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本『一九八四年』

『一九八四年』
著 ジョージ・オーウェル
訳 高橋和久
ハヤカワ文庫

巻末の訳者あとがきによると、「読んでいないのに、読んだふりを
してしまう本」第一位が、このオーウェルの『一九八四年』だそうだ。

まあ、私もアップルの『1984』CMとか、ビッグ・ブラザーとかによって、
未来の監視社会を描いたディストピア程度で、わかった気になってました。

反全体主義とか反共主義とか政治的な解釈は
今さら新たに読む私にはあまり意味がなく、
解説のトマス・ピンチョン(!)が言うところの
「情熱と暴力と絶望に満ちた」、「魂をめぐる」物語として読みました。

そして、「人間の魂に対する凡人には及びもつかない深い洞察」に
圧倒される。硬い小説だと思っていたら、
極上のエンターテインメントとして一気に読めるおもしろさでした。
ラストの絶望感のさわやかなこと!

鉄板本は食わず嫌いしてないで、読むべきですね。

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本『冬の日のエマ』

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『冬の日のエマ』
著 ペネロピ・ファーマー
訳 山口圭三郎

エマとシャーロット姉妹の三部作、第二作。
夢の中で雪景色の中を飛ぶということ以外、
記憶に残っていなかったのもどおりで、
三部作の中ではいちばん完成度が微妙。

『ある朝、シャーロットは…』は文字通りシャーロットが主人公で
離れて暮しているエマは名前しか出てこない。
『夏の小鳥たち』も主人公はシャーロットで、
エマはわがままな妹として登場する。
『冬の日のエマ』ではやっとエマが主人公なわけだが、
自分勝手な彼女にはなかなか共感しずらい。

夢の中では彼女が出会うのは「泥水ぱちゃ子」と呼ばれたボビー。
デブでどんくさい彼は学校でもからかわれており、
夢と現実を通して、彼と友情を育むことでエマ自身が成長する物語だ。

エマは『夏の小鳥たち』でもジンジャーという男の子に好かれているし、
ボビーもきれいで、ほっそりしたエマに憧れている。
現実では仲良くなれない憧れの異性と、
夢(別次元)で二人だけの世界を過ごし親しくなる、
というのは男女を逆にすればそのまま少女マンガのプロットになる。

全編、暗い雪の風景に閉ざされているのに加えて、、
ボビーが母親から愛をきちんと受けていなかったり、
エマのイライジァおじいさんが年をとっていったり、
物語のあちこちに暗い影がある。
夢の中でどんどん時間を遡り、最後にたどり着くのが、
生命の源である原始の海。(ここらへんの風景はほとんどエヴァ。
エデンの園を否定しちゃうのはキリスト教圏の文学としてはめずらしい。)
最終章の時間の遡り方やオチのつかないエマとボビーの関係も
描写が追いついていないまま終わってしまう感じ。

それでもこの物語にインパクトがあるのは、
やはり雪景色の中をどこまでも飛んでいく、
その孤独な風景だと思う。


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本『夏の小鳥たち』

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『夏の小鳥たち』
著 ペネロピ・ファーマー
訳 山口圭三郎
篠崎書林

『ある朝、シャーロットは…』は、エマとシャーロットのメイクピース姉妹の
三部作の最終作なのですが、これは最初の作品。

『夏の小鳥たち』 THE SUMMER BIRDS 1962
『冬の日のエマ』 EMMA IN WINTER 1966
『ある朝、シャーロットは…』 CHARLOTTE SOMETIMES 1969

『ある朝、シャーロットは…』がタイムトラベル的な物語なのに対し、
『夏の小鳥たち』は、シャーロットとエマの前に不思議な少年が現われ、
子供たちはひと夏の間、空を飛ぶことができるようになるというお話。

『ある朝』に比べると、ファンタジー的にもちょっと単調で退屈なのですが、
誰でも一度は考える「空を飛びたい」、「どこか遠くへ行きたい」という
夢をかなえてくれる夏休みが描かれています。
続く『冬の日のエマ』と合わせて、夜、夢の中でだけ、
雪景色をどこまでも飛んでいく少年少女という物語を
中二な頃に構想したことがあります。

今、読み返してみると、これはシャーロットの初恋の物語でもあるのですね。
子供の頃は、それがなんだか納得いかなかった気もします。
むしろ「年を取りすぎているから飛べない」と言われたハリバット先生に
共感してしまいます。

