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本『インサイド・アップル』

『インサイド・アップル』
著 アダム・ラシンスキー
早川書房

秘密主義で知られるアップルの経営システムとは、
ジョブズの後を継ぐのは誰なのか、意思決定はどうなっている?
組織図は? などなど内幕に迫った一冊。

付箋貼りすぎて、途中でなくなってしまうくらいにおもしろかった。
アップルの秘密主義自体は今でも徹底されているので、
元幹部や社員、関係者に取材して書かれているのだが、
ここまで内部に迫った本はなかったはず。

秘密主義は外部だけでなく、内部にも徹底されており、
プロジェクトによっては工事を行ない、壁やドアを作り、
窓を磨りガラスにし、セキュリティバッジがないと入れなくなる。

iMovieのマーケティングに使用する結婚式のビデオを
ジョブズが気に入らず、撮り直した話とか徹底ぶりがすごい。

 「ビーチの結婚式がいいと言われたの。ハワイとか、
 そういう南国のロケーションで」。ギーニは言う。
 「ビーチで予定されている結婚式を探して、ビデオに撮って編集し、
 スティーブの承認を得るまでに数週間しかなかった。
 ぎりぎりの日程だったから、失敗はぜったいに許されなかったわ」

チームはマウイ島で式を挙げる美男美女の新郎新婦を探しだし、
クリエイティブ・ディレクター率いる撮影班がハワイに飛び、
前日に浜辺で夕日を位置をチェックしている。

ジョブズやアップルについて書かれたものはほとんどが情報不足で、
『iCon』もしくは、スタンフォード大学のスピーチからの引用で、
製品がいかにすばらしいか、ジョブズがいかに先見の明があったか、
称賛しているものが多い。
読む方はどうやって「すばらしさ」が作り出されているのか知りたいのに。
たいていの著者は“現実歪曲フィールド”にはまっていて、
アップルが言っているのと同じ言葉をくり返しているだけなのだ。
その点、著者はアップル信者ではないので、冷静に客観的に書かれていて、
やはりアップル信者ではない私にも読みやすい。

 「いまある教訓で、これからも役立つものをあげろと言われれば、
 いちばんすぐれたメッセージの伝え方は、明確、簡潔、反復
 ということです」。アップル退職後、シリコンバレーのオーパス・キャピタルで
 ベンチャーキャピタリストになったボーチャーズは、そう振り返る。
 「メッセージはだんだん飽きるものです。20回も説明会を開くと、
 毎回まったく同じように聞こえる。でも、じつはそれこそが望ましい。
 説明会に参加する人は初めてその説明を聞くんですからね。
 まずいのは、飽きたために説明がごちゃごちゃになってしまうこと。
 だから、同じことばをくり返し使うことが大事なんです。
 そうすれば消費者の耳には同じことばが届き、
 彼らが友だちに製品を説明するときにも同じことばを使うようになる」

ジョブズの後継者候補としては現CEOのティム・クック、
ジョナサン・アイブ、スコット・フォーストールの3人をあげている。
そして、誰もが思う「ジョブズ亡き後もアップルは維持できるのか?」
という疑問に対し、著者はノーと言っている。
アップルの独自のシステム、秘密主義で、細部にこだわり、
すべてをコントロールし、シンプルで力強い基調講演などは
ジョブズという存在があったから成り立った。
これをそのまま引き継ぐことはできず、
アップルは新しい組織へと変化しなければならないだろうとしている。
(ジョブズが築き上げたものは強固なので、
しばらくはこのままでもいけるとも予想してますが。)

◆読書メモ

一般公開されているインフィニット・ループ1番地の売店で、
次のようなことばの入ったTシャツが売られているのだ―
「私はアップルのキャンパスを訪問した。でもそれだけしか言えない」

クパチーノの本社のすぐ近くに、内部者がIL-7(インフィニット・ループ7番地、
実際の社屋は存在しない)と呼ぶ店がある。社内の噂では、
平服のアップルの警備員がこの店のバーカウンターの近くをうろついていて、
余計なことをしゃべった従業員が解雇されたことがあるらしい。
実話か作り話かはわからないが、そこは重要ではない。
従業員がその話をくり返していれば目的は達せられるのだ。

