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本『フリー』

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略

『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』
著 クリス・アンダーソン
日本放送出版協会

『ロングテール』で有名なクリス・アンダーソンの新刊。
ゼリーの普及のため、レシピ本を無料でくばる、
カミソリの無料サンプルをお菓子につける、
といった、マーケティング手法としての“フリー”の歴史から、
フリーのビジネスモデルの分類、
マイクロソフト対リナックス、ヤフー対グーグルのフリー対決など
“フリー”について幅広く語っている。

アメリカでは7月に発売され、すでに賛否両論、
というかたくさんの反論もよんでいるが、まえがきにもあるように、
これは“フリー”がいいとか悪いとか結論を出す本ではなく、
デジタルによって、コストが下がったことで“フリー”への傾向は
避けられないことで、これをどうやって生かしていくのか、
という話である。

最近読んだ本の多くが、メディアビジネスの崩壊を説いているのに対し、
本書はびっくりするほど楽天的。
「ロングテールで成功できるのは、アマゾンだけじゃないか」というように、
フリーに対しても、いろいろ「それって本当に利益になるの?」
と文句をつけたいところもあるのだが、
実際に無料から利益をあげているビジネスモデルの例は学ぶところも多いし、
グーグルと新聞が提供するコンテンツの関係、クレイグリストと新聞広告の話など、
今後、メディアがどうやって収益を上げ、生き残っていけるのか、
わりと重要なポイントをついている。
(今、まさにアメリカは新聞コンテンツの有料化に関して議論が起こっているところ。)

「創業13年で、クレイグリストの無料広告はアメリカの新聞社の株価を
300億ドルも減らした張本人だと言われてきた。
そのあいだ、クレイグリストは、サーバーの費用と数十人の社員に
給料を払う程度しか利益を出していない。
2006年の収入は、わずかばかりの有料サービス(11の都市での
求人広告と、ニューヨーク市の空き室情報)から稼いだ約4000万ドルだ。
それは、その年にクラシファイド広告全体で減少した収入3億2600万ドルの
12パーセントにすぎない。
クレイグリストで生み出される価値のほとんどは
創業者のクレイグ・ニューマークの手元には入らずに、
数十万人のサイトのユーザーに分配されている。」

「なぜグーグルは、他の企業がフリーを経済的強みとして
利用できるかどうかを気にするのだろう。
それは他の企業が情報をつくり出してくれるからこそ、
グーグルはそれをインデックス化して整理し、
あるいは他の情報と抱きあわせて自分のビジネスにできるからだ。
もしもある産業で、新しいビジネスモデルが収益をあげられるようになる前に
デジタルのフリーがその産業そのものを非収益化してしてしまったら、
全員が敗者になってしまう。
 無料のクレイグリストの成功は、大都市の日刊紙を衰退させ、
多くのプロのジャーナリストが仕事を失った。
だが、低コストでユーザーが発信するハイパーローカルという代わりの選択肢は、
大手新聞の衰退で生まれたギャップを埋められるほどには成長していない。
いつの日か埋めるだろうが、今はまだだ。
それは、グーグルがインデックス化できる地方ニュースが減ることを意味する。
ローカル情報自体は増えたとしても、クオリティを保証する専門の報道機関の
ものだとは言えない。そのため、どれが信頼できてどれが信頼できない
情報なのかを判別しなければならなくなるが、それはむずかしい問題だ。
 つまりグーグルは新聞業界にビジネスを続けてほしいのだ。とはいえ、
グーグルの広告モデルが成功して新聞から広告市場のシェアを奪っていることが、
新聞の存在をあやうくしている。これはシュミットを悩ますパラドックスだ。」

銀食器セットを景品にしているポルトガルの新聞の例など、
日本でも宝島社がやっている付録戦略みたいなもんだよなと。


◆読書メモ

典型的なオンラインサイトには5パーセント・ルールがある。
つまり、5パーセントの有料ユーザーが残りの無料ユーザーを支えているのだ。
フリーミアムのモデルでは、有料版を利用するユーザーひとりに対して、
無料の基本版のユーザーが19人もいる。
それでもやっていける理由は、19人の無料ユーザーに
サービスを提供するコストが、無視できるほどゼロに近いからだ。

BMI(音楽著作権管理団体)は、ニューヨークを本拠地とする
ASCAP(米国作曲家作詞家出版社協会)に無視されていたリズム&ブルースや
カントリー&ウエスタンなどの地方で活動するミュージシャンをすぐにひきつけた。
人気で劣る彼らは、金銭よりも自分の曲が放送されることを望んだので、
ラジオ局がタダで自分たちの曲を流すことを認めた。
これにより、ラジオ局から著作権料をとろうというビジネスモデルは崩壊した。
その代わりに、ミュージシャンはレコードやコンサートで稼ぐようになり、
ラジオは重要なマーケティング手段となった。

