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本『クラウド時代と<クール革命>』

クラウド時代と<クール革命> (角川oneテーマ21)

『クラウド時代と<クール革命>』
著 角川歴彦
角川oneテーマ21

角川グループの会長によるインターネット論。
大衆がクールだと感じたモノやサービスだけが勝ち残り、社会を変革していく、
それを“クール革命”とよび、この時代を生き抜く道を考察する。

2年あまり書き続けた原稿をまとめた、ということで、
クール・パワーからweb2.0、クラウド・コンピューティング、著作権まで
話があっちこっち、散漫になりすぎた印象はあるが、
67歳という著者の年齢を考えると、この時代を見る眼の鋭さに感心する。

何年か前、ユーチューブの幹部が来日し、
著作権問題について放送局や権利団体と話し合ったことがあるが、
ほとんどの権利団体がユーチューブを糾弾したのに対し、
角川グループはユーチューブを公認し、
投稿動画を利用して広告事業をスタートすることを選んだ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』など角川作品の一部は期間限定で
ユーチューブのチャンネルで配信されている。

著者はユーチューブは「投稿動画版のコミケ」であり、
ユーチューブやコミケから新しい文化が生まれるという。

「ユーチューブを視察した折に、もし、コミケを認めて
ユーチューブを否定することがあったら、クリエイティブ産業に身をおく
自分に“老い”があることにならないかと自問したのである。」

日本に大きな変化の波が訪れる時期を2014年と予想。
出版にとって「今が正念場」と言い切る。
出版グループのトップが覚悟をもって、
新しい時代を生き抜こうとする姿勢が清々しい。


2006年に『タイム』がユーチューブを「Person of the Year」に選んだ
というのは「Invention of the Year」の誤りだと思う。
同じページに掲載されているタイムの表紙を見てもわかるように、
タイムが選んだPerson of the Yearは「You」。
これは著者がいう「大衆」に通じる。
YouTube、Time誌の「Invention of the Year」に

そのほか、『時をかける少女』が細田守初監督作だとか、
「購入した電子書籍はキンドルでしか閲覧できず、
パソコンや携帯電話に移植して読めない」というのも誤り。
(後半では、「アマゾンで買ったデジタルの本は、
パソコンでもiPhoneでも読むことができる」という記述があり、
ソフトやアプリが提供された現在、こちらが正しい。)

重箱の隅をつつくようで申し訳ないけど、
全体的にはとてもおもしろいのに、
こうしたケアレスミスがあるととても気になる。
(編集が指摘しろって話ですが)


◆読書メモ

「大衆」の英知に誰もがアクセスでき、大衆が「すごい」「カッコいい」
「クール」と賞賛するモノや出来事が社会を変革していく。
それが「クール革命」だ。

日本も90年代には、アメリカに20年以上遅れて精神文化の国へと傾斜していった。
アナーキズム(無政府主義)が台頭したアメリカの混沌とは異なり、
日本人らしく自分を省みる「自分探し」が潮流となった。
自分の存在意義や価値を探り、個性やスキルを高めることで充足感を得よう
とする動きは、90年代以降に青春を過ごした世代に顕著にみられる。

現実社会では政治集会なり映画イベントや音楽コンサートで
100万人の大集会を催すことはほぼ不可能といっていい。
大体、都会にはそれだけの人が集まる場所がない。
ところが、インターネットで成功しているサイトは、
100万単位で人が集まっている。この規模に達しないサイトには、
恐らく広告代理店やスポンサーは見向きもしないだろう。
「Web2.0」現象とは何かと問われれば、
100万人単位で人が集まることを可能にしたことだ、と答えよう。
リアル社会では不可能だったことを「web2.0」はネット社会で実現した。

もちろん、つぶやき情報は、発信された直後から古びていく運命にあるが、
情報の広がりを常に「今」を基準に捉える点で、
全く新しいパラダイムシフトを実現した。

巨大知は圧倒的な情報量にこそ価値があるのだ。
例えば大変な手間と費用をかけて実施しているマーケティングや
消費者調査の結果など、ウェブのナマ情報の中で比較的容易に
見つけることができる。有りのままの情報を知ることで、
どう勝か、なぜ負けたか経営判断の分岐点になる可能性もある。
そうなると、質が高いか低いかは関係ない。
大衆が率直な感想を発信していることに大きな意義があるのだ。

