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本『ミラノ 霧の風景』

『ミラノ 霧の風景』
著 須賀敦子
白水uブックス

須賀敦子は『コルシア書店の仲間たち』、『トリエステの坂道』、
それからこの『ミラノ 霧の風景』と発表順不同に読んできているのですが、
どれもイタリア時代の彼女をめぐる人々の断片なので、
『コルシア書店』にも当然でてきた同僚のガッティやアントニオ、ルチアの話や
『トリエステの坂道』で詳しく書かれている夫の家族の住んでいた鉄道官舎など、
あっちの本ではさらっと書かれていることがこちらには詳しく書かれていたり、
逆にこっちの本では背景まで説明していなかったことが、
別の本では主になっていたりして、全体を通して読むと、
コルシア書店と彼女の夫ペッピーノ家の一大叙事詩みたいになる。

須賀敦子の魅力というのは第一に、文章が読んでいて気持ちがいいということなのだが、
書かれている内容は、路地裏の小さな道から始まる回想から、
その街で生まれた詩人のエピソードになり、その詩人をめぐる友人の話へとつながり、
と流れるように話が飛ぶ。

彼女の語る町の風景が、ミラノにしてもヴェネツィアにしてもナポリにしても
旅人のそれや、観光客ではなく、暮らす人の視点につらぬかれているのも魅力。
彼女が語るとヴェネツィアもきらびやかな都市ではなく、
町の人たちがひっそりと秘密を抱えた古ぼけた町のように見える。

日本人にはほとんど理解できない階層や人種の織り成す社会を
異国人であるがゆえに彼女がかろやかに横断して、
上流社会の人々の暮らしも、貧しい家庭から出てきた青年の物語も
同じ国のそれぞれの側面として同列に描いてみせているのもおもしろい。

『ミラノ 霧の風景』は須賀敦子のデビュー作だが、
日本オリベッティの広報誌に連載されていたもの。
オリベッティ?と思うのだが、そのオリベッティとも
浅からぬ縁で須賀敦子がつながっていることが本書に出てくる。

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