 「そうね、わたしもそれが心配だったの。」ハリバット先生は悲しそうに
 いいました。「みんなは運がいいのよ。みんなと同じ年頃には、
 先生もいつも飛びたかったわ。一度―そう、いちどは、もうすこしで
 飛べそうになったわ。いまのみんなと同じようだったと思うわ。」

空を飛べる夏休みは一生に一度しか訪れないのだと思うのです。

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本『神々のワード・プロセッサ』

『神々のワード・プロセッサ』
著 スティーヴン・キング
訳 矢野浩三郎・他

スゴ本オフ、「ホラー」に向けて再読。
スティーブン・キングを全部読んだわけではないのですが、
今までで怖かった場面ベスト3を選ぶと、
『シャイニング』 バスルームの女の幽霊
『霧』 吸盤のついた触手に食われる場面
(小さな口が少しずつ体を食べるんですよ!)
そして、この『神々のワード・プロセッサ』に収録された
短編『ジョウント』である。

さすがにオチは書きませんが、
『ジョウント』とはテレポート装置のことであり、
第一の門から第二の門へ瞬間移動ができる。
(門から入れたネズミが急死してしまったりといった失敗を
くり返して、移動の際には眠っていることが必要だとわかる。
この実験の過程だとか、ジョウントが実用化されたことで、
物資の移動に石油がまったくいらなくなるといった話も
なかなかおもしろかったりします。)

この中にジョウントを使った殺人事件として出てくるのが次の話。

 レスター・マイクルスンというジョイント研究者が、
 娘のプレクシプラスト製ドリームロープで妻を縛って、
 泣き叫ぶ彼女をネヴァダ州シルヴァー・シティのジョウント門へ
 突っこんだのだった。ただし、彼はその前にジョウント操作盤の
 <無>ボタンを押して、マイクルスン夫人が到達し得る何千何百という
 門をことごとく消去しておいた―すぐ近くのリノから木星の月イオの
 実験基地へ至る各地のジョウント・ステーションを、一箇所の
 例外もなしに。そこで、マイクルスン夫人はオゾンのかなたを
 めざして永久にジョウントを続けることになった。

つまり、「肉体を失い、ある種の知覚力は備えたまま、
悲鳴をあげて地獄の辺土をさまよう女……しかも、永久に。」
これは怖い。本当に怖い。
今回、タイトルが思い出せなくて、キングの作品をいろいろググったのですが、
タイトルは忘れても、この話は忘れられなかった。
時々、ふっと思い出しては、ゾッとするという。
ある意味、いちばん怖い死に方では(というか、死ねもしないし。)

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本『桐島、部活やめるってよ』

『桐島、部活やめるってよ』
著 朝井リョウ
集英社文庫

映画化が決まる前から本屋で見かけるたびに気になっていたこの本。
なんといってもタイトルがいい。
「桐島、部活やめるってよ」
このタイトルだけで、たぶん高校生、部活はたぶん運動部、
教室に入ってきてこのセリフを言う男の子と、
それを軽いショックを受けながら聞く男の子が浮かぶ。

私は高校生のとき、陸上部で、ひとつ上の先輩は
一度、陸上部を辞めた。同じ学年の先輩たちが家に行ったりして
その先輩を説得して、彼は戻ってきた。
地区大会のとき、先輩たちはリレーを走り、大会のあとの
ミーティングで彼は「戻ってきてよかった」と言って泣いた。

そういう物語がタイトルだけで、ばーっと頭に浮かぶ。
すごく良いタイトルだ。

映画公開が待ちきれず、原作を読んだわけですが、
物語自体には想像どおりのところもあり、そうでないところもあり。

自転車が風を切っていく感じや、きらきら光る体育館、
音符のような放課後のグラウンド、ひとりだど息苦しい教室、
不平等な高校生たち、ひとつひとつの描写に鷲づかみにされる。

私が高校生のときはここまでヒエラルキーはなかったけれど、
フワフワと漠然とした不安や、グラウンドから見た夕陽の美しさとか、
いろいろ思い出しました。

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本『僕は、だれの真似もしない』

『僕は、誰の真似もしない』
著 前刀禎明
アスコム

前アップル日本法人代表、前刀さんによる
自分にしかできない方法で、人を感動させる、
“セルフ・イノベーション法”。

前刀さんの名前は有名だけど、
アップルの日本法人だったのは2004年~2006年の
わずか2年間ほど。この人のプロフィールが
またバラエティ豊かな豪華さで、
ソニー、ベイン・アンド・カンパニー、ディズニー、
AOLを経て、ライブドアを起業。
(その後、ホリエモンのオン・ザ・エッジに
ライブドアを名前ごと売り渡すので、その後の騒動はまた別。)
アップルの後は、人材教育会社リアルディアを設立しているという。