もちろん組織図がなくても従業員には実力者がわかる。
「経営チーム」、すなわちCEOに助言する少数の幹部の諮問機関が
会社を経営している。そしてそれを補佐する100名足らずの副社長の層がある。
しかし、アップルでは職位がかならずしも社内のステータスと一致しない。
誰もが暗黙のカースト制に気づいている。
まず、工業デザイナーは不可侵だ。ジョブズが亡くなるまで長年いっしょに
働いていたエンジニアの小集団も同様。
一方、DEST(「特別に優秀なエンジニア/サイエンティスト・テクノロジスト」の
頭文字)の称号を与えられた少数のエンジニアは、それぞれ会社に貢献し、
影響力もあるが、マネジメントの責務は負わない。

ほかの社員については、担当製品の成功の度合いによって
社内でのステータスが変わる。iPhoneとiPadが大きく成長していたとき、
社内でもっとも華やかなグループは、
iOSを担当するソフトウェア・エンジニアたちだった。
両方のデバイスにかかわるハードウェア・エンジニアと、
プロダクト・マーケティング担当者も序列の上位にいて、
そのあとiTunes、iCloud、その他のオンラインサービスが続いた。
かつて立役者だったマッキントッシュにたずさわる社員は、
このころアップルの階級でひとつ下と見なされていた。

「打ち合わせでも、週末をすごした湖畔の別荘の話なんてしない」。
ある上級エンジニアは振り返って言う。「すぐに仕事の話を始めるんだ」

アップルの上層部がいかに小さなことに心を砕いているか理解するために、
次のことを考えてみてほしい―ひとりのパッケージング・デザイナーが
この部屋に何ヵ月も缶詰になって、数ある仕事のなかでももっとも平凡なこと、
つまり、箱を開けるという仕事をやりつづけたのだ。
(略)この隠れたスタジオには、iPodの箱のプロトタイプが何百と積まれていた。
そう、顧客が新しいおもちゃを初めて手に取ったときの気持ちをデザイナーに
体験させる。それだけのために何百もの箱を用意したのだ。
デザイナーは、iPodの透明な箱に貼られたやはり透明なフルプリード印刷の
ステッカーをはがす位置を示すために、ありとあらゆる矢印、色、テープを
試しながら、小さなタブを次々と作っていった。

「アップル最大の特徴は統合だ。本物の統合を実現するには、
OSはもちろん、ガラスをどんなカッターで切るかといったことまで、
すべてコントロールしなければならない」
これは誇張ではない。アップルはガラスカッターを製造していない。
カッターを製造する会社も所有してないし、
カッターが使われる工場に社員も派遣していない。
しかし、部品のサプライヤーが使うべきカッターを指定している。

アップルでは「責任」の概念がとりわけ重視されている。
その象徴がDRIという社内用語だ。
「直接責任のある個人(ディレクトリー・レスポンシブル・インディビジュアル)」、
つまり、ある仕事で何かがうまくいかなかったときに、呼び出されて叱られる
社員のことである。興味深いことに、このDRIということばは
ジョブズの復帰前から使われている。

大半の企業では、電子商取引のウェブサイトを運営している担当幹部が
そのサイトに載せる写真を決めるが、アップルでは、
ひとつのグラフィックス・アート・チームが全社で用いる画像を選んでいる。

「Aクラスの人間はAクラスの人間を雇う。
Bクラスの人間はCクラスの人間を雇う。
わが社はAクラスだけを雇いたい」

人類学者のロビン・ダンバーは、1992年、人間が同時に意味のある
関係を保てるのは平均150人までであるという理論を説いた。
野生の霊長類の毛づくろいの習慣、すなわち生きていくのに必要な
仕事において、互いに他者を養い、助け合う行動を科学的に観察して、
その結論にたどり着いた。ジョブズも、別の生物の集団(1980年代に
初代マッキントッシュ・コンピュータを作ったエンジニアたち)を観察して、
似たような結論に達した。アップル初期のころ、マッキントッシュ部門は
100名より大きくしたくないと宣言したのだ。

アマゾン・ドットコムには「ピザ2枚」のルールがあった―
ひとつのチームの人数は、(しょっちゅうある)残業中の夜食を
ピザ2枚ですませられる数に収めるというものだ。

クックは冷徹なシステム思考型だが、ロジスティックスはより高度な
目的に用いなければならないと考えていた。
ジョナサン・アイブは、アップルに入社するずっとまえから、
テクノロジーに美しさを求めてやまない才能豊かなデザイナーで、
経営についてはなんの理想(デザイン)もなく、
アップルのどんな社員より自由を謳歌していた。
スコット・フォーストールは、ジョブズと意思をつうじ合える熱血エンジニアで、
いまのところ野心を抑えて、iPhoneとiPadというふたつの人気商品の
指揮権を手にしている。クック時代のアップルでも脇役の座に
甘んじられるかどうかは、今後の大きな見どころになるだろう。