出版社の好むと好まざるとにかかわらず、音楽マーケットの決着がつけば
次の主戦場は出版ということになる。そしてそれは今だ。
私のように出版市場に軸足を持つ者にとって正念場は今だ。

日本の出版市場は、世界的に見ても格別に大きい。
コンテンツ産業の全売り上げは14兆円。
そのうち音楽は1.9兆円だが、新聞を含む出版市場は6兆円もある。

コンテンツの大バンドル時代には、映画も本やコミックも音楽も
デジタルマスター化されるだろう。「知の管理倉庫」ともいうべき
巨大なデータベースに保存され、ユーザーは光ファイバーや高速大容量通信を
通じて好きなコンテンツを容易にダウンロードでき、いつでも、どこでも、
一体サービスとして楽しめるようになる。
例えば筒井康隆原作の『時をかける少女』を小説でも細田守監督によるアニメでも
原田知世主演の実写映画でも一つの端末から自由に選択して楽しむ、
こんな夢のようなことが実現するのだ。

大衆がクール(賢い・かっこいい)と感じたモノとサービスだけが市場で勝ち残る。


本『セカイ系とは何か』

セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (ソフトバンク新書)

『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』
著 前島賢
ソフトバンク新書

“セカイ系”とは何か。
セカイ系の代表といわれた『ほしのこえ』、『最終兵器彼女』、
『イリヤの空、UFOの夏』をはじめとするゼロ年代の作品を読み解くことで
『エヴァンゲリオン』が後世の作品に与えた影響を浮き彫りにする。
というのが本書。

いや、おもしろかったです。

『エヴァ』以降、主人公の自意識は中心テーマとして描かれるようになる。
それを正確に受け継いだのは、ポスト・エヴァのアニメ作品ではなく、
ライトノベル『ブギーポップは笑わない』と美少女ゲーム『雫』だった。
美少女ゲーム『ToHeart』で繰り広げられるのは“学園エヴァ”のような光景であり、
美少女キャラクター、萌えがゼロ年代前半のオタク文化を牽引する。
そして、『ほしのこえ』、『最終兵器彼女』、『イリヤの空』が登場し、
西尾維新がデビューし、『涼宮ハルヒの憂鬱』が刊行。
ここまでが2003年あたり。
セカイ系という言葉は東浩紀ら文芸批評へと進出し、
ライトノベル・ブームが起こる。
セカイ系という言葉も2005年頃には飽きられていたところ、
宇野常寛『ゼロ年代の想像力』でセカイ系批判として復活。
作品としてのセカイ系ブームは終わっており、
現在では、『らき☆すた』、『けいおん!』などの日常系・空気系へ
オタク文化は移行している。

ざっと、こうしたゼロ年代のオタク文化の流れが、
いくつもの作品を分析しつつ語られていく。
宇野常寛vs東浩紀みたいな、論壇を論じるような話は
正直、どうでもいいと思うが、(そんなこと騒いでるの論壇の人だけですよ)
全体的な流れは非常に納得できた。
東浩紀らの作品分析がどうにも哲学的文章で読みにくいのに対し、
本書は言っていることも明確。(むしろわかりやすく書きすぎてややくどい)

私自身は『エヴァ』はどうにも好きになれないんだけど、
『エヴァ』以降、オタクの受容態度が大きく変わったとか、
『エヴァ』をまず受けついだのが、ラノベと美少女ゲームだったとか、
あー、たしかにそうだよね、と。

本書を読んで、とりあえず『ほしのこえ』を見返してみたけど、
その後の『雲のむこう、約束の場所』、『秒速5センチメートル』よりも
ずっと純度が高い。

「世界っていう言葉がある。私は中学の頃まで、
世界っていうのは携帯の電波が届く場所なんだって漠然と思っていた」
(『ほしのこえ』)

