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本『ある朝、シャーロットは…』

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『ある朝、シャーロットは…』
著 ペネロピー・ファーマー
訳 川口紘明
画 山口幸平
篠崎書林

こちらも『トムは真夜中の庭で』と同じく、
『冒険者たち』の斎藤惇夫さんが勧めてくれた一冊。
今回、図書館で借りようとしたら、保存庫扱いになっていました。
どうやら出版社が倒産してしまって絶版のようです。
この手の本は永遠にいつでも読めるような気がしていたので、
ちょっとショック。

中学生で図書委員になったときには、その権限を利用して
『夏の小鳥たち』『冬の日のエマ』とともに三部作を
図書室に入れてもらったのだけど、まだあるのかしら。

寄宿舎にやってきた新入生シャーロットが、
次の朝目覚めると、40年前の時代に暮す少女クレアと
入れ替わっていた、というタイムトラベル的な物語。
シャーロットの生きている時代は1958年、
クレアが生きている時代は1918年、
ふたりは一日ごとに互いの世界を行き来する。

不思議なのが、誰もシャーロットとクレアが
入れ替わっているという事実に気がつかないということ。
ふたりは似ているわけでもないのに。
シャーロットは「自分は本当にシャーロットなのか」という
アイデンティティに悩むことになります。
そこがこの物語のおもしろいところで、
SF的な設定を使っていながら、描かれているのは
「私って何」という少女なら誰もが抱くだろう疑問だということ。

『夏の小鳥たち』、『冬の日のエマ』もそうなんだけど、
全体的に暗い雲がかかったような物語で、
彼女たちはタイムトラベルを楽しんだりしない。

1918年という時代背景もあって、戦争の影が重苦しく、
交霊術の会で戦士した若者が呼び出されるなど、
死のイメージもつきまとう。
暗さと華やかさが混沌とする戦勝祝賀パレードの場面がすばらしく、
ここだけでも映画化してくれないかと子供のときも思ったものでした。

◆読書メモ

シャーロットはじゃり道を一人で歩いていきました。
今朝も空気は乾燥していましたが、それ程暖かくなく、
彼女を妙に悲しくさせるような香りがあたりに漂っていました。
ぶあつい制服をありがたいと思ったのは、これがはじめてでした。
昨晩、風が吹いている音でちょっと目がさめたのでしたが、
その風がいつの風なのか、自分の時代の風なのか、
昔の時代の風なのかわかりませんでした。

そのゲームをやっていると、一秒や一分がとても長く感じられたり、
逆にとても短く感じられたりして、時間というものがなくなったような
錯覚におちいり、シャーロットは心が安らいでくるのでした。
ゲームをやっている間は昔も今もないんだわとシャーロットは思いました。
今ここにいる一九一八年から心は自由自在に過去のアーサーの時代へと、
また未来のエマの時代へ、そしてまたクレアの時代へと、
一つの現在から別の現在へと動いてゆけるものなのだわ。

シャーロットは指をつっこんでおはじきを一個とり出し、
水の中に沈んでいるのと比べてみると、取り出したおはじきは
ひどく小さなつまらないものに見えました。
これはちょうど理想と現実との違いのようなものをよく表しているわ。
例えばアーサーが戦争に対して抱いていた夢と実際の経験との違い
というのもこんなものではなかったかしら。

すぐ手の届きそうなところに見えて、実際は遠い遠いところにある
ものというのは、どんな物にせよひどく胸をうつものなのね。

「あなた方みなさんは、これまでとは違った世界で成長するのです。
戦争前の古めかしくてまちがった教えを受けた女性の中に
しばしば見られるように、窓からレンガを投げたり、柵に自分を
しばりつけたりするようなばかげた小細工によってではなく、
医者、兵士、船員、行政官、公務員、運転手、郵便配達人、
店主、婦人警官として、多くの女性が立派に働き、
女性の真価を発揮したのです。もはやこれからは参政権が
あなた方に与えられずにはおかれないでしょうし、
イギリス市民としての名誉もそうでありましょう。ですから、
あなた方みなさんは更に立派に成長して、この信頼に応えるに
値する婦人となり、あなた方の同胞が、正しく気高いこの戦いの過程で
みごとになしおおせた仕事と役割りを受けつぎ、
さらにのばしてゆかれんことを切に望むのであります。」

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