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本『人間はガジェットではない』

人間はガジェットではない (ハヤカワ新書juice)

『人間はガジェットではない』
著 ジャロン・ラニアー
ハヤカワ新書juice

哲学的過ぎて何を言ってるのかわからないところもあったのですが、
著者のようにデジタルの最前線にいた人が
インターネットに抱く疑問には傾聴の価値があるかと。

「集合知」なんてありがたがってるけど、
個々人の意識が無視されることに問題はないのかとか、
「フリー」によって還元されるシステムはまだないとか。

◆読書メモ

 たとえばスタンフォード大学の研究者、ジェレミー・ベイレンソンが示したように、
バーチャルリアリティの世界で自分を表すアバターの身長をかえると、
社会的な自己認識や自信が変化する。技術は我々自身を拡張するものであり、
ジェレミーの実験におけるアバターのように、ガジェットをいじると
我々のアイデンティティーまで変化したりする。

もっと深く固定されているのが、ファイルという概念だ。
昔々……といってもそれほど前ではないのだが、ファイルという考え方は
あまりよくないと思うコンピューター研究者がたくさんいた。
たとえば、テッド・ネルソンのザナドゥはワールドワイドウェブのようなものを
めざして考えられたものだが、全体をひとつにまとめ、
巨大なグローバルファイルを作る形になっていた。
製品化にいたらなかった最初のマッキントッシュは
ファイルというものを持っておらず、ユーザーの作ったものが
すべてひとつの巨大構造として蓄積されることになっていた。
ひとり1ページで作るウェブページのような感じだ。
マックプロジェクトはもともとジェフ・ラスキン(故人)が始めたものだが、
これをスティーブ・ジョブズが引き継ぎ、ファイルが登場した。

チューリングについて知っておくべきもうひとつの点は、
ゲイが違法な時代にゲイであったことだ。
そして、同性愛を矯正できるとされていた怪しげな医療措置を、
ある意味、慈悲の処置として英国の管理当局により受けることになる。
なんと、女子ホルモンの大量投与だ。
同性愛の矯正になぜ女性ホルモンの大量投与なのか。
コンピューターが登場するまで、人の特性を理解するメタファーには、
一般に蒸気機関が使われた。性的な圧力が高まってマシン全体が
おかしくなっているのだから、逆のエキス、つまり女性のエキスを与えれば
バランスが回復し、圧力が低くなると考えられたのだ。
これは教訓としてとらえるべき話だ。
今、人のモデルやメタファーとしてコンピューターがよく使われるが、
その妥当性は当時の蒸気機関と大差ない可能性がある。
治療の結果、チューリングは胸が膨らむなど女性的な特質が発現して
落ち込み、青酸カリを仕込んだリンゴを食べて自殺してしまう。
その少し前、チューリングは精神的な概念を世界に提示した。
これが有名なチューリングテストだ。

検索エンジンは自分の欲しいものをわかってくれているのか、
それとも、こちらが基準を検索エンジンのレベルまで引き下げているから
賢く見えるのか? 深遠な新技術と出会えば人の認識力が変化するのは
当たり前だと言えるが、同時に、機械の知能を本物だと取り扱うためには、
人間の精神的よりどころを現実まで堕とす必要がある。

人の成果物の断片がインターネットにあふれているが、
ここから集団意識やノウアスフィアと呼ばれるものが生まれると
考える人たちがいる。集団意識もノウアスフィアも、
ネットを媒体にグローバルな形で生まれようとしている超知性を
指す言葉だ。グーグルの創業者の片割れ、ラリー・ペイジのように、
ある時点でんたーネットが命を宿すと考える人もいれば、
科学史家、ジョージ・ダイソンのようにもうそうなっているかもしれない
と考える人もいる。

私が言いたいのは、コンピューティングクラウドというイデオロギーから
生まれるユーザーインターフェースが人々から―我々全員から―
優しさを奪っているということだ。トロール(オンライン環境で口汚く
ののしる匿名の人)はたまたま発生するものではなく、
オンライン世界の現状そのものなのだ。

全国統一試験のコンピューター解析が教育に与えた影響は、
フェイスブックが友情に与えた影響と同じだ。
いずれの場合も、人生がデータベースに変換される。
この劣化は、いずれも、同じ哲学的まちがいによって引き起こされている。
つまり、人間の考えや関係を今のコンピューターが表現できるという考え方だ。
どちらも、今、コンピューターにはできないことだというのに。

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