とりあえず、『ブギーポップ』と『ハルヒ』を再読して、
『イリヤ』と西尾維新を読んでみようと思いました。


◆読書メモ

『エヴァ』という大ヒット映像作品の後に訪れた新世紀、
ゼロ年代前半のオタク文化において中心となったのは
映像ではなく活字のメディアだった。

『エヴァ』以後、時代の潮流となったのは美少女キャラクターを消費する
「萌え」という作品受容の態度であり、それに最も適していたのは
アニメではなく美少女ゲームとライトノベルだった、と。

ポルノグラフィとしての美少女ゲームも大きく変質した。
ポルノ描写の地位が主から従へと移行したのだ。
これはポルノ描写が薄くなったとかおざなりになったとかいう
単純な問題ではない。ゲームの面白さを感じる部分が、
フルサイズのCGが表示されているイベントシーンではなく、
立ちキャラクターと背景が表示されている日常シーンへと移行したのだ。
(『美少女ゲームの臨界点』元長柾木)

オタクたちのもつ共通前提、お約束の束から、ミカコとノボルの物語を語るのに
必要なだけの要素(たとえば、少年と少女はロボットに乗って戦うもの、
であったり、宇宙船はワープするもの、であったり)を取り出して
組み合わせて作られたのが『ほしのこえ』だと言える。

これら(『ほしのこえ』、『最終兵器彼女』、『イリヤの空、UFOの夏』)の
作品で排除されたのは(社会や中間領域ではなく)「世界設定」なのである。
作品の中に挿入される「宇宙世紀0079」や「星団歴2998」といった架空の歴史、
あるいは「モビルスーツ」や「モータヘッド」、「ミノフスキー粒子」や
「イレイザーエンジン」といったSF設定を基に、物語の背景に存在する世界観へと
アクセスするという読み方そのものが、ここでは排除されている。
『最終兵器彼女』の世界では、ちせは何と戦い、その兵器は
どのような原理で稼働しているかはまったくわからない。
『ほしのこえ』も同様だし、『イリヤ』もまた、秋山自身が語るように、
意図的に排除されている。そして読者はそのような設定などまったく気にせず、
青少年の自意識に、あるいは少年と少女の恋愛、悲恋にベタに感情移入する。

敢てミもフタもなく言ってしまえば、「セカイ系」とは「学園ラブコメ」と
「巨大ロボットSF」の安易(であるがゆえに強力)な合体であって、
つまり「アニメ=ゲーム」の二大人気ジャンルを組み合わせて
思い切り純度を上げたようなものである。
(『美少女ゲームの臨界点』佐々木敦)

私たちの多くが夏目漱石や太宰治(あるいは伊坂幸太郎や石田衣良でもいい)
といった自然主義的リアリズムで書かれた作品を読むと、おそらく頭のなかでは
実写映画として再生されるはずである。一方、新井素子や谷川流といった
ライトノベル=まんが・アニメ的リアリズムで描かれた作品を読む時、
読者たちの頭には、アニメのような映像が再生される。

君はもっといろんなアニメを見ておくべきだった。僕の見たアニメでは
敵にも戦う理由が描かれていたよ
(『ゲキ・ガンガー3』)

関連記事:
『秒速5センチメートル』
『涼宮ハルヒの憂鬱』
『オタクはすでに死んでいる』
『ゲーム的リアリズムの誕生』

本『キンドルの衝撃』

キンドルの衝撃

『キンドルの衝撃』
著 石川幸憲
毎日新聞社

タイトルは『キンドルの衝撃』だが、テーマとしては
電子書籍は新聞を救えるのか、
デジタル化によってアメリカメディアはどう変わるのか
といったあたりの内容。

前半のアメリカの新聞の衰退については
『次に来るメディアは何か』『2011年 新聞・テレビ消滅』など
ほかの本でも読んでいるので目新しさには欠ける。
ただ、デジタル化に力を入れているニューヨーク・タイムズと
課金モデルで成功しているウォールストリート・ジャーナル、
それぞれの取り組みがわりとハッキリわかった。

