« 本『僕は、だれの真似もしない』 | トップページ | 本『神々のワード・プロセッサ』 »

本『桐島、部活やめるってよ』

『桐島、部活やめるってよ』
著 朝井リョウ
集英社文庫

映画化が決まる前から本屋で見かけるたびに気になっていたこの本。
なんといってもタイトルがいい。
「桐島、部活やめるってよ」
このタイトルだけで、たぶん高校生、部活はたぶん運動部、
教室に入ってきてこのセリフを言う男の子と、
それを軽いショックを受けながら聞く男の子が浮かぶ。

私は高校生のとき、陸上部で、ひとつ上の先輩は
一度、陸上部を辞めた。同じ学年の先輩たちが家に行ったりして
その先輩を説得して、彼は戻ってきた。
地区大会のとき、先輩たちはリレーを走り、大会のあとの
ミーティングで彼は「戻ってきてよかった」と言って泣いた。

そういう物語がタイトルだけで、ばーっと頭に浮かぶ。
すごく良いタイトルだ。

映画公開が待ちきれず、原作を読んだわけですが、
物語自体には想像どおりのところもあり、そうでないところもあり。

自転車が風を切っていく感じや、きらきら光る体育館、
音符のような放課後のグラウンド、ひとりだど息苦しい教室、
不平等な高校生たち、ひとつひとつの描写に鷲づかみにされる。

私が高校生のときはここまでヒエラルキーはなかったけれど、
フワフワと漠然とした不安や、グラウンドから見た夕陽の美しさとか、
いろいろ思い出しました。

◆読書メモ

十七歳の俺達は思ったことをそのまま言葉にする。
そのとき思ったことを、そのまま大きな声で叫ぶ。
空を殴るように飛び跳ね、町を切り裂くように走りまわる。
飛行機雲を追い抜く速さで、二人乗りの自転車をかっ飛ばす。

体育館はきらきらしている。二階の窓から光が差し込んできて、
それらが反射してそこらじゅうを明るく照らしだす。
色とりどり、というわけではないけれど、木の色が光って、
とてもきれいだ。トン、と足に力を込めて踏みこめば、その分飛べる。

すれ違う後輩にお疲れ、と挨拶をする。部活が終わった後、
外はもうすっかりと色を変えていて、校舎は息を止めたように
ひっそりとしている。教室棟も真っ暗だ。遠くの方に浮かんでいる
職員室のあかりだけが、真っ暗な夜の世界に明るかった昼間の
余韻を残している。

桐島のレシーブは、美しい線を描く。バレーを愛する気持ちを
ぎゅっと固めて丸めたようなボールを、膝をやわらかく動かして
全身で受け止めるんだ。

選手を見ていると、ひとりひとりにその人なりのバレーボールが
あるのだと感じる。今コートでアップしているレギュラーメンバーにも、
選抜されなくて二階席に追いやられた他の選手にも、
スコアブックを抱えるマネージャーにも男子の大会を見にきた女子にも
誰にも誰にも。ここにいる全員が、バレーボールをする上での
気持ちよさを知っているって、なんだかすごく素敵なことに思える。

放課後のグラウンドはピアノの楽譜に似ている。
駆け回る生徒達がひとつひとつの音符だ。
野球部の声で低音が安定して、そこにサッカーボールの
バウンド音が重なる。八分音符にスタッカートがついたような
軽快なリズム。強すぎるソプラノは、テニス部の笑い声。
私は窓からサックスを突き出して、まるでグラウンドを操る指揮者みたい。

ピンクが似合う女の子って、きっと、勝っている。すでに、何かに。

学校にいるときは、時間の流れが速い。
たぶん地球の自転の変化だと思う。私たちは学校にいると、
楽しくて飛びはねたりしているから、世界中の学生の飛びはねによって
地球の自転は速くなっているんだと思う。って前、志乃が言っていた。
私は少しばかみたいだと感じたけれど口には出さなかった。

私には、今の季節、昼と夜の長さが同じだとは思えない。
私達にとっては、動いている時間が昼であり、
寝ている時間が夜なのだ。一年間、それはなんにも変わらない。
すっと動いていたならばそれはずっと昼だし、ずっと寝ていたならば
それは明けない夜だ。明けない夜はないだなんて誰が言ったのだろう。
私が死ねばそれは明けない夜だ。

ひとりじゃない空間を作って、それをキープしたままでないと、
教室っていうものは、息苦しくて仕方がない。
それをかっこよくこなせるほど十七歳って強くないし、
もしそういう人がいたとしても自分はそうじゃないってことだ。

この空の分だけ大地がある。世界はこんなに広いのに、
僕らはこんなに狭い場所で何に怯えているのだろう。

小さくなっていく梨紗の背中を見ながら思う。高校生って不平等だ。
たぶん人間的に梨紗より魅力的な人なんて、クラスにたくさんいる。
だけど外見が魅力的じゃないなから、みんな梨紗に負けるんだ。

俺達はまだ十七歳で、これからなんでもやりたいことができる、
希望も夢もなんでも持っている、なんて言われるけれど本当は違う。
これからなんでも手に入れられる可能性のあるてのひらがある
ってだけで、今は空っぽなんだ。

« 本『僕は、だれの真似もしない』 | トップページ | 本『神々のワード・プロセッサ』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/27590/46476224

この記事へのトラックバック一覧です: 本『桐島、部活やめるってよ』:

« 本『僕は、だれの真似もしない』 | トップページ | 本『神々のワード・プロセッサ』 »