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本『ピクサー流マネジメント術』

ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたか
『ピクサー流マネジメント術
天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたか』

著 エド・キャットマル
ランダムハウス講談社

最近の『レミーのおいしいレストラン』といい、『ウォーリー』といい、
ピクサーの作品はどれもこれも大ヒットを記録している。
すべてのピクサー作品が大好き、というわけではないが、
どの作品もストーリー的にも技術的にも相当レベルが高く、
CGアニメが流行っているアメリカにおいても、他社の追随を許さない。

なぜ、ピクサーはこれほどまでにレベルが高いのか、
その答えの一端が本書に書かれている。
第1部が、ピクサーの創業者であり、社長のエド・キャットマルによる論文、
第2部が、本書の訳者であり、映画ライター小西未来による
ピクサー映画作りの取材レポート、という構成になっている。

エド・キャットマルは言う、
「優れた人材はどんなに素晴らしいアイデアにも勝る」と。
その例として出てくるのが『トイ・ストーリー2』。
最初のコンセプトには全く問題なかったが、担当したチームは
いつまでもストーリーの核心となる部分を完成することができず、
『バグズ・ライフ』が終わったばかりの、ジョン・ラセター、
アンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチ、ジョー・ランフトの4名が
作業を引き継ぎ、この問題を解決した。
「アイデアそのものよりも、それを具体的な“カタチ”に仕上げることのできる
“人材”のほうがずっと重要である」
「凡庸なチームに良いアイデアを提供しても、台無しにされてしまいます。
一方、優秀なチームであれば、凡庸なアイデアを提供された場合であっても、
彼らはそのアイデアを改善するか、あるいは凡庸なアイデアを捨てて、
素晴らしいアイデアを思いつくことができるのです。」
「もう一つ重要な教訓は、ピクサーが手がける作品の基準は一つであり、
それは「常に卓越した作品」でなければならない、ということです。
凡庸な作品であれば、作る必要はありません。」

監督やプロデューサーが助言が必要なときは、どうすれば
作品を改善できるか、ブレーン集団(ジョン・ラセター、
アンドリュー・スタントン、ブラッド・バード、ピート・ドクター、
ボブ・ピーターセン、ブレンダ・チャップマン、リー・アンクリッチ、
ゲイリー・ライドストローム、ブラッド・ルイス)を招集し、
2時間に及ぶディスカッションを行なう、という。

「これはあくまで公平な意見交換の場であり、エゴのぶつかり合いも
不要な遠慮もありません。この会議が機能しているのは、
参加者全員がお互いの尊敬と信頼を勝ち得ているからです。
ピクサーの映画監督は、手遅れの段階になってから観客に問題を
指摘されるよりも、修正を加えるための時間的余裕があるうちに、
同僚から問題を指摘されたほうがずっといいと信じています。
意見交換を終えたあと、寄せられた助言をどうするかは
その作品の監督と各部署のリーダーに任されています。
形式的なアドバイスはありませんし、
ブレーン集団は権限を持っていません。」

当初はテクニカル部門の頭脳顧問集団に、
権限を与えてしまっていて、うまく機能しなかった。
「そこで、私は「この会議はあくまでも同僚同士が意見交換を
するためだけの場です」と念を押しました。すると、とたんに
会議に活力が生まれ、効率が劇的に向上したのです。」
「情熱的に意見をぶつけ合うのは、より良い物語にするためであって、
自我を満足させるためではない、とお互いが理解しています。」

また、「同僚と対等に共同作業を行う」ために、
毎日ラッシュ上映会を行い、参加者全員が積極的に意見を述べている。
「ラッシュ上映会において一人のアニメーターが
自分の担当する箇所の進行状況を逐一披露し、
参加者から承認されたときが、そのまま作業の終わりを意味します」

「素晴らしい作品を生み出す鍵は、
優秀な共同体を構築することにこそある」
とキャットマルは言うが、まさに言うは易し、行うは難しである。

たとえば、ピクサー流労働倫理三ヵ条
・社員全員が、誰とでも意志伝達する権利を持つ。
・どんなアイデアでも、常に歓迎されなくてはいけない。
・学術機関で起きている技術革新に常に敏感でいなければならない。
を実現するために、
「脚本の執筆法や絵画、彫刻からピラティス、ヨガまで
新しい技術を習得したり、自らの技術を他の社員に
教授するための場」として、ピクサー大学が設けられており、
受講料は無料で、受講のために仕事を休むことも許される。
「実際、勉強は仲間と一緒にやったほうが楽しいものなのです。」