電子書籍については、キンドルの日本上陸(2009年10月)、
iPadの発表を受けて、ここ数ヵ月で日本でも大きな話題になっている。
個人的にはiPhoneで青空文庫を読んだときから、
デジタル化の流れはもう止まらないだろうと思っている。
しかし、電子書籍がメディアを救うかどうかはまた別の問題な気もする。

ひとつには電子書籍のレイアウトはどうあるべきか、という問題。
ニュース記事ならもうネットでテキストを読むだけでも十分だ。
マガストアのような雑誌のレイアウトをそのままiPhoneにもってきたアプリは
むしろ読みにくい。コミックもiPhoneで読むと大ゴマの感動が薄い。
(iPadやキンドルの大きさならアリかもしれない)
そもそも、紙で読まないものをデジタルにしたからって読むのだろうか。

その一方で、産経新聞アプリは意外に読みやすい。
(拡大、縮小のインターフェースは使いにくいけど)
多くのニュースサイトがブログ対応になってしまって、
どのニュースが大きくて、どのニュースが小さい取り扱いなのか、
よくわからなくなってしまった今、新聞のレイアウトというのは
実にわかりやすいんだ、と再確認したり。

デジタル化したからといって紙の書籍がすぐになくならないだろう
とは、今のところ共通認識のような気がする。
しかし、たとえば、映画『半分の月がのぼる空』を見て
原作を読みたいと思ったときに、すぐダウンロード購入できたら、
それはすごく便利だろう。(かわり青空文庫で『銀河鉄道の夜』を読んでみた)

本書の著者も元通信記者なので、メディアは生き残れるか、
という視点から電子書籍を論じているが、
そもそも新聞とか雑誌という形でメディアが生き残る必要があるのか、
ジャーナリズムはなくならないだろうけど、その形は変わるのではないか。
とかとか、いろいろ考えながら読みました。


◆読書メモ

エリザベス・アイゼンスタイン『印刷革命』

「本の最大の特色は、読み始めると消えてしまうことだ。
本を読んでいる最中に、インクや糊や紙や綴じは気にならない。
著者の世界にはまり込むわけだ。4年前にキンドルを開発し始めた時に
デザインの第一目標にしたのが、このコンセプトだ。
キンドルは消えなければならない。
そうしないと、読者が著者の世界に入れないことになる。」
(ジェフ・ベゾス)

電子書籍の売り上げ実績(AAP調べ)を見ると、
06年が5400万ドルだったが、翌年には6700万ドルに増えた。
共に前年比では24%前後の増加であった。
だが、08年に総売り上げが1億ドルの大台を超え1億1300万ドルに
急上昇した。68.4%の増加率であった。

「今一番売れているのがシューズだが、10年前には想像もできなかった」
(ジェフ・ベゾス)

「タブレット(電子端末)が新聞の将来だ」
(ルパート・マードック)

メディア研究機関「ポインター・インスティチュート」(フロリダ州)の
リック・エドモンズ研究員は、新聞業界が初期の段階で
インターネットの正体を見誤ったのではないか、と危惧する。
「私見だが、新聞社は活字とインターネットを必要以上に二者択一の
問題として捉えてしまった。これだけ多くの人たちが印刷版とオンライン版
(通常、職場で仕事中に読んでいる)の両方を読むとは誰も予想していなかった。

1つ確かなことは、ネット新聞では
印刷版の日刊紙に必要な規模の編集局が維持できないことだ。

最大の問題は、現在の新聞ウェブサイトが原則的に記事見出しの
羅列でしかなく、印刷版特有の有機的なレイアウトが欠如していることである。
この意味で印刷版をデジタル化した電子新聞-ウェブ版ではなく
専用端末で読む電子版-に将来性があるのではないか。
レイアウトなども印刷版と本質的に違わないので、キンドルDXなどの
大型パネル搭載の端末を使えば、新聞らしさを味わいながら
記事を読むことができるだろう。ネットに飛躍するのではなく、
印刷版の半歩先に新聞の将来があるように思われる。

