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本『Think Simple』

『Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学』
著 ケン・シーガル
NHK出版

クリエイティブ・ディレクターとして、ネクスト、アップルと10年以上、
仕事をしてきた著者が語るアップルのシンプル哲学。

アップルの成功を羨み、真似したがる企業は多いが、
“シンプル”は決して簡単ではない。
“シンプルではない”会社の失敗例として、
インテルやマイクロソフト、デルなどの話が出てくる。

この本で一番おもしろいのは著者が実際にジョブズの側で
一緒に仕事をしてきたゆえに知っているエピソードの数々だろう。
「iMac」という名前を考えたのは著者だが、最初の候補は「MacMan」だった。
「iMac」という名前の素晴らしさは、その後のアップルの製品名が
「iPod」であり、「iPhone」であり、
「i」がつけばそれがアップルの製品であるということがわかることだ。
アップルの製品をだれも型番で呼んだりしない。

ジョブズが自分の会社の名前を「two」にしようとしていたが、
それでは「最初の会社はどうなったんだと誰もが思うのでは」と止められ、
ビル・ゲイツがスピーチの中で、マイクロソフトの新しいテクノロジーを
言い表すのに何度も「ネクスト」というのを聞いた友人からの提案で、
「ネクスト」に決まった話とかもおもしろい。

(著者は何度もMac対PCキャンペーンをすばらしいというのだが、
アメリカと日本ではCM自体が違うからイメージも違うのだろうか。)

この本を読んだからといって、すぐにシンプルになれるわけではないし、
アップルのように成功できるわけでもないが、
簡単には真似のできなジョブズの哲学として、
そこらへんのビジネス書よりはずっとおもしろい。

 シンプルであることは、複雑であることよりもむずかしい。
 物事をシンプルにするためには、
 懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。
 だが、それだけの価値はある。
 なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。
 -スティーブ・ジョブズ

◆読書メモ

アップルと仕事をしたことのある者ならば、シンプルなやり方が
かならずしも一番簡単なやり方ではないことを証言してくれるだろう。
それはときとして、時間もお金もエネルギーも余計に要する。

一番きがかりなことは、妥協によってあなたは、
自分が信じてもいないアイデアを擁護するという、
ビジネス上もっともまずい立場に陥ることだ。

大企業的ふるまいと戦ってきたスティーブならば、これらの社訓を
喜々としてとり去り、代わりに、省察やインスピレーションの機会を
与えてくれるアンセル・アダムスの風景写真を掛けただろう
―ネクスト社のホールのように。

スティーブは、Macのチームはけっして100人を超えない、
というルールを持っていた。
だから、誰かをチームに入れたいときは、誰かをはずすことになった。
そしてこの考えは、典型的なスティーブ・ジョブズの見方だった。
「まわりにいる人間は個人的に知っていたいが、私は100人以上の
ファーストネームを覚えられない。だから100人以上になると、
組織構造を変えなければならなくなって、今までどおりのやり方ができなくなる。
私は自分がすべてにかかわれるところで仕事がしたいんだ。」

CEOのポール・オッテリーニは社内のマーケティング会議で、
世界中のマーケティングチームに向けてそのことをはっきりと伝えた。
「インテルは欠点のない製品を作っている。
このチームに求めることも欠点のない広告だ」

ピクサー内部では彼は、クリエイティブな会議には出席しないように
求められていた。さもなければ、ライターやアーティストが大量に造反する
恐れがあったからだ。彼はリーダーシップとビジョンを高く評価されたが、
映画作りの才能についてはそうではなかった。

インテルと仕事をするときに代理店は、プレゼン、議論、修正という
伝統的なやり方をとる。アップルとの大きな違いは、インテルでは
ひとつの会議で承認されても、それは次の会議で上役と会える
という意味しか持たないことだ。そして、その上役は前の会議で
話しあわれたことをよく知っているとは限らない。

リサーチ担当者たちはそのテスト結果について誇らしげに顔を輝かせている。
あるときは、30秒のコマーシャルを1秒ごとのフレームに分けて、
30フレームにまとめた。そして、フォーカスグループにCMを見せたあとで、
その30フレームを一つひとつ見せて、どれを覚えているかを確かめたのだった。
結果のグラフは、その広告が一秒単位でどれだけ記憶されやすいかを示した。
分析結果は、CMのどの部分を「強化」すればいいかを教えてくれるのだ。
 この手のテストには、究極のCMとは30秒間ずっとハイテンションなものだ
という前提があり、じっくりとストーリーで見せる趣のある作品は合格しない。
この手の分析はエンジニアの企業であるインテルのDNAの一部となっていて、
そうした会議はプロセスのひとつとして義務化されている。
インテルが気づいていない事実は、こうしたミクロ分析は時間と費用が
かかるうえに、広告を平凡なものにしやすいことだ。

