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本『ラーメンと愛国』

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)
『ラーメンと愛国』
著 速水健朗
講談社現代新書

戦後、アメリカの戦略によって入ってきた小麦、
そこから生まれたスパゲッティナポリタン、
安藤百福によるチキンラーメンの誕生と大量生産技術、
『渡鬼』、『男おいどん』に見るラーメンというノスタルジー、
捏造されたご当地ラーメン、作務衣を着た若者がつくる
和風の食べものへの変化などなど、
ラーメンを通して読み解く日本史であり、経済史であり、文化史。

縦横無尽な語り口があいからずうまい。
あっちこっち話が飛んでしまいがち(それがおもしろいのだけど)な
前作より、ラーメンというテーマがすべてを吸収しているので、
筋が一本通っていて読みやすかった。

いちばんおもしろいのは最終章「ラーメンとナショナリズム」なのだが、
ほかの章に比べてやや駆け足なのは残念。
若者の右傾化(ナショナリズム)、ロストジェネレーションが反映された結果が
あの作務衣であり、店頭のラーメンポエムなのかと。

子供のころはカップラーメンは食べさせてもらえず、
うちでラーメンというと『中華三昧』であり、
サークルの先輩が二郎について熱く語っていたとか、
スキーに行ったときに喜多方ラーメン食べたとか、
初台の「東京ラーメン てん」に行ったらジャズがかかっていて、
小奇麗な居酒屋みたいな店で驚いたとか、
「九段下 斑鳩」の行列に並んでまで食べる味かと思ったり、
自分の個人的経験と普通にシンクロしていて笑った。
ラーメンの歴史をたどるとたしかに日本の歴史が見えるんだねー。

関連本:
『自分探しが止まらない』
『ケータイ小説的。』
『タイアップの歌謡史』

◆読書メモ

現在でも、レストランや食堂など、家庭以外で食事をすることが
“外食”と呼ばれるのは、この「米飯外食券」「外食券食堂」などという
言葉ができた配給時代の名残である。

開戦直前の日本政府は、軍人、官僚、学者、ジャーナリストなどから
優秀な人材を集め、日本がこの戦争に勝てる可能性がどれだけあるかを
調べさせる研究所を設立する。その名もまさに「総力戦研究所」である。
これについては猪瀬直樹の著書『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)が詳しいが、
この研究所が下した結論は、石油資源、物資自給力、生産力、
あらゆる面において日本はアメリカに劣り、「日米戦日本必敗」というものだった。

北海道の札幌ラーメンと九州の博多ラーメンは、
それぞれ別のルートで中国の北方、南方から伝わり、
別々に進化した食べものだというのである。(略)
札幌ラーメンと博多ラーメンは、「ラーメン」という標準語が生まれたとき、
同じ料理のバリエーションであるという
都合のいい書き換えが行なわれただけで、
本来は別のルーツを持つ別の料理である可能性が高いのだ。

ご当地ラーメンが「郷土の気候、風土、知恵が混じりあい、
その地域に根ざした」ものであるという言説に異を唱え、
観光化のかけ声とともにあるとき突然変化したものであって、
「地域の個性や特性」を反映したものではないということを指摘してきた。
むしろ戦後の日本において、地方が個性を失い、
固有の風土が消え去り、ファスト風土化する中、
観光資源として捏造されていったのがご当地ラーメンである。

こうした作務衣を着るラーメン店主のイメージを生んだのは、
おそらく「博多一風堂」の創業者である河原成美である。

“作務衣系”がラーメン屋を代表するスタイルとして完全定着を果たすのは、
1990年代末のことだ。そしてそのイメージはおそらく陶芸家に代表される
日本の伝統工芸職人の出で立ちを源泉としている。
第二章では、生産技術に勝るアメリカに、“職人の匠”だけで戦争を挑み
大敗を喫した日本が、戦後はものづくりで復興を遂げた経緯を述べた。
だが、90年代のラーメンの世界は、再びものづくりのロールプレイモデルとして
“職人の匠”を重視する伝統職人を選んだのである。

実際の陶芸家は作務衣を着ない。

阿部潔はこれが単なる右傾化ではないということも指摘する。
浅利慶太の演出が典型であるように、「日本の伝統」「ナショナルなもの」
を表出しようとしながらも、生まれてくるのは、一度、自分たちの視点を
西洋側に置いた上での「日本の伝統」、つまりは西洋視点のジャポニスムを
真似てしまうという皮肉なものでしかないからだ。

これらの指摘は、ラーメン屋が「日本の伝統」「伝統工芸の職人の出で立ち」
を再現しようとして、まったく正統性のない「作務衣」を着てしまうのと同じであり、
そのメカニズムを説明してくれるものである。ラーメンこそ、浅田が言うところの
「表層的な摸造としての日本への回帰」を
1990年代に果たした代表的な存在と言える。

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