フックスバーグ 紙の新聞のようにページごとに紙面が現れ、
新聞らしくレイアウトされた記事を縦横に読む。あるいは
関心のある記事だけを選択して読むことも可能だ。
例えば、ニューヨーク・タイムズをこの画面で見ると、
独特のフォント、紙の見た目や感覚が再現されている。
スキッフのシステムは、同紙の伝統に気配りしているので、
読者は違和感なく読むことに集中できる。
-そんなこだわりは本当に必要なのだろうか。
フックスバーグ 新聞や雑誌のフォントや規格・デザインを忠実に
再現するシステムは、ビジネスの面で重要だ。新聞社や出版社が
スキッフというプラットフォームの採用を検討する際に、安心感を
抱いてもらえるだろう。自社のプロダクトの個性が尊重されているからだ。
(ギルバート・フックスバーグ・スキッフ社長)

町のレコード屋は大型店の進出で廃業に追い込まれた。
その一方で、タワーレコードのニューヨーク(イーストビレッジ)店などは、
ヨーロッパの最新CDを限定販売したりして音楽好きの若者のメッカに
なっていた。タワーレコードは、1980年代に日本への進出を果たした。
米国のタワーレコードは、2004年に倒産し再建を試みたが失敗。
2006年に廃業したことは記憶に新しい。日本のタワーレコードは
米国本社から独立して、別企業になっていたので元親会社の
清算による影響はなく、現在、日本全国で81店舗を運営している。

ニューヨーク・タイムズの時価総額(2009年12月28日現在)は
17億7000万ドルなので、1976億ドル以上のグーグルからすれば
簡単に買える(ニューヨーク・タイムズの場合にはオーナー家が
複数議決権のあるA株を保有しているので、実質的に乗っ取りが
できない仕組みになっている)。要するに、グーグルやマイクロソフトが
その気になれば、メディア企業の買収は赤子の手をねじるようなものだろう。
もしこのシナリオが実現すれば、新聞社などがペーパーレスの
デジタルメディアへと大変身する機会になる。

本『フィギュアスケートに懸ける人々』

フィギュアスケートに懸ける人々-なぜ、いつから、日本は強くなったのか (小学館101新書)

『フィギュアスケートに懸ける人々
なぜ、いつから、日本は強くなったのか』

著 宇都宮 直子
小学館101新書

日本のフィギュアスケートというと、荒川静香を輩出した
野辺山合宿がトリノ以降有名になった。
本書もそこらへんの話が中心かなと思っていたのだが、
伊藤みどりと山田満知子コーチの出会い、
満州から帰国し名古屋にスケートを伝えた小塚崇彦の祖父、
佐藤信夫コーチ、佐藤有香と小塚一家の交流、
プリンスアイスワールドと堤義明などなど、
人と人との出会いが、いかにフィギュアスケートを育ててきたのか、
という話が語られていて、とてもおもしろい。

経済的な問題や、採点競技であることの難しさ
(長い間、アジア人はジャッジに認められなかったし、
無名の選手がいきなり高得点を取ることはできないし、
各連盟と折り合いが悪いインストラクターからは選手が出てこない)
にも多少、触れている。
ここ、たぶん、すごく重要なんだけど、深くは語られていない。
今回のバンクーバーオリンピックでも、フィギュアスケートには
大きな力が働いていていることを思い知ったわけであるが。

新書なので、各エピソードがあっさりしてるのも残念。
ただ、これを読んでから小塚くんのフリーの演技を見ると、
「ああ、おじいちゃんが喜んだろうな」と思えて微笑ましい。
(小塚の祖父は小塚が10歳のころ、トリプルを跳べるようになると
「これからは4回転の時代がくる。トリプルがきちんと跳べるようになったら、
すぐに4回転の練習を始めなさい」と言ったという。)

本『Googleの全貌』

Googleの全貌

『Googleの全貌』
著 日経コンピュータ
日経BP社

Google Wave、Chrome OSなど、グーグルのウェブアプリケーションから、
Gearsによるオフライン化、データセンターの仕組み、
ストリートビュー騒動やFacebookの台頭など今後の課題まで、
グーグルの全貌に迫った本。

