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本『ここは退屈迎えに来て』

『ここは退屈迎えに来て』
著 山内 マリコ
幻冬舎

地方都市に暮らす女の子たちを描いた短編集。

私はよくも悪くも東京生まれの東京育ちなので、地方で暮らすことが実感としてよくわからない。
親が田舎暮らしをしているので、それが憧れだけで成り立つような生活でもないことはわかるが、
そこで成長したわけではないので、地元の友達みたいな感覚はやはりわからない。

登場する女の子たちの「ここではないどこか」、「自分ではない誰か」に漠然と憧れながら
(『アメリカ人とリセエンヌ』、『地方都市のタラ・リピンスキー』といったタイトルが象徴的)
地元のぬるさになんとなくつかりながら、自分探しとかしちゃうわけでもない感じがよい。

場所も時間軸も少しずつ違う彼女たちをつなぐのは“椎名一樹”。
地元で育ち、みんなの中心でありながら、そのまま地元の普通のお父さんになる椎名くん。
彼はこの“退屈”から連れ出してくれるかもしれない女の子たちの憧れなのだが、
やはり彼もどこにもいかない。

タイトルも表紙も素敵で印象に残っていた本。
すでに文庫化されてますが、単行本の表紙がやっぱりよい。


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本『悪意の糸』

『悪意の糸』
著 マーガレット・ミラー
訳 宮脇裕子
創元推理文庫

原題は『Do Evil in Return』。
巻末の解説によると、W.H.オーデンの詩「1939年9月1日」の一節で、
Those to whom evil is done
Do evil in return.
「悪を為す者は、必ずその報いを受ける」
といった意味らしいです。

どんな悪が為され、どんな報いがあったのかとなると、
報いとしては大きすぎないかなというのが読後の印象。
出てくる人みんなちょっと不幸で、悪人もいるけど報いとしては気の毒。

1951年の小説ですが、
主人公が30代の女医で、知性も魅力もあって自立しているのに
40代の既婚者と隠れて不倫している。
対する奥様は、花と犬に囲まれた豪邸から一歩も出ない
保守的で、従順で、気の利いたことはあまり言えない退屈な女性。
という構図は少し前のドラマなら定番だろうし、今でも通用しそう。

ミステリ仕立てですが、今読むとそこはやや物足りなく、
主人公が罪悪感を抱えながら、それでも毅然と
事件に巻き込まれていく感じが読み応えがあります。

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本『すべてのニュースは賞味期限切れである』

『すべてのニュースは賞味期限切れである』
著 速水健朗、おぐらりゅうじ
アスペクト

ウェブサイト『cakes』の時事放談をまとめたもの。
都知事選、佐村河内守ゴーストライター事件、ソチ五輪、『いいとも』最終回、『テラスハウス』、
『アナ雪』、アイスバケツチャレンジ、W杯、ヘイトスピーチ、イスラム国、乃木坂46スキャンダル
などなど、2014年の出来事を炎上もおそれぬ自主規制なしで語り合っている。

最初に思ったのは、私、2014年のニュースを見出しレベルでしか知らないということ。
ツイッターとかあまり見なくなったとか、毎日会社に行ってるわけではないので、
世間の出来事について語る機会が減ったとかあるのだけど、
最近では、ニュースの第一報は、妹が「どこどこでこんな事件があったよね」と話はじめるのが主。
それもネットのどこかで拾ってきたようなコネタばかり。

おぐらさんが本書で語っているとおり、超情報社会でも自分が関心ないことは
スルーできちゃうというか、情報として入ってこない。
さすがに今年はもう少し世間にコミットしようと反省しました。

都議会のセクハラヤジはその中でも結構覚えてるニュースなんだけど、
これはヤジに頭にきたとかではなく、
その騒がれ方がバカみたいだったということで印象に残ってる。
このニュースはFacebook経由で知ったのだけれど、「ひどい」と怒っているのはほとんど男性。
女性からすると「いつものこと」で、なんで今さらそれぐらいで騒ぐの?という感じ。
(ここまで酷くなくても、女性なんて「結婚しろ」「子供産め」ってどこかで言われてます)
怒ってる男性たちは、もちろん自身の正義感から正しく怒っているんだと思うけど、
「私はそんなセクハラはしない」っていうポーズも感じて、だいぶ冷めた目で見てました。

ハロウィン、W杯のところで言われていることですが、
「ネットのコミュニティが現実のコミュニティの在り方に影響を与えてる」
のが現在の流れではありますね。
そういった変化とか、ニュースの消費のされ方のスピードとかが
本書の対談からも見えてきます。

あと、個人的には、みたままつりが今年(2014年)最高の人出で、
今後の開催が危ぶまれているっていうことがちょっと気になりました。
数年前はまだ余裕で楽しめたんですが、
たしかに最近は人多すぎて、まったく歩けなくなりました。

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本『月を盗んだ男』

『月を盗んだ男』
著 ベン・メズリック
訳 高山祥子
東京創元社

NASAのジョンソン宇宙センターから月の石が盗まれた。
犯人は恋人に「月を贈る」と約束した、23歳の研修生。
2002年に実際にあった事件を描いたノンフィクション。

内容よりもまず著者ベン・メズリックに引かれて手に取った。
ベン・メズリックは映画『ソーシャル・ネットワーク』の原案『facebook』の著者。
Facebook関連本はその後山のように出版されているが、
メズリック本はそのなかでも早かったのと、マーク・ザッカーバーグが取材を拒否したため、
彼に裏切られた人々の視点から描かれていていて非常におもしろかった。
映画『ソーシャル・ネットワーク』はこの原作本が出版される前に版権を買い取り、
Facebookの原型がエリート大学生たちの社交クラブであること、
ひとりの女性を振り向かせたいがために、マークがFacebookを作ったことを描いていた。

そういう前提もあってこの本を読むと、構成としてはよく似ている。
NASAの研修生という、エリート集団、
その中で目立つために行動をエスカレートさせていくサド。
彼は出会って数ヶ月の女性のために犯行におよぶ。

貴重な月の石を盗み出し、10万ドル(大金ではあるけど、
宇宙飛行士になれるかもしれなかった未来をすて、
一生を棒にふってもいいほどの額ではない)で
売ろうとしたサドの行動は、ほとんど理解できない。
メズリックは、彼が研修生になるまでの過程と、
研修生たちの生活をていねいに描いて、その理由を探ろうとしているのですが
やっぱりよくわからないというのが感想。
彼女の前で格好をつけたかったというのは、あまりに単純じゃないですか。
犯行そのものよりも、NASAの研修生生活の部分のほうがおもしろく、
NASAという特殊環境が彼を少しずつ傲慢にしていった感じもする。

私は知らなかったけれど、さすがにこれだけの盗難事件なので、
検索するとノンフィクションドラマやサドのインタビューをもとにした記事などもみつかる。
本書ではレベッカと名前を変えてある彼女ティファニーを
映画化したら誰が演じるのか、キャスティングを考えてみるのもおもしろい。

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