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本『キャラクターメーカー』

キャラクターメーカー―6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」 (アスキー新書)

『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』
著 大塚英志
アスキー新書

『映画式まんが入門』がおもしろかったので、シリーズ1作目である
『キャラクターメーカー』を読んでみた。

「キャラクター」とは「属性」の組み合わせであり、
ダイスを振って、順列組み合わせでキャラクターをつくるとか、
「聖痕」つきのキャラクターをつくる、というワークショップがおもしろい。
実際にこのワークショップに取り組んだ学生が考えたという
キャラクターには、十分に「物語」が含まれている。
ダイスを振ってキャラクターをつくることが、結果的には
どうやって「私」を「物語」として描くか、ということになっているのだ。

ワークショップの前に「キャラクター記号説」とか
「ファミリー・ロマンス」とか、「物語の構造論」など
理屈っぽい話が続くのだが、難解ではあるものの、
大学でやった比較文学論が大好きだった私としては、ここがめっぽうおもしろい。
聖書やギリシア神話、グリム童話などをひと通り読んでおくと、
ハリウッド映画やヨーロッパ文学の基本パターンが見えてくる。
(といいつつ、どれもちゃんと読んでないままですが。)

小説を書くことに興味がなくても、
物語論入門として非常によくできている。

◆読書メモ

「自己表現」としての「文学」や「アート」をやりたいと主張し、
その割には何もしていない人を、今も昔も見かけもします。
それらの人々がひどく空っぽな「私」を「ある」と言い張っているのに比べれば、
まんがやアニメーションの「キャラクター」には
むしろつくり手の豊かな「固有性」があふれていると思います。

水野葉舟『ある女の手紙』

ブログの中であなたたちが見せているつもりの「本当の私」も、
反対に「2ちゃんねる」の「名無しさん」たち一人一人の当人は
書き込みの過激さとは正反対の人であったりする事態も含め、
ウェブ上にあるのはどれも「アバターとしての私」「キャラクターとしての私」
という現象のようにぼくには思えます。
ウェブは「匿名」やハンドルネームからなる「アバターとしての私」が
あふれている場所ですが、ぼくにはそこであたかもこの国の近代文学が
やり直されているように思えます。ぼくの印象では「近代」とは「言文一致」という
新しいツールで誰もが「私」について話し始めた時代なのです。
今は「言文一致」がウェブというツールに取って替わられたのだといえます。

こういう「空想」をフロイトはファミリー・ロマンスと呼びました。
子供が成長していく過程の中で自分の親は本当の親ではないという
「空想」をすることで子供は「親」から「自立」していくと彼は考えました。
フロイトそのものがファミリーロマンスという問題を考えるきっかけに
なったのは、彼の弟子オットー・ランクが書いた『英雄誕生の神話』
という論文に触発されてでした。
ランクは、古今の英雄神話がそれこそエディプスもモーゼも
ジークフリートもアキレスも誰もが「捨て子」として出発し、
養父母に育てられ本当の親と出会う物語としてある、と指摘しています。
神話上の英雄はファミリー・ロマンスを自分の自己実現の物語として生きるわけです。

「私」を足場にしてキャラクターを「つくろう」としても、
大抵そこで人は自分の「私」を制御できないからです。
文芸評論家の松本徹先生がある女子大で小説の書き方を教えていた時、
リストカット系告白小説を書いてきた学生に「読者は君の『私』について
知りたいのではない」と叱ったというのを人伝に聞いたことがあります。
それは「私」をキャラクターとして禦し切れていなくては「文学」も「ノベルズ」も
書けないよ、ということだと思います。

西欧では、民話は(子供や農民の)娯楽文学、(都会人の)逃避文学と化して
久しいが、それはなおきわめて重大で責任の重い冒険の構造を呈示している。
なぜならそれは結局加入儀礼のシナリオに還元され、繰返し繰返し、
加入儀礼の試練(怪物との戦い、一見乗越えがたい障害、謎とき、難題など)、
冥府への下降もしくは昇天(または同じ結果になるもの-死と復活)、
王女との結婚がみられる。ヤン・デ・フリーズがまことに正しく強調したように、
民話が常にめでたしめでたしで終ることは確かである。
しかし、その固有の内容は、象徴的死と再生によって無知と未成熟から
成人の精神年令に移行する加入儀礼という、恐ろしく厳粛な現実に言及する。
(ミルチャ・エリアーデ『エリアーデ著作集 第七巻 神話と現実』)

主人公は作中で「自分探し」をします。この「受け身」なのに自分探しをする
という他力本願っぷりは、主人公の最大の属性と言えます。

ルーカスが『スター・ウォーズ』のシナリオをジョセフ・キャンベルの指導を仰ぎ、
単一神話論に基づいて執筆したことはよく知られています。

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