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本『燃えるスカートの少女』

『燃えるスカートの少女』
著 エイミー・ベンダー
訳 管 啓次郎
角川文庫

ここ数年注目されているエイミー・ベンダーの最初の短編集。
タイトルに惹かれて読みたいとずっと思っていた一冊。

「私の恋人が逆進化している。誰にも話していない。
どうしてそんなことになったのかわからないけれど、
ある日まで彼は私の恋人だったのに、その次の日には猿になっていた。
それから一か月がたち、いまは海亀。」

『思い出す人』の冒頭がこんな感じで、一気にその世界に引き込まれる。
登場人物たちはそれぞれ少し変わっているけれど、
その孤独感は地に足がついているというか、不安にさせられるようなものでもなく、
ある部分では共感すら感じる。

エイミー・ベンダーの小説を説明するのは難しいが、
訳者のあとがきと解説がうまくそれを表現している。

「とっても不可解で、超現実的で、暗く、
でも同時に明るいユーモアにみちて、深く真実。」
(訳者あとがき 管 啓次郎)

「待っていたものとは異なるなにかがいきなり手許にやってきても、
それを不可解だと思わず受け止め、あって当然のものがいきなり
どこかへ消えてしまっても、それをさびしさと呼ばずに黙って呑み込んでいる。
ある意味で、彼ら、彼女らは、孤独とは言えない。
家族であれ恋人であれ友人であれ、まわりにひとがいて
そのなかに自分がいることのあたりまえさを、自然さを、ありがたさを、
またそれゆえの残酷さをも理解している。にもかかわらず、
彼らは触れ合いの持続よりも、その静かな崩壊の持続のほうに、
より大きな価値を置いているのだ。」
(解説 堀江敏幸)

『どうかおしずかに』の一文はこんな感じ。
「女は図書館員で今日、彼女の父親が死んだ。彼女は朝、
泣いている母親から電話をもらい、吐き、それから着替えて仕事にきた。
背中をぴんとまっすぐにしてデスクにむかい、いつもベストセラーを借りるために
図書館にくる若者に彼女はとても礼儀正しくたずねる、
最後にセックスをしたのはいつだったかとたずねる。
彼は妙な声を出し彼女はシィーッという。ここは図書館ですよ。」

驚くことにこの文章を私は父が亡くなった日に読んだ。
朝、母から電話をもらい(私の母は泣いてなかったけど)
1週間ほど休むためにも仕事を片付けなくてはいけないので
会社に向かう電車の中で、読みかけの本を開いたら、この短編だった。
図書館員の彼女は殺したいほど憎んでいた父の死を受け止めきれず、
図書館にやってくる人と次々にセックスをするのだけど、
もちろん、私はそんなことはしないけれど、
まだ全然、父が死んだという現実感のないフワフワとした中で読むには
この短編はぴったりだった。
父が亡くなった日にこの短編を読む人もそんなにいないと思われるので
この偶然をなんとなく幸運なことのようにも感じた。


◆読書メモ

私は思い出す、特に高校時代、私はこの手のふりがとっても上手だった。
思慮深さを練習し、気楽そうな見かけを作った―そしてどれだけの男たちをだましたのだろう?
髪の毛を耳のうしろにはさんですわり、本に熱中しているということにして、
この正確な独白を考え、おなじパラグラフを何度も何度もくりかえして読み、
かれらが私を見て欲しがるのを待ちつつ、私は本を読んでいる少女としての
私自身のイメージに没頭していた。

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