。
家庭の電源を必要としない子供用のゲームが、
テレビの代用になるのでよく売れる。ハリケーンが来ると、
ビールの消費量も増える。だから、ハリケーンがフロリダに迫っていることを
ウォルマートの気象部門が本部に伝えると、フロリダの店舗では、
サプライチューンがハリケーン向け商品構成に自動的に組みなおされ
――まずビールを、そして次にポップターツを増やす。

何を検索しているかをグーグルが把握しているのと同じように、
TiVoもどの番組やCFを一時停止したり保存したり巻き戻して
見たりしているかを把握している。テレビ史上、巻き戻して見た回数が
一番多かった場面は何か? 答:ジャネット・ジャクソンのおっぱいぽろり。

現時点では、誰でもこのプラットフォームにアクセスできるわけではない。
新しい競技場に誰でも入れるわけではない。
ただ、世界がフラット化しつつあるというのは、誰もが平等であるという意味ではない。
接続し、競争し、共同作業し、そして残念なことに破壊するために、
フラットな世界のプラットホームにアクセスできる力をもつことのできる
時と場所と手段が、いままでよりもずっと増えている、といいたいのだ。


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