ジョブズ同様、クックも言いわけは認めなかった。
就任したてのころ、彼のチームの会議でこんなことがあった。
アジアで深刻な問題が生じて、クックは幹部のひとりが中国に行って
対処すべきだと言った。そのあと会議が30分ほど続いたところで、
彼は突然話をやめ、ある幹部を見て真剣そのものの表情で尋ねた。
「なぜきみはここにいる?」
その幹部は席を立ち、服も着替えずに車で空港に向かって、
中国行きの飛行機に乗り込んだ。

かつてPCユーザーにマックを購入させるのがむずかしかったころ、
アップルはマックでウィンドウズを走らせる機能を追加した。
クックはマックのイベントでそれを実演した際に、
嫌われ者のマイクロソフトのソフトウェアをディスプレーに映し出すと、
眉ひとつ動かさずに言った。
「背筋がぞくぞくしますが、たしかにちゃんと動いています」

その才気、タフさ、細部へのこだわり、冷静沈着さは大いに称賛される。
オフィスに宝石職人が用いるルーペを置いていて、すべてのアイコンに
1ピクセルの乱れもないことを確認する。
UI設計のシンプルさはフォーストールの大きな強みのひとつだ。

「スノーレパード」というマック用OSの発売準備で、
マーケティング・チームは当初、希少動物であるそのヒョウの
ストックフォトを使うつもりだったが、もっといい写真にしたいと考え直した。
そこで撮影隊を送り、檻で飼われているユキヒョウの写真を撮った
―これもかなりの費用をかけて。けれども、スティーブ・ジョブズは
結果に満足しなかった。
「こいつは太っていて、だらしなそうだ。ハングリーにも、俊敏そうにも見えない」

アップルのマーケティング・コミュニケーション・チームは、
インフィニット・ループ1番地の向かいのM-3と呼ばれる建物で働いている。
(略)壁には白っぽい銀色の大文字で次のように書かれている―
「シンプルに、シンプルに、シンプルに」
最初のふたつの「シンプルに」は太線で消してある。

アップルストアの外見には、やはりアップルの細部へのこだわりが見て取れる。
各ストアに特色はあるものの、内装には木、ガラス、スチールの3素材しか
使わないなど、建築家が用いるデザインの要素は絞りこまれている。

アップルのソフトウェア部門の上級幹部を長く勤めたあと、
2006年に会社を去ったアビー・テバニアンは、
ジョブズが亡くなる数週間前にこう言った。
「スティーブがいなくなっても、ライバルにだってスティーブ・ジョブズはいない」

2001年、アップルがiPodと直営店の展開を発表してまもないころは、
ビジネスの大半がデスクトップとノートブックのコンピュータだった。
ところが2011年では、iPhoneが売上の44パーセントを占めている。
さらにiPadが19パーセント、iPodが7パーセント。
デスクトップとノートブックは、売上全体の20パーセントに下がった。

あまり知られていないが、ジョブズはネットワーク作りの達人で、
情報収集力もピカイチだった。いまのアップルにはその役割を継ぐ者もいない。
ジョブズは困難な状況になると優秀なジャーナリストに変身した。
電話をかけまくり、噂を耳にした人々を呼び出して、面会を求めた。
もちろんジョブズとの面談を断る者などいるはずがなく、
彼はそういった人々と話して情報を集めた。
ビジネスやテクノロジーの動向に関するジョブズの超人的な洞察力は、
ただのまぐれ当たりではない。彼なりの懸命な市場調査の賜物だったのだ。

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コメント

こんばんは!
ブログ拝見させていただきました☆

アップルの歴史は今後も日本のみならず世界に大きく貢献していくんでしょうね!
いろいろと楽しみですね。

他にもアップルのことなど面白い記事があったので、よろしかったらご覧になって下さい!

http://akb.cx/hQp

お邪魔しました)^o^(

コメントありがとうございます。

新しいMacBook ProのRetinaディスプレーはすごいですね。
ただ、『インサイド・アップル』を読む限りでは、ジョブズ亡き後のアップルは、やはり変わっていくのではと思います。

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