自己啓発本っぽいですが、“セルフ・イノベーション”というだけあって、
独自の視点をもつための話がなかなか痛快。
自戒をこめてメモっておくと、たとえば、

 ただ勉強しただけでは、決してセルフ・イノベーションはできません。
 インプットとアウトプットが大切だとよく言われますが、
 人から情報を仕入れて、それにちょっと自分の意見を足して
 ブログに書いたところで、あなた自身には何の変化もおきません。

とか。
「検索でトップに表示されるような情報には何の価値もない」
とかもデスクトップに貼っておきたいような言葉です。

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本『挑む力』

『挑む力 世界一を獲った富士通の流儀』
著 片瀬京子、田島一
日経BP社

「2位じゃダメなんですか」と言われながらも世界一をめざいた
スーパーコンピューター「京」の開発をはじめ、
システムトラブルで失った信頼を取り戻すため、再び開発に
名乗りをあげた、東証の新システム『アローヘッド』、
すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡、らくらくホン、
農業クラウド、次世代電子カルテ、手のひら静脈認証など、
富士通が挑んだプロジェクトを現場リーダーへの取材で描く。

つまりは富士通プロジェクトX。
残念なのは、ひとつのプロジェクトがそれほど詳しくは説明されておらず、
インタビュー取材の声だけを集めているので、
プロジェクトXといっても、ダイジェスト版の印象はぬぐえない。
例えば、「京」がどんなシステムであり、困難な部分は
どこにあったのか、演算性能はどうやって測られるのか、
追い上げる中国側のコンピューターとはどんなものなのか、
もう少し説明されていればよかったと思う。
(「2位じゃダメなんですか」って今聞いても、すごいセリフなのだが、
どのような状況でそのセリフが使われて、実際に予算が減らされたのか、
当時の状況をもっと解説してほしい。いくら有名なセリフだからって
説明端折りすぎです。)
困難さがよくわからないプロジェクトXでは、
ちょっといいエピソードが紹介されていても、まったく盛り上がりに欠ける。

なので、富士通の社内報か新入社員に配るパンフレットのような
富士通の信念を綺麗な言葉で並べただけの印象が残る。

富士通といっても、多くの人の頭に浮かぶのはPCだけで、
それすらも、アップル、ソニー、NEC、東芝の中で
抜きん出ているわけではない。
(携帯の開発ももちろん大きいのだけれど、
らくらくホン=富士通ってイメージはない。)
印象のやや薄い富士通が、実は東証システムを開発しているとか、
すばる望遠鏡のシステムも富士通だとか、
本書で初めて知ったことも多い。

東日本大震災が起きた当日、停止した新幹線の中で
災害支援のための企画書を書き始め、いちはやく現場に入るなど、
大きな会社とは思えない機動力も意外だった。
しかし、実際に富士通がどういう災害支援を行なったのかが、
やはりわかりにくいので、ここらへんはもっと掘り下げてほしかったところ。

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本『アンダーグラウンド』

『アンダーグラウンド』
著 スーレット・ドレイファス、ジュリアン・アサンジュ
訳 三木直子
春秋社

1990年代のハッカーたちについて綴ったノンフィクション。
ウィキリークスのジュリアン・アサンジュが“リサーチャー”として
参加しているが、つまりは彼自身が、ハッカーとして
自分のことや仲間たちについて情報を提供しているのだ。
1997年に出版されたこの本は、その後、アサンジュが
有名になったことで、再び注目されるようになる。
(ウィキリークスについて書かれた本の多くが、
この本を種本としている。)
2011年に再販され、日本では初めての翻訳となるのは、
そういった背景がある。

しかし、今、この本を読んで、おもしろいと思うのは
ウィキリークスとはまったく関係ない部分で、
1990年代という黎明期におけるハッカーたちの青春である。
メンダックス、アンスラックス、エレクトロン、トラックス、
プライムサスペクト、フォース、パラマスター、
(ハンドルネームがもうすでに中二病である)
彼らの多くは10代で、何人かは親の離婚など家庭環境に
問題があり、ドラッグや女の子ではなくハッキングにのめりこんだ。
ネットワークに侵入して、金銭などの損害を与えない
ハッキングについて、当時は法整備が追いついておらず、
まだグレーゾーンだった。
やがて彼らは最初のテストケースとして逮捕され、
裁判にかけられる。

