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本『夏の小鳥たち』

20120728b

『夏の小鳥たち』
著 ペネロピ・ファーマー
訳 山口圭三郎
篠崎書林

『ある朝、シャーロットは…』は、エマとシャーロットのメイクピース姉妹の
三部作の最終作なのですが、これは最初の作品。

『夏の小鳥たち』 THE SUMMER BIRDS 1962
『冬の日のエマ』 EMMA IN WINTER 1966
『ある朝、シャーロットは…』 CHARLOTTE SOMETIMES 1969

『ある朝、シャーロットは…』がタイムトラベル的な物語なのに対し、
『夏の小鳥たち』は、シャーロットとエマの前に不思議な少年が現われ、
子供たちはひと夏の間、空を飛ぶことができるようになるというお話。

『ある朝』に比べると、ファンタジー的にもちょっと単調で退屈なのですが、
誰でも一度は考える「空を飛びたい」、「どこか遠くへ行きたい」という
夢をかなえてくれる夏休みが描かれています。
続く『冬の日のエマ』と合わせて、夜、夢の中でだけ、
雪景色をどこまでも飛んでいく少年少女という物語を
中二な頃に構想したことがあります。

今、読み返してみると、これはシャーロットの初恋の物語でもあるのですね。
子供の頃は、それがなんだか納得いかなかった気もします。
むしろ「年を取りすぎているから飛べない」と言われたハリバット先生に
共感してしまいます。

 「そうね、わたしもそれが心配だったの。」ハリバット先生は悲しそうに
 いいました。「みんなは運がいいのよ。みんなと同じ年頃には、
 先生もいつも飛びたかったわ。一度―そう、いちどは、もうすこしで
 飛べそうになったわ。いまのみんなと同じようだったと思うわ。」

空を飛べる夏休みは一生に一度しか訪れないのだと思うのです。

◆読書メモ

「そうね、わたしもそれが心配だったの。」ハリバット先生は悲しそうに
いいました。「みんなは運がいいのよ。みんなと同じ年頃には、
先生もいつも飛びたかったわ。一度―そう、いちどは、もうすこしで
飛べそうになったわ。いまのみんなと同じようだったと思うわ。」

「あなただけのけんかじゃないわ。やきもちをやいてるのよ、あなたは。
自分がボスになりたいんでしょ。それが本音なんでしょ。
みんなの夏休みを、全部、だめにしようとしてるんだわ。
こんなこと許せない! もし、だれかひとりでもけんかをするのなら、
わたしたちみんな、けんかになるわ。夏休みは、わたしたちみんなのものよ。
わたしたちみんなのものよ、わからないの?」

満ちてくる潮の流れの中で、その岩がどうなるか、シャーロットには
わかっているのですが、それでも、押し寄せてくる海の波から、
あの岩が逃げ出すことができれば、と心の中で願うのでした。
どうしてそのようなことを、突然シャーロットは考えついたのでしょう
―それは、波に洗われるその岩が、この夏とちょうど同じように、
シャーロットには思えたからでした。今年の夏休みは、けんかやら、
みんなの夏の旅行やらで、とどめることのできない時計の針のように、
押し流されていったからでした。

ああ、最初に飛んだとき、あのときが最高だった、
わたしの人生で一番すばらしい体験だった。でも、どういうわけか、
その理由ははっきりしないけれど、一番悲しい体験だったともいえる……。
それが幸福なのか悲しみなのか、シャーロットには説明できませんでした。

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