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本『トムは真夜中の庭で』

『トムは真夜中の庭で』
著 フィリパ・ピアス
訳 高杉一郎
岩波書店

児童文学再読2冊目は『トムは真夜中の庭で』。
私の永遠のジュブナイルは『冒険者たち』なんだけど、
小学生のときに斎藤惇夫さんにファンレターを出して、
返事にお勧めの本として紹介されていたのがこれ。
子供のときにこの本を読んでいたよかったと思う一冊。

トムが毎晩入っていく庭園のノスタルジックな美しさ、
時間SF的な構成をつかって「二度とは帰ってこない過去」を描くうまさ。
子供の頃は大きくなってしまったハティが悲しかったけど、
今読むと、ハティ側の心情も理解できる。

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本『買えない味』

『買えない味』
著 平松洋子
ちくま文庫

食べものや台所にまつわるエッセイ。
やや筆が飛びすぎで言い回しがうるさいところもあるが、
箸置きやテーブルクロスを使って食事をするとか、
鉄瓶でいれるお湯のおいしさとか、
飯櫃に移し変えた冷ごはんの意外な旨さとか、
ていねいに暮らすことの美しさにうっとりする。

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本『がんばれヘンリーくん』

『がんばれヘンリーくん』
著 ベバリイ=クリアリー、絵 ルイス=ダーリング
学研

時間ができたらやってみたいことのひとつ、児童文学の再読。
1冊目に選んだのがこれ。
『ゆかいなヘンリーくん』シリーズは、私が小学生のころは
『ラモーナは豆台風』までしか出てなかったけど、
図書館に行ってみたら『ラモーナ』の続編がたくさん出ていてびっくり。

ヘンリーくんと愛犬アバラー(原題ではリブシーだって今wiki見て初めて知った)
の波乱万丈の日常生活。
普通の毎日なんだけど、ヘンリーくんにとっては、
嫌いな劇に出ないようにするためにはどうしたらいいだろうとか、
フットボールがほしくて13ドル95セント貯めようとしたりとか、いつでも大問題。
それをヘンリーくんの努力と機転と超ラッキーで切り抜けていくのが
すごくおもしろい。この第1巻の『緑のクリスマス』のオチとか最高。

ハロウィンやイースターなどのアメリカのイベントも
この本で読んでめちゃくちゃ憧れてました。


本『機械より人間らしくなれるか?』

『機械より人間らしくなれるか?
AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる』

著 ブライアン・クリスチャン
草思社

審判団が人間とコンピュータプログラムとそれぞれ5分間チャットし、
どちらが本物の人間か判断する「チューリングテスト」。
チューリングは「2000年には5分間の会話で30パーセントの審判員を騙せる」
と予言したが、現在もこの基準は突破されていない。
ローブナー賞とよばれるチューリングテストの大会では、
高い得点を集めたプラグラムに「最も人間らしいコンピュータ」の称号が贈られ、
一方で、高い得票を集めたサクラに「最も人間らしい人間」賞が贈られる。

著者はこの「最も人間らしい人間」賞の獲得をめざし、
チューリングテストの大会に参加する。
過去の大会の会話記録を読み漁り、人間とチャットの差は何か、
ボットにアイデンティティはあるのか、人間らしいとは何かを考える。

チューリングテストこそ知っていたものの、このテストがいまだに
行われていることは知りませんでした。
著者はコンピューターサイエンスと哲学の学位をもっている人だけに、
大会の様子をドキュメンタリータッチに描くのではなく、
参加するまでに自分が「人間らしさとは何か」を考えた過程を執拗に検証する。
どんなプログラムなら人間らしく見えるのか、どういう風に会話を進めれば、
自分が人間だと審判にわかってもらえるのか。
サクラ役の人間は「自分らしくいればいい」とアドバイスされるが、
そもそも「自分らしい」とはどういうことかと著者は考える。

有名なディープブルーとカスパロフのチェス対決については
ほとんど一章ぶんが割かれているのだが、この対決で
チェス王者がコンピューターに負けたのは、カスパロフが
定跡の指し手を間違えたためだという。
定跡だけ指し続けるなら、人間だってプログラムと変わらないのでは?

哲学的な面がちょっと強すぎるので、
ドキュメンタリー的な部分がもっとあってもいい気がしますが、
「人間らしい」というのが実はすごく難しいことであると
これでもかと語っている、とてもおもしろい本。

奇しくも本日はアラン・チューリング生誕100年だとかで、
グーグルのトップがアルゴリズムゲームになっています。

Turing


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本『物語工学論』

『物語工学論 キャラクターのつくり方』
著 新城カズマ
角川文庫

新城カズマによる物語論。
7つのキャラクター類型から、“物語”の構造を解説。

ここでいう7つのキャラクター類型とは
・さまよえる跛行者(オイディプス、オデュッセウス、宮本武蔵)
・塔の中の姫君(シンデレラ、ラプンツェル)
・二つの顔をもつ男(バットマン、仮面ライダー)
・武装戦闘美女(アルテミス、オスカル、綾波レイ)
・時空を超える恋人たち(ロミオとジュリエット、タイタニック)
・あぶない賢者(フランケンシュタイン、ファウスト)
・造物主を亡ぼすもの(フランケンシュタインの怪物、マトリックス)

それぞれの類型は相互に関連しており、たとえば
『カリオストロの城』のルパンとクラリスは
現代的な<跛行者>と<姫君>のペア。

キャラクターができれば物語ができるわけで、
ここらへんは大塚英志『キャラクターメーカー』でも書かれていますね。
こういうのが頭に入っていると小説や映画を見ながら
キャラクター分類をして、物語の構造を考えるのに役立つかと。

新城カズマの小説自体は読んだことがないのですが、
『われら銀河をググるべきや』など、書くものは本当におもしろい。

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本『Think Simple』

『Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学』
著 ケン・シーガル
NHK出版

クリエイティブ・ディレクターとして、ネクスト、アップルと10年以上、
仕事をしてきた著者が語るアップルのシンプル哲学。

アップルの成功を羨み、真似したがる企業は多いが、
“シンプル”は決して簡単ではない。
“シンプルではない”会社の失敗例として、
インテルやマイクロソフト、デルなどの話が出てくる。

この本で一番おもしろいのは著者が実際にジョブズの側で
一緒に仕事をしてきたゆえに知っているエピソードの数々だろう。
「iMac」という名前を考えたのは著者だが、最初の候補は「MacMan」だった。
「iMac」という名前の素晴らしさは、その後のアップルの製品名が
「iPod」であり、「iPhone」であり、
「i」がつけばそれがアップルの製品であるということがわかることだ。
アップルの製品をだれも型番で呼んだりしない。

ジョブズが自分の会社の名前を「two」にしようとしていたが、
それでは「最初の会社はどうなったんだと誰もが思うのでは」と止められ、
ビル・ゲイツがスピーチの中で、マイクロソフトの新しいテクノロジーを
言い表すのに何度も「ネクスト」というのを聞いた友人からの提案で、
「ネクスト」に決まった話とかもおもしろい。

(著者は何度もMac対PCキャンペーンをすばらしいというのだが、
アメリカと日本ではCM自体が違うからイメージも違うのだろうか。)

この本を読んだからといって、すぐにシンプルになれるわけではないし、
アップルのように成功できるわけでもないが、
簡単には真似のできなジョブズの哲学として、
そこらへんのビジネス書よりはずっとおもしろい。

 シンプルであることは、複雑であることよりもむずかしい。
 物事をシンプルにするためには、
 懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。
 だが、それだけの価値はある。
 なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。
 -スティーブ・ジョブズ

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