 「外国のコンピュータにアクセスすることの何が君にとって魅力なのか、
 君の言葉で聞かせてくれないかな」
 この質問に答えるのは、意外に難しかった。
 答えを知らなかったからではない。その答えを、コンピュータを
 ハッキングしたことが一度もない人に向かって描写するのが難しいのだ。

ハッカーたちが逮捕され裁判にかけられる過程は
ほとんど同じ話の繰り返しなので、途中でやや飽きてしまうのだが、
その中から、彼らの情熱、自己顕示欲、友情、反抗心のような
ものが浮き上がってくる。世界中とつながっていながら、
ひとにぎりのものだけが味わえる頂点、
小さな数人の間でしか通じない会話は本当に楽しかったはずで、
1990年代というのがハッカーにとっても黄金期だったのがわかる。

パーとエレクトロン、ガンダルフがセオレムという女の子を
めぐって争うのだが、当時のネットワークにハッキングを理解する
女子はほとんどおらず、頭が良くて感じのいいセオレムが
モテモテだったのも理解できる。

ハッカーを描いたノンフィクションの最高傑作は、
やはり『カッコウはコンピュータに卵を産む』だと思うが、
著者のクリフォード・ストールは当然ながらハッカーに
嫌われており、彼のマシンにいたずらをするエピソードも出てくる。

時系列がややわかりにくかったり、
ハッカーへのインタビューがソースなので、
ところどころ話が切れてしまっているのは残念。
(第一章のWANKワームについて、作者があとから
でてくるのではと期待していたのに。)

また、再販にあたって追加されたあとがきが、
ハッカー=反体制=弱体化したメディアに対抗するための
ウィキリークスみたいな話になってしまっているのもどうなのか。
ハッキング自体はやはりいたずらと悪事の紙一重であり、
その微妙なバランスをハッカーたちは楽しんでいたのではと思うので
そこに初めから政治的意図なんてなかったはず。
(彼らは大企業や政府組織をターゲットにし、
テレコムはいつでも嫌われており、
タダで電話をかける“フリーキング”は
通信に必要な手段であると同時に、電話代を盗んでも
迷惑をかけるのは電話会社だけという認識があった。)

 彼らは誰一人として、二人のハッカーの頭の中で何が起きているか、
 まるでわかっていない。
 彼らには決して、ハッキングとは何なのかが理解できないのである。

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本『秘密機関』

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『秘密機関』
著 アガサ・クリスティー
訳 田村隆一
ハヤカワ文庫

クリスティー2冊目。
『NかMか』では中年夫婦になっていたトミーとタペンスの
若き日の冒険物語。1922年の作品で、物語の舞台も1920年ごろ。

第一次大戦が終わったばかりなので、
トミーとタペンスが追っているのはやっぱりスパイ。
しかし、この2人、人がいいのか、諜報活動をしているわりには、
信頼した人にはペラペラと秘密をしゃべってしまう。それでいいのか。
直観で行動して奇跡的な運の良さで成功してしまうタペンスと
慎重(と書かれているけどそうも思えない)なトミーとのコンビが
それぞれ別行動しているのに、なんとなく事件を解決してしまう。
ダラダラとして構成にもまとまりがないけど、
最後まで一気に読ませてしまうのはキャラクターの良さかも。

勇気で運命を切り開いていくタペンス、
若さが翳りだした悪女ヴァンデマイヤー夫人、
知的な美人ジェーン・フィン
と、クリスティーの典型的美女がすでにそろっている。

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本『ある朝、シャーロットは…』

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『ある朝、シャーロットは…』
著 ペネロピー・ファーマー
訳 川口紘明
画 山口幸平
篠崎書林

こちらも『トムは真夜中の庭で』と同じく、
『冒険者たち』の斎藤惇夫さんが勧めてくれた一冊。
今回、図書館で借りようとしたら、保存庫扱いになっていました。
どうやら出版社が倒産してしまって絶版のようです。
この手の本は永遠にいつでも読めるような気がしていたので、
ちょっとショック。

中学生で図書委員になったときには、その権限を利用して
『夏の小鳥たち』『冬の日のエマ』とともに三部作を
図書室に入れてもらったのだけど、まだあるのかしら。

寄宿舎にやってきた新入生シャーロットが、
次の朝目覚めると、40年前の時代に暮す少女クレアと
入れ替わっていた、というタイムトラベル的な物語。
シャーロットの生きている時代は1958年、
クレアが生きている時代は1918年、
ふたりは一日ごとに互いの世界を行き来する。

