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本『イマココ』

イマココ――渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学

『イマココ 渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学』

著 コリン・エラード
早川書房

動物と人間のナビゲーション能力について研究した本。

アリはエサを探して半径200メートルの範囲をランダムに進むが、
エサを持って帰るときは、まっすぐ巣までの直線コースを帰る。
つまり、アリは自分が今どこにいるかつねに把握している。
(アリの移動距離を人間に換算すると約36キロになり、
この距離をアリは正確に把握している。アリすげー。)
伝書バトは磁場を感じ取り、方角を見極めている。

人間はこのような方向を認識する能力は弱いが、
ほかの動物とはちがった方法で空間を認識している。
抽象的な空間を理論的に把握することは得意だという。

この人間の空間認識能力をもとに、居心地のいい家のレイアウトや、
より買い物をするショッピングモール、都市空間などが研究されている。

私的にショックだったのは、ル・コルビュジエ的都市空間は、
パリの郊外などに、貧しい人々が隔絶された危険な区域をつくり、
「米国で低所得者向けに、モダニズムの原則にそって建てられた
低コストの公団住宅は、空間の利用法をまちがえると
社会的なネットワークが崩壊することを実証している」という話だ。
都市空間については、またいろいろと調べてみたい。

動物と人間のナビゲーション能力から、人間の空間認知能力、
住環境、都市空間、ワークスペース、サイバースペース、
そして自然環境へと、話が広がりすぎて、
結局、何がいいたかったのかいまひとつわかりにくい本ではありますが、
アリがすごい、ということだけでも読むとおもしろいです。


◆読書メモ

イヌイットはその土地で生き残るため、細かいところまで注意して見る能力が
必要だったせいか、それが言語にも自然に入り込んでいる。
イヌイット語には位置を示す言葉が必ず含まれている。
イヌイット語の三語文を英語に翻訳すると「この細長い物を、私が指している
あの細長いものの端に交差するように置いてください」という20語もの文になる。

体の向きについて話すとき、ほとんどの文化圏で
「前」と「うしろ」をはっきり区別している。
「右」と「左」にも、文化によってさまざまな意味が含まれることが知られている。
大半の文化では、左より右のほうが格が上ということになっている。
私たちは右手で握手をし、食事に道具を使わない土地では、右手で料理を取る。
頼りになる補佐役は「右腕」だ。
英語の科学文献ではいまだ左手をsinistral handと書く。
これは現在のsinister(不吉な・邪悪なという意味)の語源となった言葉で、
もともとは左利きを意味していた。
しかし、おもしろいことにアジア文化では左のほうが格が高い。
アジアでは基本方位が南なので(たとえば紫禁城の正門は南向きだ)
左が日の昇る側となり、特別な意味合いを与えられているのだ。

人間は複雑性と対称性の高い空間をもっとも心地よいと感じ、
開放的で対称性の高い空間をもっとも美しいと感じ、
開放的で複雑な空間をもっともおもしろいと感じるのだ。

ウィニフレッド・ギャラハーは、住宅の設計の進化に関する
著書『ハウス・シンキング』で、成功している建築家の中には、
眺望と隠れ場の影響を感じる直観力にすぐれた者がいると書いている。
たとえば建築家のフランク・ロイド・ライトは、天井を低くしたアルコープ
〔壁の一部を引っ込ませてつくった空間〕を好んだが、
とくに暖炉のそばの居心地のよい場所につくるのが好きだった。
生存という原始的本能の観点から言うと、暖炉のそばの安全な場所こそが、
家の他の部分を見渡せる典型的な隠れ場と考えられる。

文化が家の建てかたに影響を与えているよい例としてもうひとつあげられるのが、
とりわけイスラム教国で広くつくられている、中庭を囲むコートハウスだ。
この方式で家をつくると、住人のプライバシーを守れると同時に、
家族の男女別、世代別の建物をひとつの家に建てられるという利点がある。
親戚同士がひとつの家に暮す場合でも、この方式なら、
共有の空間では外部の目を気にせず過ごすことができる。
また建物を分けることで、男女や世代間の身体的な接触を避けることもできる。

もうひとつの例として、北京の有名な胡同(フートン)と呼ばれる路地に見られる、
中庭つきの家をあげておこう。外から見ると家を囲む塀は平凡なレンガづくりで、
扉も質素なものだ。だが塀の中には美しく造園された中庭があり、
中庭を囲んで大家族の居場所ごとに、つくりのちがう建物が建っている。

フードコートは客をなるべく長居させないような設計になっている。
そうした場所はとても開けたつくりになっているのが一般的だ。
壁で囲まれた落ち着ける場所をつくらないよう、
座席のまわりは幅の広い通路が取り囲み、食事が出てくるサービスカウンターに
客が向かいやすいようになっている。またフードコートは明るい照明に照らされ、
明かり採りの窓があったり、天井が高くなったりしている。
そしてテーブルは三人以上のグループで食事がしにくいよう配置されている。
そうした工夫によって、人はちょうど、郊外のマックマンション(労働力、資力節約型で
大量生産される、周辺の環境に不釣合いな大邸宅)にある、
大げさな玄関ホールの真ん中で食事をしているような気分になる。
さっさと金を払って食べ物をかきこみ、買い物という戦いの場へ戻りたくなるのだ。

