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本『神々のワード・プロセッサ』

『神々のワード・プロセッサ』
著 スティーヴン・キング
訳 矢野浩三郎・他

スゴ本オフ、「ホラー」に向けて再読。
スティーブン・キングを全部読んだわけではないのですが、
今までで怖かった場面ベスト3を選ぶと、
『シャイニング』 バスルームの女の幽霊
『霧』 吸盤のついた触手に食われる場面
(小さな口が少しずつ体を食べるんですよ!)
そして、この『神々のワード・プロセッサ』に収録された
短編『ジョウント』である。

さすがにオチは書きませんが、
『ジョウント』とはテレポート装置のことであり、
第一の門から第二の門へ瞬間移動ができる。
(門から入れたネズミが急死してしまったりといった失敗を
くり返して、移動の際には眠っていることが必要だとわかる。
この実験の過程だとか、ジョウントが実用化されたことで、
物資の移動に石油がまったくいらなくなるといった話も
なかなかおもしろかったりします。)

この中にジョウントを使った殺人事件として出てくるのが次の話。

 レスター・マイクルスンというジョイント研究者が、
 娘のプレクシプラスト製ドリームロープで妻を縛って、
 泣き叫ぶ彼女をネヴァダ州シルヴァー・シティのジョウント門へ
 突っこんだのだった。ただし、彼はその前にジョウント操作盤の
 <無>ボタンを押して、マイクルスン夫人が到達し得る何千何百という
 門をことごとく消去しておいた―すぐ近くのリノから木星の月イオの
 実験基地へ至る各地のジョウント・ステーションを、一箇所の
 例外もなしに。そこで、マイクルスン夫人はオゾンのかなたを
 めざして永久にジョウントを続けることになった。

つまり、「肉体を失い、ある種の知覚力は備えたまま、
悲鳴をあげて地獄の辺土をさまよう女……しかも、永久に。」
これは怖い。本当に怖い。
今回、タイトルが思い出せなくて、キングの作品をいろいろググったのですが、
タイトルは忘れても、この話は忘れられなかった。
時々、ふっと思い出しては、ゾッとするという。
ある意味、いちばん怖い死に方では(というか、死ねもしないし。)

◆読書メモ

「おかしいのは見映えだけじゃないよ。わたしはディスプレイ装置の裏を
のぞいてみたんだがね。配線のワイヤーには、
IBMの印が入っているものもあれば、ラジオ・シャックのやつもあった。
ウェスタン・エレクトリックの電話機の部品がほとんどそっくり入っていたし、
なんと、イレクター・セットの小型モーターまであったな」

彼は時間が――。
たっぷりある、と信じていただろうか?
いや、違う。それは違う。リチャードには思い当たることがあった。
ジョナサンのもの静かな、油断のない表情、眼鏡のぶ厚いレンズの
奥の醒めたような目……あれは何ものをも信じない表情、
時間が自分の味方だとは思ってもいない目だった。

「何を待つんですか?」たぶん、トラックがやってくるのを、
という返事がかえってくると思ったのだが、訊いてみた。
「運命の訪れさ」伯父さんはまた片目をつぶってみせた
……が、その表情には恐怖があった。

「彼はサイエンス・フィクションの愛読者だった。
アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』という小説があって、
そこに出てくるテレポーテーションを“ジョウント”というんだよ。
作者ベスターの造語でね。」

それまでは汽車かトラックか船か飛行機で輸送しなくては
ならなかった物資のすべてを、ジョウントで送れるようになったんだ。
ロンドンなりローマなりセネガルなりの友だちに手紙を書いたなら、
あくる日には先方の手もとに届く――石油を一オンスも燃やさずに。
われわれは当然のこととみなしているけれど、カルーンにとっては
大事件だったのさ。ほかの誰にとってもね。

重要人物の替え玉を作って世間の目を欺くロバート・ハインラインの
小説に、カルーンはおそらくなじんでいただろう。

レスター・マイクルスンというジョイント研究者が、
娘のプレクシプラスト製ドリームロープで妻を縛って、
泣き叫ぶ彼女をネヴァダ州シルヴァー・シティのジョウント門へ
突っこんだのだった。ただし、彼はその前にジョウント操作盤の
<無>ボタンを押して、マイクルスン夫人が到達し得る何千何百という
門をことごとく消去しておいた―すぐ近くのリノから木星の月イオの
実験基地へ至る各地のジョウント・ステーションを、一箇所の
例外もなしに。そこで、マイクルスン夫人はオゾンのかなたを
めざして永久にジョウントを続けることになった。

この弁論は恐るべきイメージを描き出した。肉体を失い、
ある種の知覚力は備えたまま、悲鳴をあげて地獄の辺土を
さまよう女……しかも、永久に。

「狂気はしなやかな銃弾なんだよ」

「彼はね、電話システムを働かせているのは、本当は電気でなく、
ラジウムだと思いこんでしまったんだよ。これは現代史の中でも、
最も巧妙に隠蔽されている秘密の一つだと彼は考えた。
そして、奥さんにこう説いた――今日、癌の発生率が上昇している
原因は、煙草や車の排気ガス、産業公害ではなく、ラジウムのためだ。
電話機には全部そのラジウムの結晶が含まれているから、
電話を使うと、脳に放射線が射ち込まれるのだ、と」

「ほら、みなさんもご存知の、シャーリー・ジャクソンの小説『くじ』、
あれほど暗い調子で結んだ小説にはそうそうお目にかかれないんじゃないかな。
だって、善良な婦人が外に引きずり出されて、石をぶつけられて
殺されるんだよ。その婦人の息子と娘も殺しに加担する。
だが、あのストーリーテリングはすばらしいものだ……賭けてもいいが、
あの小説を最初に読んだ『ニューヨーカー』の編集者は、その晩、
口笛を吹きながら帰宅したにちがいないよ。」

「『ローガン』に掲載した記事の中でも、ある有名な科学者が、
家庭のカラーテレビから放出される放射線が人間の脳波を
阻害する力は、微少ながら永久的な変化を与えるに十分である、
と述べている。大学生の読み書きの能力が落ち、
小学生の算数の力が伸び悩んでいるのはそのためかもしれない。
なんと言っても、テレビに最も親しんでいるのは子供だから、とね。」

「風も口笛を吹ける。だがそれは曲にはならないのさ」

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