リーはメモ帳から5枚の紙をちぎると、一枚ずつ丸めはじめた。
すべて丸め終えると、彼のパフォーマンスが始まった。
「スティーブ、キャッチしてくれ」といって、紙の玉をひとつテーブル越しに
投げた。スティーブは難なくキャッチして、投げ返した。
「これがよい広告だ」。リーが言った。
「またキャッチしてくれ」と言って、
紙の玉五つすべてをスティーブのほうに投げた。
スティーブはひとつもキャッチできず、紙の玉はテーブルや床に落ちた。
「これが悪い広告だよ」

論理的ではないかもしれないが、プロジェクトをめちゃくちゃにするもっとも
簡単な道は、時間をたっぷりと与えることだ。時間が充分にあると、
人々は見直しをしたり、手を加えたり、再考したり、新たにメンバーを入れたり、
よそから意見を求めたり、テストを実施したりする。
指揮者のレナード・バーンスタインはこの考えを見事に表現している。
偉大なことをなし遂げるには、ふたつのことが必要だ。
計画と、充分ではない時間だ。

「私たちの価値は何でしょうか? どこかに書いてありますか?
誰か知りませんか?」
言いかえると、マイクロソフトが前進するためには、まず自分たちの
価値を表明すればよかったのだ。
だが、幹部である彼女ですら価値が何なのかわからなかった。

モニカは、最大の注目を集められるところだけでThink different
キャンペーンを展開し、メッセージの品位を落とすような場所では
展開しないようにした。雑誌の広告では、ヒーローたちが中面に
登場することはなく、見栄えのいい裏表紙だけに登場させた。(略)
この広告の堂々とした存在感がもっとも際立つのは屋外だ。
屋外広告掲示板が広告の中心になったが、利用したのは
最高のロケーションだけだった。アップルは組織的に、
アメリカ中の空港近くや、大都市へ続く幹線道路などのもっとも
目につく掲示板を空くそばからおさえていった。都市の中では、
屋根つきバス停の壁に広告が貼られ、夜はバックライトで照らした。
もっとも目立ったのは、大きなビルの側面に貼られた巨大ポスターだ。
ニューヨークでは、ベッドに並んで座るジョン・レノンとヨーコ・オノの
傑作写真が歩行者を見おろした。
ジョンとヨーコと「Think different」も文字だけだ。

アップル再生の偶像として、iMacは見事に機能した。(略)
正直な話、私たちがするべきことはただ、「Think different」の
見出しの下に、iMacの写真を置くだけで、それがすべてを語ってくれた。
電子機器の歴史において、Think differentキャンペーンとiMacほど、
ブランド確立と製品発表が効果的に組みあわsったものはないだろう。

新しいキャンペーンでアップルはもっとも得意なことをした。
アップルとiPodとがすぐに結びつくような偶像のイメージを作ったのだ。
それは同時に、過去のアップルのルールを破った、
それまでにはない広告だった。
iPodの『シルエット』のコマーシャルを考えついたのは、
シャイアットのアートディレクターのスーザン・アリンサンガンだった。
その前の失敗作と同じように、新しい広告も踊っている人を起用していた。
ただ、今回は明るい色を背景に、踊る人の二次元のシルエットを
描いただけだった。製品の写真はなく、白いiPodのシルエットと、
象徴的な白いイヤホンが描かれていた。

過去に、アップルは何度もマイクロソフトに立ち向かってきたが、
クリエイティブにかかわる才能ある人々が全力を尽くしても、
華々しい成果はあげられなかった。ずっと昔に雑誌と新聞に掲載した
見開き広告では、「むずかしい方法」を左ページに、「簡単な方法」を
右ページに載せて、比較してみせた。もちろん、Macが簡単な方法だ。

イギリスのSF作家で『銀河ヒッチハイク・ガイド』の作者である
ダグラス・アダムスはアップルのファンで、美しく自己卑下した
キャッチコピーを考えて、アップルで使ってくれないかとスティーブ本人に
送った。それは次の文章だった。
すべてを正しくおこなうことはできなかったにしろ、少なくとも
20世紀が終わろうとしていることは計算ずみだ。

これは1998年春のことで、私たちはクパチーノに招集され、
「C1」というコードネームの新しいコンピュータをはじめて見るところだった。
「C」は「Consumer(消費者)」の頭文字で、当時のアップルは
コードネームをつける際に創造性の火力を投入していなかった。

「すでに気にいっている名前があるんだ。でも、君たちがもっといいのを
見つけてくれればいいと思っているよ」。それからスティーブは続けた。
「その名前は『マックマン(MacMan)』だ」

新しいアイデアをつけ加えるならば、古いものを再提案してもいい

一方、デルの製品名はまったく関連のない世界からつけられる。
インスパイロン、ヴォストロ、XPS、オプティプレックス、プレシジョンなどだ。
新製品をラインアップに加えるたびに、デルはその名前をユーザーに
認知してもらうのに苦労する。時間とともに一部の製品名は認知されるが、
製品名同士に関連性はないし、デルのブランドとも関連はない。