30人以上のグーグラー(グーグル社員)にインタビューしているとのことだが、
「グーグルは世界を変える技術をもっている、だからここにいる」みたいな
優等生的な返答が多い。
今まで知らなかったグーグルのサービスや取り組みなども紹介されているが、
元々が『日経コンピュータ』の記事をまとめたものなので、
やや散漫で、全体を通して「これがグーグルだ」というものが見えてこない。
(それだけグーグルが大きくなったということでもあるのだが)
キー・バリュー型データストアやコードの話も
わかりやすく解説しようとしているのだが、
そのぶん、実際のところがよくわからない。

という意味で意欲作ではあるんだが、
ちょっと残念という本でした。
ここから「グーグルとは何か」を始めるには、よい起点になると思う。


◆読書メモ

デスクトップコンピュータの「デスクトップ」とは、
物理的な机上(デスクトップ)のメタファだ。そしてファイルやフォルダという、
これも現実のメタファを使って情報を整理したり利用したりする。
しかしWebの世界には、利用者が扱うべきファイルはない。時々は
Webからファイルをダウンロードしたりするが、本質的にWebは、
デスクトップや、フォルダに収めるファイルといった物理世界における
何らかのメタファで表現したり組織したりするには巨大すぎる。
デスクトップのメタファは退場するべきだ。ユーザーにとって、
世界はもっともっとシンプルにできる。ユーザーはデータを管理するために、
ファイルをあちこち移動させるべきではない。
(ブラッドリー・チェン氏)

本『著作権の世紀』

著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)

『著作権の世紀 変わる「情報の独占制度」 』
著 福井健策
集英社新書

デジタル化やネット化によって存在感を増している著作権について、
最近の事例を用いながら解説。今後、著作権はどうあるべきかを考える。

著作権の話は法律がからむので非常に難しい。
公衆送信権って言われてもよくわからないけど、
つまりはアニメやJPOPなど著作物を許可なく
ネットにアップロードしちゃいけないってことだ。
情報を発信する側の敷居が低くなったことで、
著作権は身近な問題になった。なのに、難しい。

この本では、槇原敬之対松本零士事件にみる類似性の問題とか、
海洋堂フィギュア事件に見る実用品の美術性とか、
『おふくろさん』騒動にみる同一性保持権とか、
具体例が非常にわかりやすく、
一般的にも関心の高かった事件があげられている。
そもそもJASRACは編曲の権利をもっていないので、
カヴァー曲については許可を出すことができない、
なんて初めて知りましたよ。

そのほか、著作権の二十年延長、NHKアーカイブス、
DRM、日本版フェアユースなど、
最近、ネット上でも話題になった
著作権がらみの問題がわかりやすく解説されている。

あと、おもしろいと思ったのが、擬似著作権。
肖像権、パブリシティ権、寺社・公園の撮影禁止、
「オリンピック」、「ワールドカップ」という言葉の知的財産など。
これらは法的には問題ないのに、権利が主張されることが増えたという。
(建築の著作物は基本的に撮影その他の利用は自由という
例外規定がある(第46条))

著作権ってのはグレーゾーンがいかに広いか、
法律を整備するだけで対処できない問題もある
ってことがよくわかる良書です。


本『明日をどこまで計算できるか?』

明日をどこまで計算できるか?――「予測する科学」の歴史と可能性

『明日をどこまで計算できるか?
「予測する科学」の歴史と可能性』

著 デイヴィッド・オレル
早川書房

私たちはどこまで未来を予測できるか。
天気、医療、経済を中心に、科学的予測を考察する。

科学的にみえる本書だが、なんとギリシアのデルポイから
話は始まる。いけにえを捧げ、神託を伺っていた時代から、
未来予測はどう変わったのか。

天動説は円を中心にしたとても美しい説だったので、
科学者たちは天動説に固執し、円では説明できない
惑星の動きをなんとかこれに当てはめようとした。
その後、地動説は惑星の動きを数学によって求められるようになった。
では、すべてのものごとは計算で求められるのではないか。
著者は基本的にこれを否定する。
天気予報にしても、最初の観測モデルの数値を微妙に変えるだけで
その後の結果は大きく変わってしまう。誤差を正しく計算することはできない。