いくらであっても料金を請求することで、心理的障壁が生まれ、
多くの人はわざわざその障壁を乗り越えようとは思わない。
それに対して、フリーは決断を早めて、試してみようかと思う人を増やす。
フリーは直接の収入を放棄する代わりに、広く潜在的顧客を探してくれるのだ。

これはフリーが及ぼしうる悪い影響のひとつだ。
タダで手に入れたものにはあまり注意を払わないから、大切にしないのだ。
そのときに、ほんのわずかな金額でも請求すれば、
はるかに責任のある行動をもたらすはずだ。

無料と有料が連携したときにうまく機能するのはこれが理由だ。
お金よりも時間がある人、その逆の人、自分の技能に自信があって、
自分の手でものをつくりたい人、その逆に誰かにやってもらいたい人など、
幅広い消費者心理が存在する。そして、無料と有料を組み合わせれば、
そうした心理をすべてカバーできるのだ。

半導体チップは18ヵ月ごとにトランジスタ数を二倍にしている
(だから、二年前後で同じ価格のiPodの新モデルが、
旧モデルの二倍の音楽を納められるようになるのだ)。

 iPod発売以前には、誰もポケットの中に自分の音楽コレクションすべてを
持っていたいとは思わなかった。だがアップル社のエンジニアは、
記憶容量が潤沢であることの経済的意味を理解していたのだ。
彼らは、コスト当たりのディスクドライブ容量が増えるペースは、
プロセッサよりも速いことを見てとった。
巨大な音楽カタログを持ち歩きたいという需要がiPodの開発を
うながしたのではない。物理学と工学がうながしたのだ。
アップルのエンジニアは、ミードの言葉を借りれば、
「テクノロジーの声を聞いた」だけだった。
 彼らは2000年に東芝がおこなった発表に注目した。
「近いうちに1.8インチのハードディスクに5ギガバイトを
記憶できるようになります」。それはどのくらいの記憶容量だろうか。
トランプのカードよりも小さなドライブに音楽が1000曲納められるくらいだ。
そこでアップル社は単純にそのテクノロジーを製品化して発売した。
すると、供給はみずからの需要をつくり出した。
消費者は自分の音楽ライブラリを持ち歩くことなど考えてもみなかったが、
いざそれができるとなったら、たちまちその便利さを理解した。
すべての音楽を持っていれば、今日は何を聴こうかと
いちいち用意する必要はなくなるのだ。

一方で、情報は高価になりたがる。なぜなら貴重だからだ。
正しいところに正しい情報があれば、私たちの人生さえ変わりうるのだ。
他方で、情報はフリーになりたがる。なぜなら情報を引き出すコストは
下がりつづけているからだ。今はこのふたつの流れがせめぎ合っているのだ。
(『ハッカー倫理』第三条 スチュワート・ブランド)

『クラウド化する世界』の著者ニコラス・カーは次のように記した。
「グーグルが情報を無料にしたがるのは、情報コストが下がれば、
より多くのお金が稼げるからだ」

(『ワイアード』誌のマガジンルームでは、)編集中の最新号の全ページが
ずらりと壁に貼られている。ページの内容が形になってくると、
ページの位置を移動させ、もっともよい流れやリズムを見つけたり、
記事同士やアート的要素が衝突することを避けたりするためにそうするのだ。
 壁に貼られている段階で、<広告/編集衝突>にも注意する。
つまり、コンテンツと関連がありそうな広告が一緒になることだ。
これは<チャイニーズ・ウォール>と言って、従来のメディアの大半が、
編集チームと広告チームのあいだに築いている壁で、
広告主が編集者に影響を及ぼせないようにしているのだ。
読者に信頼される必要もあるので、車の記事のとなりに車の広告を載せたり、
ソニー製品のレビュー記事の近くに広告を配置したりしないようにして、
見た目の影響さえも避けている。
理想は、ひとつの号に同種の製品の広告と記事を掲載しないことだ。
 このことをグーグルの友人に説明すると、彼は信じられないといった顔をした。
それもそのはずだ。グーグルではまったく逆のことをしているのだから。
 驚異的な成功を収めたグーグル・アドセンスの魅力は、
広告とコンテンツが一致していることだ。まさに私たちが禁じている
行為をするグーグルに、広告主は多額の料金を支払う。
つまり、ソニー製品のレビューのとなりにソニーの広告を置くのだ。
そして読者はそれを喜ぶ。関連性こそ大切なのだ。

「作家の敵は著作権侵害ではなく、世に知られないでいること」
ティム・オライリー

違うのは、スポーツクラブの会員は利用しないことで、さぼってしまったと
いやな気分になるが、ネットフリックスの会員はDVDを数週間借りっぱなしでも、
延滞料金が発生しないので、いい気分のままいられる点だ。

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