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本『アンダーグラウンド』

『アンダーグラウンド』
著 スーレット・ドレイファス、ジュリアン・アサンジュ
訳 三木直子
春秋社

1990年代のハッカーたちについて綴ったノンフィクション。
ウィキリークスのジュリアン・アサンジュが“リサーチャー”として
参加しているが、つまりは彼自身が、ハッカーとして
自分のことや仲間たちについて情報を提供しているのだ。
1997年に出版されたこの本は、その後、アサンジュが
有名になったことで、再び注目されるようになる。
(ウィキリークスについて書かれた本の多くが、
この本を種本としている。)
2011年に再販され、日本では初めての翻訳となるのは、
そういった背景がある。

しかし、今、この本を読んで、おもしろいと思うのは
ウィキリークスとはまったく関係ない部分で、
1990年代という黎明期におけるハッカーたちの青春である。
メンダックス、アンスラックス、エレクトロン、トラックス、
プライムサスペクト、フォース、パラマスター、
(ハンドルネームがもうすでに中二病である)
彼らの多くは10代で、何人かは親の離婚など家庭環境に
問題があり、ドラッグや女の子ではなくハッキングにのめりこんだ。
ネットワークに侵入して、金銭などの損害を与えない
ハッキングについて、当時は法整備が追いついておらず、
まだグレーゾーンだった。
やがて彼らは最初のテストケースとして逮捕され、
裁判にかけられる。

 「外国のコンピュータにアクセスすることの何が君にとって魅力なのか、
 君の言葉で聞かせてくれないかな」
 この質問に答えるのは、意外に難しかった。
 答えを知らなかったからではない。その答えを、コンピュータを
 ハッキングしたことが一度もない人に向かって描写するのが難しいのだ。

ハッカーたちが逮捕され裁判にかけられる過程は
ほとんど同じ話の繰り返しなので、途中でやや飽きてしまうのだが、
その中から、彼らの情熱、自己顕示欲、友情、反抗心のような
ものが浮き上がってくる。世界中とつながっていながら、
ひとにぎりのものだけが味わえる頂点、
小さな数人の間でしか通じない会話は本当に楽しかったはずで、
1990年代というのがハッカーにとっても黄金期だったのがわかる。

パーとエレクトロン、ガンダルフがセオレムという女の子を
めぐって争うのだが、当時のネットワークにハッキングを理解する
女子はほとんどおらず、頭が良くて感じのいいセオレムが
モテモテだったのも理解できる。

ハッカーを描いたノンフィクションの最高傑作は、
やはり『カッコウはコンピュータに卵を産む』だと思うが、
著者のクリフォード・ストールは当然ながらハッカーに
嫌われており、彼のマシンにいたずらをするエピソードも出てくる。

時系列がややわかりにくかったり、
ハッカーへのインタビューがソースなので、
ところどころ話が切れてしまっているのは残念。
(第一章のWANKワームについて、作者があとから
でてくるのではと期待していたのに。)

また、再販にあたって追加されたあとがきが、
ハッカー=反体制=弱体化したメディアに対抗するための
ウィキリークスみたいな話になってしまっているのもどうなのか。
ハッキング自体はやはりいたずらと悪事の紙一重であり、
その微妙なバランスをハッカーたちは楽しんでいたのではと思うので
そこに初めから政治的意図なんてなかったはず。
(彼らは大企業や政府組織をターゲットにし、
テレコムはいつでも嫌われており、
タダで電話をかける“フリーキング”は
通信に必要な手段であると同時に、電話代を盗んでも
迷惑をかけるのは電話会社だけという認識があった。)

 彼らは誰一人として、二人のハッカーの頭の中で何が起きているか、
 まるでわかっていない。
 彼らには決して、ハッキングとは何なのかが理解できないのである。

◆読書メモ

SPAN(Space Physics Analysis Network)は「DECNETインターネット」
とも呼ばれていた。SPAN上のコンピュータのほとんどは、
マサチューセッツ州にあるDEC(Degital Equipment Corporation)
によって製造されていた。

ニュージーランドは長年にわたって、太平洋でのフランスによる
核実験をこらえ続けていたが、1985年、オークランド港に停泊中の
グリーンピースの反核抗議船をフランスが爆破したのである。
核兵器の実験場、ムルロア環礁に向けて出港を待っていた
レインボー・ウォーリア(虹の戦士)号は、フランスの秘密諜報員に
よって爆破され、グリーンピースの活動家フェルナンド・ペレイラが死亡した。

SPANチームを本当に震え上がらせたのは、ワームがNASAで
大暴れするのに使っている戦術が、この上なく単純なものだったからだ。
つまり、ユーザーネームとパスワードが同一のアカウントを狙う、
ということである。ワームは、単にユーザーのアカウントネームと
同一の文字列をパスワードとして試すだけで、
NASAのコンピュータを完全に掌握していたのだ。

リヒター・スケールでマグニチュード7.1を記録したロマ・プリータ地震は、
凄まじい速さでサンフランシスコ・ベイエリアを引き裂いた。(略)
どうしても社内に残ることが必要な者以外はただちに外に出るように、
という社内放送の大音声が響く中、オーベルマンは報告書の最後の
一文を急いで書き終えた。一瞬手を止め、それからあとがきとして、
この段落が意味をなしていないとしたらそれはたった今
ローレンス・リバモア研究所を襲った大地震に少しばかり慌てて
いるからである、と付け足した。彼はキーを叩き、
完成したWANK対策レポートを送信して、建物を後にした。