シスコシステムズとヒューレット・パッカードの両社は、この開放型オフィスを採用した。
社員はできるだけ家(またはスターバックス)で仕事をすることを奨励される。
会社に行く必要ができたときには、その仕事を求められた場所へ行けばいい。
この二社によると、社員同士の交流が増え、また、オフィスが小さくてすむため
経済的利益も増すという利点があったという。

しかし各社員が仕事場を持たない開放型が、必ずしもキュービクル方式の問題点を
解決するとはかぎらない。開放型のオフィスの失敗例として有名なのが、
ロサンゼルスとニューヨークにオフィスを構える広告代理店のシャイアットデイ社だ。
同社では、社員同士が協力しやすくなるようにと、個人用の仕事場をなくし、
社員には仕事の内容に応じて社内の好きな場所で仕事をするように促した。
その結果、当初の目的のひとつだった社員同士の交流は確かに増えた。
しかし一方で社員からは、プライバシーが保てない、集中できない、
人を探すのに時間がかかるという苦情も出た。結局、シャイアットデイ社は
オフィスをもとの形態に戻している。

空間と光と秩序。
これらはパンや寝るための場所と同じくらい、人間にとって必要不可欠なものだ。
ル・コルビュジエ

都市空間は、建物の中の空間と同じで私たちの行動に影響を与えるが、
それにはおもにふたつの道筋がある。第一に空間の構造と外見は、
私たちがどう感じるかに直接的かつ大きな影響をもたらす。
第二に都市空間の構造は、私たちがどう動くか、どこへ行くか、
どのくらい多くの人が都会の大小の道路のモザイクの中で動き回るか
などに影響を与えることがある。

『アメリカの大都市の死と生』
ジェイン・ジェイコブズ

ジェイコブズの主張の中心をなすのは、「人(ライフ)が人(ライフ)を引き寄せる」
という言葉である。都市の活気を保つには、人がたくさん集まる公共の場所が
数多く必要だ。これは一部には、そうした公共の場所、とくに歩道は、
仕事、娯楽、休養の機会を提供するものでなくてはならないということである。
歩道はじゅうぶんに広くとって、目的地へ向かう歩行者だけでなく、
ただぶらぶらしている人も受け入れなくてはならない。
一区画(ブロック)の距離は短く、歩行者がブロックからブロックへと
簡単に移動できるようにするべきだ。
こうした性質がまとまると人の流れが生まれ、「通りを見ている目」が増える。
部分的に共通する目的を持つ他人同士が集まることで、公共の場所を
他人と共有しているという感覚が生じる。だれもが空間の価値を理解していれば、
だれもがその全体性と、それを維持している行動基準を守る。
この信頼と理解という有機的なネットワークがあるからこそ、
通りは家庭の中と同じくらい安全な場所になる。

『都市のイメージ』
ケヴィン・リンチ

『ロンドン-バイオグラフィー』
ピーター・アクロイド

1993年、24基の人工衛星からなるナブスター「全地球位置把握システム(GPS)」
の配置により、地上にある電子機器を使って、
現在位置を数メートルの誤差で割り出せるようになった。
このシステムが推進された理由のひとつが軍事利用であったため、
フル稼働する前の数年間は一般市民向けのGPS信号にはわざとエラーを組み込んで、
誤差30メートル程度まで精度を下げていた。
事情を変えたのは1991年の湾岸戦争だ。軍事用のGPS機器が不足したため、
より広く使われていたGPS受信機(おもに船舶や狩猟に使われるレベル)を
戦場でも使えるようにエラーが取り除かれたのだ。
そのときからエラーは作動されないままになり、GPS信号が航空機と船舶の
ナビゲーションを支える主力となった。軍はGPS信号を遮断する技術を持っているが、
もしそんなことをしたら大惨事を引き起こしかねない。

バーチャル環境における行動をもっと注意深く観察した研究によると、
人はデジタル空間でも、現実の空間にいるときと同じようなパターンで、
動いたり止まったりする。そのため実際の建物や都市の中で人の動きを
予測するのに都合のいいスペース・シンタックスの原則が、バーチャル空間にも
適用できると考えられる。何よりおもしろいのは、角度や距離を無視するために
自分が今いる位置がわからなくなってしまうという人間の性質が、
バーチャル空間でも当てはまるということだ。

現在、私たちがGPSやジオ・コード・データに惹かれるのは、私たちの生活において
「どこ」が重要であることを、心のうちで感じているからだと思われる。
グーグルの最高技術責任者であり、
グーグル・アースなどの地理空間アプリケーションの
開発者であるマイケル・ジョーンズは次のように述べている。
こうした地理的データに基ずくアプリケーションに
惹きつけられる何千万ものユーザーは、
最初は遊びや、知らない場所を見たいという気持ちで使っているが、最終的には
自分たちと世界中の本当の場所とのつながりを知り、引き出すために使うのだと。

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