不思議なのが、誰もシャーロットとクレアが
入れ替わっているという事実に気がつかないということ。
ふたりは似ているわけでもないのに。
シャーロットは「自分は本当にシャーロットなのか」という
アイデンティティに悩むことになります。
そこがこの物語のおもしろいところで、
SF的な設定を使っていながら、描かれているのは
「私って何」という少女なら誰もが抱くだろう疑問だということ。

『夏の小鳥たち』、『冬の日のエマ』もそうなんだけど、
全体的に暗い雲がかかったような物語で、
彼女たちはタイムトラベルを楽しんだりしない。

1918年という時代背景もあって、戦争の影が重苦しく、
交霊術の会で戦士した若者が呼び出されるなど、
死のイメージもつきまとう。
暗さと華やかさが混沌とする戦勝祝賀パレードの場面がすばらしく、
ここだけでも映画化してくれないかと子供のときも思ったものでした。

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本『たかが英語!』

『たかが英語!』
著 三木谷浩史
講談社

賛否両論を呼んだ楽天の社内公用語の英語化について
三木谷社長自らがその想いを語る。

楽天の社内公用語英語化については、
「英語化(笑)、そりゃ大変だ」という感じで、
むしろ日本の会社で日本人どうしが話すのになぜ英語、
と思っていたひとりである。
しかし、三木谷社長は今後、楽天がひいては日本が生き残るためには
グローバル化は避けることができず、
英語のコミュニケーション能力は必須だという。

海外で英語漬けになればだいたい3ヵ月で英語を話せるようになる。
これを見積もると約1000時間。
日本にいて英語漬けの状態を作り出すためには、
社内公用語を英語にするのがいちばんの早道、というわけだ。

そして実際に朝会や会議、社内文書を順次、英語化していく。
英語習得の数値化として、社員にはTOEIC650点以上を課し、
昇格要件にTOEICスコアを導入した。
つまり必要なスコアを獲得できなければ昇格できない。

当然のことながら、社員のなかにはこれに強いストレスを
感じるエンジニアなども多数おり、それにどう取り組んでいったかが
語られている。

「たかが英語」というタイトルには英語は一種のツールにすぎない
という想いがある。ツールを使えるようになったうえで、
グローバル化に挑戦できる。

英語の次に覚えるべき言語はプログラミング言語だ、
という答えも明快だ。ネット企業であるなら、コードが書ける、
理解できるという利点は計り知れない。

意外に、今すぐ英語を勉強したい気分になる本でした。


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本『哲夫の春休み』

『哲夫の春休み』
著 斎藤惇夫
岩波書店

小学生のときにいちばん好きだった本が
『冒険者たち―ガンバと十五匹の仲間』。
1983年に11年ぶりの新作『ガンバとカワウソの冒険』が出たときには
サイン会に行った。「次はまた10年後ですかね」と笑っていたけど、
『哲夫の春休み』は2010年出版、なんと27年ぶりの新作である。

あとがきによると、28年前、『ガンバとカワウソの冒険』を終えて、
すぐに準備をはじめていたという。
自分自身の少年時代をたどることによって
「世界に向き合う子どもの心の中を探る旅に出よう」、
「それまで試みた動物ファンタジーでは描きようのなかった《不思議》、
とりわけ人の心に深い陰影を与える《時間の不思議》を、
すぐ此処、《縁側》が、《うつつとゆめ》《あの世とこの世》の境である
私たちの国の風土の中で、探ってみようともしていました。」

ある意味、ネタバレですが、これは知っていて読んだほうがいいと
思うので、書いてしまいますが、2年前、著者の息子、斎藤哲夫氏が
39歳で夭逝したことにより、机の中に眠っていた原稿と再び向き合い、
この物語が完成することになります。

その息子、哲夫くんが小学校を卒業し、
中学生になる前の春休みに、父の故郷、長岡を訪ねる物語。
電車の中で偶然出会った順子(なおこ)おばさんの若い頃の思い出に
哲夫が入り込んでしまったり、
今はもうなくなってしまったはずの父の実家を訪ねたりする不思議な旅は、
斎藤惇夫版『トムは真夜中の庭で』。