感染したマシンの台数がどれほどであったにしろ、
ワームが地球上を駆け巡ったのは確かだった。
スイスにある欧州原子核研究機構(CERN)といったヨーロッパの
サイトや、メリーランド州ゴダード宇宙飛行センターのコンピュータ、
シカゴのフェルミ研究所、そして太平洋を越えて日本の
理研加速器研究所にまで到達したのである。

初期のオーストラリアのアンダーグラウンドにおいて
ハッキングの黄金律とされたルールに従おうとしない輩である。
そのルールとは、侵入したコンピュータ・システムに損傷を
与えない(クラッシュさせてもいけない)、システム上の情報に
手を加えない(自分の足跡を隠すためにログを操作することは除く)、
そして、情報は共有する、というものだった。
初期のオーストラリア人ハッカーのほとんどにとって、人のシステムに
侵入するのは国立公園に遊びに行くのと似ていた。公園内の物に
手を触れたり持ち帰ったりしないこと。

ライカーズ島に移った数日後、ホモ・キラーがパーを
ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズに誘った。(略)
こうして、カリフォルニア出身の20歳のハッカー、X.25ネットワークを
知り尽くした神童、パーは、宝石泥棒、ホモ嫌いの人殺し、
そして気の狂った連続殺人鬼と、ライカーズ島でダンジョンズ・アンド・
ドラゴンズをプレイする羽目になったのだ。その状況のシュールさに、
パーは驚嘆せざるを得なかった。

1989年当時、セキュリティに関するプロの第一人者たちは
ハッカーたちに「ホワイトハット」と呼ばれていた。

4人のハッカーは、安全な保存場所を決めようと知恵を絞った。
イギリス人ハッカーとオーストラリア人ハッカーが、
自分たちの宝を隠すのはテキサス州オースティンか、
ニュージャージ州のプリンストンか、マサチューセッツ州ボストンか、
それともコネチカット州のニューヘイブンか、と、ドイツのシステム上
でリアルタイムで会話していたのだ。世界は彼らの手中にあった。

「外国のコンピュータにアクセスすることの何が君にとって魅力なのか、
君の言葉で聞かせてくれないかな」
この質問に答えるのは、意外に難しかった。
答えを知らなかったからではない。その答えを、コンピュータを
ハッキングしたことが一度もない人に向かって描写するのが難しいのだ。

車でほんの一時間のリバプールに住んでいるガンダルフとは、
友人関係を保つのにもっと容易な手段もあったろうが、それでは
ダメなのだった。パッドとガンダルフは一度も実際に会ったことがなく、
電話で話したことさえなかった。二人は、オンラインチャットか
Eメールを使って会話した。それが二人の付き合い方だったのだ。

険しい表情をしたハリス判事には二人を刑務所に送ることはできても、
理解はできないのだ。法廷の前の方でやかましく言い争っている
弁護士たちと同様、判事もまた蚊帳の外だし、それはこの先も同じだろう。
彼らは誰一人として、二人のハッカーの頭の中で何が起きているか、
まるでわかっていない。彼らには決して、ハッキングとは何なのかが
理解できないのである。

自分の足跡を消しながらつま先立ちで静かにシステムから抜け出すと、
メンダックスは自分が目にしたものについて考えを巡らした。
アメリカ軍に雇われるハッカーがいる、というのは彼を非常に動揺させた。
ハッカーは無政府主義者であるべきであって、軍の手先であっては
ならない、と思っていたのだ。

最高だった。この巨大な、セキュリティの甘いコンピュータ・ネットワークが
自由になるのだ。若き三人のハッカーは自分たちを待つ冒険に
胸を躍らせた。一人はそれを、「船が難破して流れ着いたのが、
いただくのにちょうどよく熟れた処女が1万1000人住んでいるタヒチの
島だった」ようなものだったと表現している。

彼はまた、「非常に聡明な人間がこのような行動を取る」ことを憂慮する、
と言い、「非常に聡明な人間でなければ、あなたがした行為は行なえない
はずです」と言った。

コンピュータ・システムをハッキングしているとき、彼は自分が物事を
支配している、という感覚を味わった。システムのルートに入ると
アドレナリンが体内を駆けめぐるのはまさにそれが理由だった。
それはつまり、システムが自分の手中にあり、何でも好きなことが
できるということを意味していた。どんなプロセスやプログラムを
走らせることも自由だったし、自分のシステムを使わせたくない
ユーザーは削除することもできた。「このシステムは俺のものだ」
と彼は考えた。あるシステムのハッキングに成功したときに
彼の頭の中を繰り返し繰り返し駆け巡るこの言葉で一番大事なのは
「俺のもの」というところだった。

だが現在の彼は、何故ハッキングを続けるのかについてもう少し
明快な答えを持っている。「僕の一番の動機は、学びたいという
ことなんだ」と彼は言った。
その願望を満たすために大学や図書館に行かないのは何故か、
と尋ねると、彼はこう答えた。「本では理論しか学べない。
理論が嫌いなわけじゃないけど、
現実のコンピュータ・セキュリティは理論とは全然違う」。

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