また、ピクサーの社屋は、
「お互いが知らず知らずのうちに接触する機会を
最大限に生み出すように作られています。
吹き抜けの巨大なホールが中心にあり、カフェテリアや会議室、
トイレ、郵便ボックスなどがあります。必要な設備が中心部に揃っているため、
社員は一日の仕事の合間に、何度となくホールに行かなくては
いけなくなるというわけです。偶然の出会いがいったいどれほどの
価値を生み出すのか、とても言葉では言い尽くせないほどです。」

話を聞く限りはめちゃくちゃうらやましい。
もとが短い論文なので、さらっと述べられていて、
いや、実際にはそんな簡単にいかないでしょうとか、
綺麗ごとなんじゃないの?とか思ったりもしますが、
クリエイティブなものを生み出す最高の環境を、
どうやったら構築できるのか、ヒントとなることも多いはず。

全体としてはとてもいい本で、ピクサーファンやクリエイターのみならず、
優秀な共同体をつくりたいと考える経営者は読んでくれと思うが、
第1部の論文下にある解説がまったく意味をなしていないところは残念。

◆読書メモ

技術が芸術を刺激し、
芸術が技術に挑む

監督志望者は、ジョン・ラセターらを前に、自分のアイデアをプレゼンする。
ここでゴーサインがでると、ストーリー部門、美術部門、
テクニカル部門などから一人ずつ選抜し、小さなチームを結成、
具体的な映画案へと仕上げていく。
ストーリー部門は、初期の段階で絵コンテを作り、絵コンテがある程度
まとまるとビデオで撮影し、仮音楽と台詞をつける。
これが“ストーリー・リール”で、何度も練り直す。
「ここで使用されるのは、基本的には紙とエンピツ」だけ。
「紙とエンピツだけで感動的な物語を生み出すことができれば、
ひどい作品になることはまずない。」

ピクサーでは一貫して実写映画のスタイルの遵守にこだわっている。
観客が慣れていないカメラワークを採用すると、
ストーリーに集中できなくなるためだ。
『ウォーリー』では、よりリアルな映像表現を行うために、
ベテラン監督のロジャー・ディーキンスを特別講師に招聘したほどだ。

ピクサーは創設当初からストーリーテーリングにおける
サウンドの重要性を認識していた。『ルクソーJr.』や『ティン・トイ』
『ニックナック』といった初期の短編映画のサウンド・デザインを
『ターミネーター2』や『ジュラシック・パーク』『タイタニック』などで
計7つのアカデミー賞を受賞したゲイリー・ランドストロームに依頼している。

驚いたことに、ゲイリー・ランドストロームはいまやピクサーの
映画監督でもある。短編映画『リフテッド』(2006)を手がけたのち、
2012年公開予定の『Newt』の監督を担当する。

映画は1秒につき24フレームで構成されているのだが、
巨大サーバー群“レンダー・ファーム”は1フレームずつ処理していく。
1フレームを生成するための所要時間は平均6時間で、
その処理速度は『トイ・ストーリー』のときから変わっていない。
レンダリングにかかる時間は格段に短縮されているものの、
そのぶん1フレームに詰め込む情報量が増大したために、
どうしても時間がかかってしまうのだ。
これまでのピクサー作品でレンダリングにもっとも時間を要したのは、
『カーズ』のなかのシークエンス(ライトニング・マックィーンを載せた
トラックが夜の高速道路を走る俯瞰ショット)で、
なんと1フレームの処理に百時間を超えたという。

「どの会社でも、効率性が求められるよね。でも、映画作りは
普通の商品開発なんかとは違う。効率的に映画を作る方法なんて
存在しないし、効率性を追求した結果、ひどい作品になってしまったら、
ピクサーの存在価値そのものがなくなってしまう。
ピクサーでもあらゆる作業に締め切りを設けているが、
最高のアイデアを短期間でひねりださせるための仕掛けであって、
あとで優れたアイデアが生まれた場合は、締め切り後でも
差し替えられることになる。ピクサーにおいては
『たしかに素晴らしいアイデアだが、時間がないから諦めて欲しい』
という台詞を言うことは許されないんだ。」(ブラッド・ルイス)

ナイン・オールドメン
ウォルト・ディズニーが特に信頼を置いていた9人のアニメーターの総称
ウォルフガング・ライザーマン、レス・クラーク、ウォード・キンボール、
ジョン・ラウンズベリー、ミルト・カール、マーク・デイヴィス、
フランク・トーマス、エリック・ラーソン、オリー・ジョンストン

ピクサー社屋は、レンガ作りの巨大な建造物で、
最新鋭のデジタル工房というより、一昔前の紡績工場を彷彿とさせる。
創始者のスティーブ・ジョブズは、歴史のある倉庫を買い取って
スタジオに改装する構想を持っていたが、適当な物件が見つからなかったため、
あえて古い工場のような建物を新設したのだという。

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