ひとつの例外は「ドロイド」だろう。それは人々に共感を与える。
短く、覚えやすく、未来的で、『スター・ウォーズ』でなじみのある
すばらしい名前だ。だが残念なことに、「ドロイド」は電話機メーカー
一社だけに恩恵を与える名前ではない。その名前の権利を持っているのは
ルーカスフィルムであれい、モトローラとHTCに使用権を貸しているのだ。

アップルが「i」とう貴重な資産を作り出したように、インテルも
ペンティアムという名前を利用してより大きなものを作りだせるかもしれない、
と気づいた人がいた。ペンティアム(Pentium)の「-ium」の部分を
将来の製品名にも使えば、すべての製品が一族であるとわかってもらえる。
ペンティアムは何やら元素記号に載っている元素のようだが、それが
世界でもっとも進んだマイクロチップになる新しい「元素」の系統を生むのだ。
その元素の系統をたどることで、
インテルはコンピュータを作っているのではなく、
その中にあるもっとも重要な構成要素を作っていることもよくわかるようになる。

そうした考えからインテルは、新しいモバイル用プラットフォームの名前を
考えだしていた。それは<常識>の近い親戚である
<論理>に適っているだけでなく、なかなか賢くもあった。
その名前が「モビリアム(Mobilium)」だった。

モビリアムのアイデアを殺したあと、インテルは大金を支払って
ネーミングを専門とする会社に依頼することにした
(この手の会社をスティーブは疫病のように敬遠する)。
そして、「セントリーノ(Centrino)」に決まったのだった。

アップルのサイトも深く入っていけば、シンプルでない部分もある。
売っている製品は多いし、伝えたい話も多いからだ。重要なことは、
消費者がシンプルだと感じるようにページをデザインすることなのだ。

その夜、私たちは長編の広告について1ページずつ、一行ずつ見ていった。
二行も進まないうちにスティーブは意見や質問をはさんできた。
ときには大きな変更をする話もしたし、反対にここは「a」と「the」の
どちらがいいかなど、細かいことを話した。

多くの人は言葉数を増やせば自分の賢さを示せると誤解しているが、
実際はその反対であることが多い。簡潔なコミュニケーションをとる
ノウハウを知っている人は、有能な人間という印象を与えるし、
時間を大切にしている幹部から高く評価されるのだ。

プロセスによって効率を上げることはできる。だが、イノベーションは
人が廊下で出くわしたり、夜の10時半に電話をかけあったりする
ところから生まれるのだ。新しいアイデアを思いついたとか、
ある問題に関して行き詰っている原因に思い当たったとかいう理由でね。

スティーブがこの世を去ったあとに、アップル本社で彼の追悼式が
催されたとき、CEOのティム・クックは、スティーブが朗読した
「クレイジーな人たち」の録音を流した。

自分はまもなく死ぬ、ということを忘れずにいること。
それは大きな人生の選択をするときに助けてくれる重要なツールに
なります。私はこれほど重要なツールに出くわしたことはなかった。
なぜなら、ほとんどすべてのもの―外部からの期待、誇り、きまりの悪さや
失敗を恐れる気持ちなどは、死を前にするとすべて消えてしまい、
本当に重要なことだけが残るからです。
いつかは死ぬのだということを忘れないでください。
それが、自分には失うものがあると考えて、
抜き差しならない状態に陥るのを避ける最上の方法です。

アップルは初代のiPodを説明するのに、5ギガバイトのドライブを搭載した、
重さ185グラムの音楽プレーヤーとは言わなかった。
シンプルに「1000曲をポケットに」と言っただけだ。

600ドルのノートパソコンで知られるデルで、Adamoは2500ドルもした。
実物を触らせるのがいい製品なのに、オンラインでしか注文できなかった。
スーパーモデルを起用した広告をヴォーグ誌に載せるべきなのに、
ビジネス関係の印刷物やオンライン、オフラインに広告を打った。

アップルのデザイナーは、ベンダーが「できません」と言ったときには、
それは特別な努力なしではできないという意味だと知っている。

他人の意見によって、自分の内なる声を溺れさせてはならない。何よりも
大切なのは、自分の気持ちや直感に従って行動する勇気を持つことです。

あなたの決めた道について、絶対に失敗するという反対する人々がいるとき、
その目標へと向かって進むには、あなたに特別な強さがなければならない。

その店(ニューヨークのアップルストア)の床のタイルは、
イタリアの一ヵ所の採掘場でしかとれない原料を使っていた。
支柱のステンレス鋼にはある処理工程が必要となり、
東京でしか作ることができなかった。ガラスはドイツ製だった。

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