しかし、どうしても全編にただようのは死の影。
哲夫自身、順子おばさん、順子おばさんの娘みどり、
それぞれの物語は重く、やや唐突で、後半の展開は村上春樹的な奇妙さ。
最後のほうはその重さに、なかなか読み進められなかったほど。

おそらく息子の死と向き合うために著者が書いた物語なので、
最終的にはそれぞれが再生へと向かっていくのですが、
“夏休み”ではなく、“春休み”に象徴されるように
今にも雪が降りそうな肌寒い曇り空ばかりが心に浮かぶ。
構成的にも難が多く、読みやすくもないのですが、
それがそのまま著者の心の軌跡になっているようにも感じる。

「ひとは、けっして、幸せになるために生きているんではないってことだよ」
という台詞がこの物語を現わしているように思います。

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本『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』

『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』
著 木暮太一
星海社新書

今、このタイミングでこの本を読むのはどうかと思ったんですが、
「会社を辞めろ」とかいう話ではなく経済の話です。
『資本論』と『金持ち父さん貧乏父さん』をベースに
「どうしてこんなに働いているのに、給料は上がらないのか」
「なぜ、私たちの働き方はこんなにしんどいのか」
ということをわかりやすく解説。

結論から言ってしまうと、会社を変えても
働き方を変えないとしんどいのは変わらない
というのがこの本の主張。
でも、「精神的苦痛を感じない仕事を選ぶことで、
“必要経費”を下げることができる」とも言っているので、
ここらへんは肝に銘じたいです。

この手の本にありがちですが、
解決策の部分の具体性が弱いので、
(あとがきでも「答え」ではなく「答えを導き出すためのヒント」
が書かれているといっている)、今すぐ答えを欲しい人には
物足りないだろうと思いますが、
自分の給料から資本主義経済の仕組みがわかるという意味で、
そこらへんの自己啓発本よりはずっと役に立つ本です。


自分のために働く時間と、会社のために働く時間
毎日毎日全力でジャンプする働き方
精神的苦痛を感じない仕事
など見出しもなかなかうまい。

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本『伊東忠太動物園』

Chuuta

『伊東忠太動物園』
著・編 藤森照信
写真 増田彰久
文・絵 伊東忠太

松岡正剛の千夜千冊で紹介されていて、前から読みたかったのだが、
絶版のため、図書館で取り寄せてもらった。

伊東忠太といって一番わかりやすいのが、
築地本願寺だと思うが、国粋主義にも見える一方で、
インドをはじめ、ペルシャやイスラム、中国などのアジア圏、
ギリシャに代表される古典ヨーロッパを自在に取り入れてしまった
不思議な建築家である。
忠太らしさが一番あらわれているのが、ロマネスクを
独自に解釈してしまったようなグロテスクでありながら、
どこか憎めない動物たち。

藤森照信&増田彰久という建築探偵コンビが
柱頭や門前に飾られている忠太印の動物に注目した本なので
私のような素人建築ファンは必読である。

前半は動物を中心とした伊東忠太の建物紹介。
・旧真宗信徒生命保険会社
・祇園閣
・一橋大学兼松講堂
・大倉集古館
・震災記念堂
湯島聖堂
・遊就館
・築地本願寺
・可睡斎護国塔
・中山法華経寺聖教殿
・日泰寺仏舎利奉安塔
阪急梅田駅壁画

後半には伊東忠太自身が魑魅魍魎を描いた『怪奇図案集』抄、
麒麟や獅子、鳳などの動物について語った『伊東忠太幻獣論集』。

好きとか嫌いとかを超えて、伊東忠太の動物たちはおもしろい。
愛さずにはいられない。その理由がわかる一冊。

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本『スタイルズの怪事件』

『スタイルズの怪事件』
著 アガサ・クリスティ
訳 田中西二
創元推理文庫

やりたかったことのひとつ、アガサ・クリスティ読破。
ということでクリスティの第一作『スタイルズの怪事件』。
1920年の作品。

これ、2、3回読んでると思うんだけど
(それだけ何度もクリスティ読破にチャレンジしては挫折しているという)、
最後まで犯人が誰だか思い出せませんでした。

クリスティ自身が苦労したこともあるのだろうけれど、
夫の浮気に苦しむ妻というモチーフがここでも登場。
クリスティのおもしろさって、推理ではなく、
小さなサークルの中での人間関係の機微をうまく描いているところだと
思うんだけど、処女作からしてそのおもしろさは完成されている。

『カーテン』にこの話がちらっと出てくるらしいので、
覚えているうちに読破したい。


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