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本『月を盗んだ男』

『月を盗んだ男』
著 ベン・メズリック
訳 高山祥子
東京創元社

NASAのジョンソン宇宙センターから月の石が盗まれた。
犯人は恋人に「月を贈る」と約束した、23歳の研修生。
2002年に実際にあった事件を描いたノンフィクション。

内容よりもまず著者ベン・メズリックに引かれて手に取った。
ベン・メズリックは映画『ソーシャル・ネットワーク』の原案『facebook』の著者。
Facebook関連本はその後山のように出版されているが、
メズリック本はそのなかでも早かったのと、マーク・ザッカーバーグが取材を拒否したため、
彼に裏切られた人々の視点から描かれていていて非常におもしろかった。
映画『ソーシャル・ネットワーク』はこの原作本が出版される前に版権を買い取り、
Facebookの原型がエリート大学生たちの社交クラブであること、
ひとりの女性を振り向かせたいがために、マークがFacebookを作ったことを描いていた。

そういう前提もあってこの本を読むと、構成としてはよく似ている。
NASAの研修生という、エリート集団、
その中で目立つために行動をエスカレートさせていくサド。
彼は出会って数ヶ月の女性のために犯行におよぶ。

貴重な月の石を盗み出し、10万ドル(大金ではあるけど、
宇宙飛行士になれるかもしれなかった未来をすて、
一生を棒にふってもいいほどの額ではない)で
売ろうとしたサドの行動は、ほとんど理解できない。
メズリックは、彼が研修生になるまでの過程と、
研修生たちの生活をていねいに描いて、その理由を探ろうとしているのですが
やっぱりよくわからないというのが感想。
彼女の前で格好をつけたかったというのは、あまりに単純じゃないですか。
犯行そのものよりも、NASAの研修生生活の部分のほうがおもしろく、
NASAという特殊環境が彼を少しずつ傲慢にしていった感じもする。

私は知らなかったけれど、さすがにこれだけの盗難事件なので、
検索するとノンフィクションドラマやサドのインタビューをもとにした記事などもみつかる。
本書ではレベッカと名前を変えてある彼女ティファニーを
映画化したら誰が演じるのか、キャスティングを考えてみるのもおもしろい。

◆読書メモ

ヘルムズはうめいた。「なんだよ、いつか月に行きたいとでも?」
「いいや。火星に立つ最初の人間になるんだ」
サドは自分でも、なぜそう言ったのかわからなかった。すこしばかげた気分になったが、ヘルムズは肩をすくめただけだった。
「なれるかもしれないな」彼はサドをつれてドアから離れながら言った。「ぼくが先に行かなければね」

「科学はこのNASAではグループの作業だ。多くの優秀な人たちが、このような発見をするのに長い時間を注ぎこむ。きみもいずれわかるよ。一夜にして、とつぜん成し遂げられることはない。独力で成し遂げようとするより、明るい星座の一部になることが重要だ」

今夜は、みんなで集まって映画<アポロ十三号>を見るという、例年の研修生の儀式があった。ニール・アームストロングによる月面歩行をふたたびおこなおうとした、不運な試みの物語だ。

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