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本『挑む力』

『挑む力 世界一を獲った富士通の流儀』
著 片瀬京子、田島一
日経BP社

「2位じゃダメなんですか」と言われながらも世界一をめざいた
スーパーコンピューター「京」の開発をはじめ、
システムトラブルで失った信頼を取り戻すため、再び開発に
名乗りをあげた、東証の新システム『アローヘッド』、
すばる望遠鏡、アルマ望遠鏡、らくらくホン、
農業クラウド、次世代電子カルテ、手のひら静脈認証など、
富士通が挑んだプロジェクトを現場リーダーへの取材で描く。

つまりは富士通プロジェクトX。
残念なのは、ひとつのプロジェクトがそれほど詳しくは説明されておらず、
インタビュー取材の声だけを集めているので、
プロジェクトXといっても、ダイジェスト版の印象はぬぐえない。
例えば、「京」がどんなシステムであり、困難な部分は
どこにあったのか、演算性能はどうやって測られるのか、
追い上げる中国側のコンピューターとはどんなものなのか、
もう少し説明されていればよかったと思う。
(「2位じゃダメなんですか」って今聞いても、すごいセリフなのだが、
どのような状況でそのセリフが使われて、実際に予算が減らされたのか、
当時の状況をもっと解説してほしい。いくら有名なセリフだからって
説明端折りすぎです。)
困難さがよくわからないプロジェクトXでは、
ちょっといいエピソードが紹介されていても、まったく盛り上がりに欠ける。

なので、富士通の社内報か新入社員に配るパンフレットのような
富士通の信念を綺麗な言葉で並べただけの印象が残る。

富士通といっても、多くの人の頭に浮かぶのはPCだけで、
それすらも、アップル、ソニー、NEC、東芝の中で
抜きん出ているわけではない。
(携帯の開発ももちろん大きいのだけれど、
らくらくホン=富士通ってイメージはない。)
印象のやや薄い富士通が、実は東証システムを開発しているとか、
すばる望遠鏡のシステムも富士通だとか、
本書で初めて知ったことも多い。

東日本大震災が起きた当日、停止した新幹線の中で
災害支援のための企画書を書き始め、いちはやく現場に入るなど、
大きな会社とは思えない機動力も意外だった。
しかし、実際に富士通がどういう災害支援を行なったのかが、
やはりわかりにくいので、ここらへんはもっと掘り下げてほしかったところ。

◆読書メモ

CPUの稼動試験に成功し、2009年9月には、それを組み込んだ
システム全体が立ち上がっていた。その直後の11月、関係者の
耳には衝撃的過ぎる発言が放たれた。
「2位じゃダメなんでしょうか」
その当日、たまたま富士通主催で、大規模な会合が開かれていた。
日頃お世話になっている方々をホテルに集めての、一大イベントだ。
その場に、政府による事業仕分け(行政刷新会議)の様子が知らされる。
気まずい雰囲気になった。

3月11日の前にも、ケーブルを製造する工場のある宮城県では、
大きな地震が起きていた。伊東はそのとき、工場へは
「大変でしょうけれど、よろしくお願いします」と電話を入れていた。
しかし11日には、電話がつながらない。
2日ほどして連絡が取れるようになると、そこの社長に言われた。
「わかってますよ、6月でしょう。私たちが足を引っ張るわけには
いきません。それに、この状態から世界一になれば、それが
復興への足がかりになります」

「大切なのは、世界一を目指して頑張り続けること。最終的な結果は
ともかく、世界一を目指して頑張らない限り、世界一になることはできません」

「提案するからには、絶対に受注する。そうでなければ『富士通は
あのトラブルのせいで受注できなくなった』という評価を、
ずっと受け続けることになる」

徐々に、高所での作業には、人によって向き不向きがあることが
わかってきた。(略)
「当時の山本卓眞名誉会長は強かったです」というのは瓦井だ。
「秘書の方はすぐに頭が痛くなってしまたのですが、名誉会長は
全部の設備を見て回られて、それで曰く『俺は戦闘機に乗っていたんだ』と。
『隼』ですね。この言葉は、プロジェクト内で語り継がれています」

生川は作業服で現地活動する。その胸ポケットの名刺入れには、
会社が用意してくれた新しい名刺が入っている。
所属は富士通株式会社災害支援特別チーム。
本来の所属部署も、肩書きもない。
「そこに『マーケティング本部』と書かれた名刺を持って入ることは
考えられませんでした。災害支援特別チームの名刺ならどこでも
受け入れられました。肩書きは、富士通の中でしか必要ない。
被災現場では、行動する人かどうかで見られていました」

ブラジルでは年金を受け取るために、1年に1回、
受給口座のある銀行に出向いて「生きています」という
証明をしなければならない。だが、ATMの手のひら静脈認証を
パスした人は、生存が証明でき、この手続きが不要になった。

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