数式はほとんどでてこないものの、セル・オートマトン、
バタフライ効果、ランダムウォークなどの用語が次々に出てきて、
正規分布やら、べき乗など数学の知識がないと話についていけない。
なので、正直なところ、私には本書は難しすぎて、半分も理解していないのだが、
デルポイの神託から鳥インフルエンザまで、登場するエピソードがおもしろい。
つまりは、未来を予測するのがなぜ難しいのか、
という話なのだが、最後まで飽きずに読める。


◆読書メモ

ピュタゴラスは、快さを感じる音同士の関係は、いずれも数によって
表わすことができると気づいた。そして、もっとも豊かな表現力を
もつ芸術である音楽が数に還元されるのであれば、
それ以外のものにもこの原則がことごとく当てはまると考えた。
ピュタゴラスの宇宙(コスモス)では、恒星や惑星、月、太陽は
入れ子状態になった同心の透明な天球に納められており、
これらの天球すべてが「宇宙の調和(ハーモニー)」を奏でるように
地球のまわりを周回している。
ピュタゴラスはこの調和を「天球の音楽」と呼んだ。

「科学が追究する実体は数学によって表現できるものでなければならず、
数学はわれわれに可能なもっとも正確で明確な思考である」
プラトン

プラトンは、ある日夜空を見上げていて溝に落ちた数学者ターレースの
話をしたことがある。使用人の少女がターレースを助けて、
こう言ったという。「自分の足元に何があるかさえ見えないというのに、
どうやって空で何が起きているか知ろうと言うのですか?」

ピュタゴラスは惑星が地球を周回するとき天体の音楽を聞くことが
できると主張した。ケプラーはそれをさらに進めてその音楽の音符も
割り出した。彼はこう言った。「地球は『ミ、ファ、ミ』と歌う。
このことだけからも、私たちの住むこの地球には悲嘆(ミザリー)と
飢饉(ファミン)があふれていることが了解できる」

気象学者は突如として、自分たちが軍事行動の計画立案を
行なう人々にとって欠かせない人材となっているのを知った。
実際に、気団の間の境界を意味する「前線」という用語は、
第一次世界大戦の軍事用語から取られたものだ。

リチャードソンは、6時間分の予測計算に約6週間かかっている。
「いつしか遠い未来に、天気よりも早く計算を進められるように
なるかもしれない。しかし、それは夢だ」とリチャードソンは結論している。
リチャードソンが思い描いたのは、「コンピューター」がたくさんいる
「予報工場」のような大きなホールだ。リチャードソンの言う
「コンピューター」とは計算尺を手にした人々のことで、
それぞれが大気の小さなセル一つで変化の計算を担当している。
壁には世界地図が描かれており、中央の演壇には一人の人物が
「オーケストラの指揮者のように」いて、誰も遅れることがないよう
見張っている。リチャードソンは、自分の方法では、
天気の進行に遅れないようにするためだけでも、
6万4000人の「コンピューター」が必要だと見積もった。

1941年、ナチスの気象学者だったフランツ・バウアーはヒトラーに、
その年のソ連は、暖冬か例年通りの冬になると言った。
ヒトラーは軍事侵攻を決断したが、十分な準備をしていなかった
ドイツ軍の兵士たちは、それまでにないような厳しい冬に、
凍えて死んでいった。その戦況を知らされたバウアーは、
「観測が間違っているに違いない」と言った。

短期間の天気だけを問題とするなら、気象モデルの長期的な精度を
それほど気にかけることはないし、誤差の原因は学究的なテーマになるだろう。
しかし、解決が不可能そうなモデル誤差が理由で、来週の天気予報が
外れるなら、地球温暖化が生物圏に与えるさらに複雑な影響を、
数十年も前に予測できると考える根拠はどこにもないのが問題だ。

「人はかつて自分たちの未来は星の中にあると思っていた。
今ではそれが遺伝子の中にあることを知っている」
ジョームズ・ワトソン

ビル・ゲイツがシアトルのセーフコ・フィールドに野球観戦に行ったら、
同じく観戦している人たちの平均純資産は4倍に増える。

「問 その計算が正しいことを証明できますか?
答 数学者にしか、できません」
アイザック・アシモフ『ファウンデーション』

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