« 本『セカイ系とは何か』 | トップページ | 本『風が強く吹いている』 »

本『クラウド時代と<クール革命>』

クラウド時代と<クール革命> (角川oneテーマ21)

『クラウド時代と<クール革命>』
著 角川歴彦
角川oneテーマ21

角川グループの会長によるインターネット論。
大衆がクールだと感じたモノやサービスだけが勝ち残り、社会を変革していく、
それを“クール革命”とよび、この時代を生き抜く道を考察する。

2年あまり書き続けた原稿をまとめた、ということで、
クール・パワーからweb2.0、クラウド・コンピューティング、著作権まで
話があっちこっち、散漫になりすぎた印象はあるが、
67歳という著者の年齢を考えると、この時代を見る眼の鋭さに感心する。

何年か前、ユーチューブの幹部が来日し、
著作権問題について放送局や権利団体と話し合ったことがあるが、
ほとんどの権利団体がユーチューブを糾弾したのに対し、
角川グループはユーチューブを公認し、
投稿動画を利用して広告事業をスタートすることを選んだ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』など角川作品の一部は期間限定で
ユーチューブのチャンネルで配信されている。

著者はユーチューブは「投稿動画版のコミケ」であり、
ユーチューブやコミケから新しい文化が生まれるという。

「ユーチューブを視察した折に、もし、コミケを認めて
ユーチューブを否定することがあったら、クリエイティブ産業に身をおく
自分に“老い”があることにならないかと自問したのである。」

日本に大きな変化の波が訪れる時期を2014年と予想。
出版にとって「今が正念場」と言い切る。
出版グループのトップが覚悟をもって、
新しい時代を生き抜こうとする姿勢が清々しい。


2006年に『タイム』がユーチューブを「Person of the Year」に選んだ
というのは「Invention of the Year」の誤りだと思う。
同じページに掲載されているタイムの表紙を見てもわかるように、
タイムが選んだPerson of the Yearは「You」。
これは著者がいう「大衆」に通じる。
YouTube、Time誌の「Invention of the Year」に

そのほか、『時をかける少女』が細田守初監督作だとか、
「購入した電子書籍はキンドルでしか閲覧できず、
パソコンや携帯電話に移植して読めない」というのも誤り。
(後半では、「アマゾンで買ったデジタルの本は、
パソコンでもiPhoneでも読むことができる」という記述があり、
ソフトやアプリが提供された現在、こちらが正しい。)

重箱の隅をつつくようで申し訳ないけど、
全体的にはとてもおもしろいのに、
こうしたケアレスミスがあるととても気になる。
(編集が指摘しろって話ですが)


◆読書メモ

「大衆」の英知に誰もがアクセスでき、大衆が「すごい」「カッコいい」
「クール」と賞賛するモノや出来事が社会を変革していく。
それが「クール革命」だ。

日本も90年代には、アメリカに20年以上遅れて精神文化の国へと傾斜していった。
アナーキズム(無政府主義)が台頭したアメリカの混沌とは異なり、
日本人らしく自分を省みる「自分探し」が潮流となった。
自分の存在意義や価値を探り、個性やスキルを高めることで充足感を得よう
とする動きは、90年代以降に青春を過ごした世代に顕著にみられる。

現実社会では政治集会なり映画イベントや音楽コンサートで
100万人の大集会を催すことはほぼ不可能といっていい。
大体、都会にはそれだけの人が集まる場所がない。
ところが、インターネットで成功しているサイトは、
100万単位で人が集まっている。この規模に達しないサイトには、
恐らく広告代理店やスポンサーは見向きもしないだろう。
「Web2.0」現象とは何かと問われれば、
100万人単位で人が集まることを可能にしたことだ、と答えよう。
リアル社会では不可能だったことを「web2.0」はネット社会で実現した。

もちろん、つぶやき情報は、発信された直後から古びていく運命にあるが、
情報の広がりを常に「今」を基準に捉える点で、
全く新しいパラダイムシフトを実現した。

巨大知は圧倒的な情報量にこそ価値があるのだ。
例えば大変な手間と費用をかけて実施しているマーケティングや
消費者調査の結果など、ウェブのナマ情報の中で比較的容易に
見つけることができる。有りのままの情報を知ることで、
どう勝か、なぜ負けたか経営判断の分岐点になる可能性もある。
そうなると、質が高いか低いかは関係ない。
大衆が率直な感想を発信していることに大きな意義があるのだ。

出版社の好むと好まざるとにかかわらず、音楽マーケットの決着がつけば
次の主戦場は出版ということになる。そしてそれは今だ。
私のように出版市場に軸足を持つ者にとって正念場は今だ。

日本の出版市場は、世界的に見ても格別に大きい。
コンテンツ産業の全売り上げは14兆円。
そのうち音楽は1.9兆円だが、新聞を含む出版市場は6兆円もある。

コンテンツの大バンドル時代には、映画も本やコミックも音楽も
デジタルマスター化されるだろう。「知の管理倉庫」ともいうべき
巨大なデータベースに保存され、ユーザーは光ファイバーや高速大容量通信を
通じて好きなコンテンツを容易にダウンロードでき、いつでも、どこでも、
一体サービスとして楽しめるようになる。
例えば筒井康隆原作の『時をかける少女』を小説でも細田守監督によるアニメでも
原田知世主演の実写映画でも一つの端末から自由に選択して楽しむ、
こんな夢のようなことが実現するのだ。

大衆がクール(賢い・かっこいい)と感じたモノとサービスだけが市場で勝ち残る。


« 本『セカイ系とは何か』 | トップページ | 本『風が強く吹いている』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/27590/33851718

この記事へのトラックバック一覧です: 本『クラウド時代と<クール革命>』:

« 本『セカイ系とは何か』 | トップページ | 本『風が強く吹いている』 »