« 本『イマココ』 | トップページ | 本『キャラクターメーカー』 »

本『ワインと外交』

ワインと外交 (新潮新書)

『ワインと外交』
著 西川恵
新潮新書

各国の首脳をもてなすために行なわれる饗宴。
そのメニューをとおして国際関係を読み解くという非常におもしろい本。

たとえば、2005年2月、ベルギーの米大使公邸で
ブッシュ大統領とフランスのシラク大統領の夕食会が開催され、
付け合せにポテトのフレンチフライが出された。
フレンチフライは「イラク戦争直前、フランスに反発した米国が
「自由(フリーダム)フライ」と言い換えたもので、
ブッシュ大統領は「これはフレンチフライだ」と笑いながら口に運んだ。」
つまり、フレンチフライを出すことでアメリカとフランスの和解を象徴している。

また、2004年6月、ノルマンディー上陸作戦60周年を記念して行なわれた
式典の昼食会。ワインはシャトー・クリマン89年、シャトー・ラトゥール89年。
「興味深いのは白、赤とも89年のヴィンテージで揃えたこと。
エリゼ宮のソムリエは「ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結して
新しい世界が誕生した区切りの年にしました」と語る。」

歓迎レベルで品数が変わったり、
もてなす国の食材や関連のあるワインが出されたり、
たんに豪華な食事だと思っていたものが、
実は深い計算にもとづいたメニューだとわかる。

そのほか、天皇が外交に果たした役割や、
旧日本軍によってインドネシアでオランダの兵士や民間人が
抑留された過去をもつ、オランダのベアトリックス女王が、
いかに時間をかけて天皇のオランダ訪問を実現させたかという話が印象的。
ベアトリックス女王は戦争被害者の団体取りまとめ役であったハウザー氏に、
天皇が戦没者慰霊塔を訪れる際の随従役を頼んでいる。
「ハウザー氏が振り返る。
「両陛下はまず一礼した後、慰霊塔に歩を進められた。そして花を置かれ、
深く黙祷された。かつて私は強制収容所で、日本の方に向かって皇居遥拝を
毎朝やらされていた。その天皇がオランダ人犠牲者に真摯に黙祷を捧げられている。
私には忘れられない光景だった。」」

外交とはかくも緻密な努力と知性で成り立っているのかと感心する。
『アマルフィ 女神の報酬』などでも外交官の活躍は描かれているが、
たいていは爆弾テロや誘拐事件など。(『アマルフィ』にも首相の奥さんの好みとか
オペラにどう招くかとかの打ち合わせシーンはありますけどね)
むしろ、席順をどうするか、ワインの銘柄は、観光で回るルートは、
といった地味な場面でも、物語になるんじゃないかと、この本を読んで思った。


◆読書メモ

午餐会がもたれた日の朝、ハタミ大統領は東京工業大学で
「日本の詩とイランの神秘主義」のタイトルで興味深い講演を行っている。
「アリストテレスの哲学は、人間を『話す合理的な動物』と定義づけましたが、
イスラム神秘主義や禅は沈黙の卓越性と優越性を説いています」
「自分たちの固有の文化と思想の泉を探究することによって、
テクノロジーの浸透の中でもアイデンティティーを喪失することはないのです」
哲学的、思索的表現を繰り出しながら、ハタミ大統領は
言葉に絶対的な信を置く西洋に対して、日本の禅やイランの神秘主義は、
沈黙から多様な示唆と寓意を汲み取ること、相手の言うことにまず耳を傾けることが
対話の始まりであり、相手の立場を重んじるのは東洋・アジアの風土であること、
またグローバリズムにあっては、それぞれ固有文化を尊重することが
大事であることなどを説いた。
これは欧米の価値秩序に対するアジアからの価値秩序構築の提唱であり、
共通の文化的土壌をもつ日本とイランの戦略的提携こそが枢要であるとの呼びかけだった。


« 本『イマココ』 | トップページ | 本『キャラクターメーカー』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/27590/34837077

この記事へのトラックバック一覧です: 本『ワインと外交』:

« 本『イマココ』 | トップページ | 本『キャラクターメーカー』 »