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本『ゾウの時間 ネズミの時間』

『ゾウの時間 ネズミの時間 サイズの生物学』
著 本川達雄
中公新書

いわずと知れたベストセラー本。
1992年発売だからもう20年前。その後、本書に書かれていることに
新たに発見や異説もあったかもしれないが、
「動物の時間は体重の1/4乗に比例する」を中心に、
「サイズや支持系のことを考えに入れると、
動物のデザインが見えてくる」を明快に解説している。

タイトルを『ゾウのサイズ』ではなく『ゾウの時間』としたとこが秀逸で、
実際にはサイズの話がほとんどなのだが、
「ゾウやネズミは人間とは異なる時間で生きている」
という感覚はとても新鮮。

(そしてゾウやネズミというわかりやすい動物よりも
ヒラムシやクチクラやサンゴやヒトデの話が多いので、
これらの生物にあまり興味がない私としては
後半はやや疲れました。)

ネズミはネズミが生きるに適したサイズであり、
ヒラムシはヒラムシに適した支持系(消化器官とか呼吸器とか)
をもっている。当たり前の話だけど、生物がなぜそのサイズであり、
その形なのかには、進化の歴史や深い理由があるわけだ。

◆読書メモ

時間は体重の1/4乗に比例するのである。

さて、ではなぜサイズの小さいものが系統の祖先になりやすいのだろうか。
その理由は、小さいものほど変異が起こりやすいことにある。
小さいものは一世代の時間が短く、個体数も多いから、短期間に
新しいものが突然変異で生まれでる確率が高い。また、小さいものほど
移動能力が小さいので、隣りの仲間から地理的に隔離されやすく、
したがって新しく変異で作られた集団が、独自の発展をとげる機会が多い。
また、小さいものほど環境の変化に弱いので、たまたまうまく適応したものを
残してあとは淘汰されてしまうという可能性も高いだろう。こう考えると、
小さいものが新しい系統の祖先になりやすいことが理解できる。

島に隔離されると、サイズの大きい動物は小さくなり、サイズの小さい動物は
大きくなる。これが古生物学で「島の法則」と呼ばれているものだ。

寿命はサイズによって大きく変わる。ところが一生に使うエネルギー量は、
体重一キログラム当たりにすると、寿命の長さにはよらず一定である。
短い命は激しく燃え尽きるということか。

舗装道路を帝国内にあまねく造り、車を走らせたのはローマ人である。
しかし帝国が崩壊し、道路の維持補修がなされなくなった後には、
その道をラクダやロバが背に荷物を積んで歩いていた。
がたがたの道では、車は使えなくなったのである。

効率の良さや、泳いでいる人がスクリューに巻き込まれる危険性がない
ことに目をつけて、尾びれを振ってすすむ船「ひれシップ」の開発に
取り組んでいる人も、いるにはいる。ただし、なかなかうまくいかない。
その最大の原因は、ひれを鉄板で作らざるをえないところにある。
ただつっぱただけの板をパタパタさせても、効率はさっぱり良くならない。
しなやかに曲がるひれには、比べようがないのである。

マックニール・アレグザンダー『サイズと形』
シュミット-ニールセン『動物の作動と性能』培風館

それにしても、2/3乗だといえば、たちまち表面積と情報量とを
関係づけて分かったような説明をし、3/4乗に比例するとなれば、
たちまち代謝率と関係づけた説が出てくる。実に科学とは
単純明快で、悪くいえば節操がない。

ここで注意しなければいけないことは、単純明快さを求めるあまり、
意識するしないに関わらず、事実を曲げてしまう危険性があることだ。
脳重に関していえば、脳と表面積と情報量とを関係づけた説明が
あまりにあざやかだったので、2/3乗というのが真の値と信じ込み、
現実に得られたかなりバラついた計測値を、なんとかこの「真の値」に
近づけようとして、データをかなり恣意的に取捨選択したふしがある。
単純化・抽象化のもつ魅力と魔力には、くれぐれも注意したい。

深い穴にウマが落ちれば、底にぶつかったときにグシャッとつぶれて、
それでおしまいだが、ハツカネズミなら落ちても底でピンピンしている、
こうホールデンの本に書いてあるよと、そんな話題が昼飯のときに出た。
「そうかねぇ」シュミット-ニールセンは信じられない様子である。
たちまちヴォーゲルが黒板に向かって計算しはじめた。
「底にぶつかったときの応力は体重の1/3乗に比例することになるから、
数十グラムの体重なら、だいじょうぶですよ」
「そんなもんかねぇ」シュミット-ニールセンは、まだ信じられない様子である。
「じゃあ、やってみましょう」ヴォーゲルはデュークの動物学教室のビルの
屋上(たしか六階だったと記憶する)にのぼり、さあいくよ! と
ハツカネズミを落とした。ネズミは下で待っていた見物人の前にストンと落ち、
しばらく目をパチパチぱちつかせていたが、すぐに駆け出した。
予測は実験により証明されたわけである。

まず、素朴な疑問をひとつ。ゾウでは細胞も大きいのだろうか。
それとも、ゾウもネズミも細胞のサイズに差はないのだろうか。
答えは、差がない。ゾウは体の大きい分、細胞の数が多い。

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