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本『猫のゆりかご』

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

『猫のゆりかご』
カート・ヴォネガット・ジュニア
伊藤典夫 訳
ハヤカワ文庫

ヴォネガットはいつも読み終わると唖然とする。

スラプスティックとかブラックユーモアとか
ナンセンス・ギャグとか評されるけれど、つまりは「たわごと」であり、
「たわごと」を語りながら人生とか神とか生きることの意味だとかを描いてみせる。


そして読み終わると
「いえいえ、これは何の意味もない、ただのたわごとですよ」
と言われて唖然となる。そんな感じ。


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本『魔女狩り』

魔女狩り (岩波新書) 図説 魔女狩り (ふくろうの本/世界の歴史)

『魔女狩り』
森島恒雄
岩波新書

『図説 魔女狩り』
黒川正剛
河出書房新社

世界史のお勉強の一環として「魔女狩り」にスポットを当ててみました。

中世のものだと思われがちな魔女狩りですが、ルネサンス期の1600年頃をピークに、
地域によって偏りはあるものの1400〜1700年の長きにわたって行われていたこと、
正確な数は不明だが5万人以上が処刑されたことなど、
基本的な事項だけでも今までのイメージより大がかりなものでした。


あいつは魔女らしいという噂のみで逮捕して、
拷問による自白によって有罪となり、火刑に処せられる。

自白を取り消すと生きながら火あぶりで、
罪を認めれば絞殺刑のあと火あぶりなので自白を撤回するものはいなかったとか、
手足を縛って水に入れて沈んだら無罪、浮かんだら有罪とか、いや本当にひどい。
いったん魔女だと訴えられたらほとんど逃れることはできなかったと思われます。


『魔女狩り』のほうが裁判の流れから拷問の様子、自白(させられる)内容など、
当時書かれた記録をもとに解説されていて基本的なことがよくわかりました。


『図説 魔女狩り』はそうした基本的な説明が省略されてしまっているのですが、
『図説』というだけあって「魔女狩り」を題材にした絵画や
当時の書籍のイラストなどが豊富で、魔女のイメージがよくわかります。

(これがどれもエロいのだけど、サバトで悪魔と性交することが
魔女の罪のひとつなので魔女には性的なイメージがあるんでしょうね。)


なぜ魔女狩りが起こったのかについては、異端審問から宗教改革、
天候不順や病の流行による社会不安などの歴史的背景は解説されているのですが、
読んでいてもよくわからなかった。


「魔女狩りとは、何らかのかたちでヨーロッパ・キリスト教文化の影響下にある地域で、
近世という時代に集中して起こった、すぐれて文化的・宗教的・時代的に
特異な社会現象だったのである。」(『図説 魔女狩り』)
ということになってしまうようです。

私的には魔女狩りとはコミュニティを抜きに語れない社会的なものだと思うので、
そこらへんの解釈もいずれ読んでみたいと思います。


(魔女として訴えられたのは当初の老女だけでなく、
物乞いをしていた貧しい人、病気や知的障害のある人、人種的によそ者から、
若い女性や地位のある男性まで含むようになります。
そこには男女間の嫉妬や財産に対する妬み、差別があったはずではと思うのです。)

 

本『その女アレックス』

その女アレックス (文春文庫)

『その女アレックス』
ピエール・ルメートル
橘明美 訳
文春文庫

『悲しみのイレーヌ』に続く
カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第2作。


日本ではこちらが先に翻訳されて大ヒットしたため、
多くの人が第1作のネタバレをくらうことになったわけですが、
それを抜きにしてもこれから読むなら第1作を先に読んだ方がいい。

カミーユのアレックスに対する感情とか、母への複雑な想いなどは
第1作を読んでいるかどうかでかなり印象が変わるはず。


監禁や殺人場面がかなりグロかったり、
ミステリーとしては反則じゃないかという構成だったりするのですが、
アレックスとカミーユ、それぞれの苦悩や悲しみが描かれているところが
ルメートル作品の魅力じゃないかと思います。


金持ちで知的でイケメンなルイ、ドケチなアルマン、
ヴェルーヴェン班の再集結も嬉しいところ。
聞き込みや物件など地味な手がかりをコツコツ集めて
犯人に迫っていく手順は今回もおもしろかった。

 

 

本『予告殺人』

予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『予告殺人』
アガサ・クリスティー
田村隆一 訳
ハヤカワ文庫

テレビドラマ化されるということで読んでみました。
ミス・マープルもの。


クリスティーの作品のおもしろさは
犯人が誰かとか殺人トリックとかではなくて、背景にある人間模様だったり、
殺人をめぐる心の機微が描かれているところにあると思います。


この作品でも「娘時代の自分を憶えていてくれる人がいなくなると、
人は独りぼっちになるんです」とマープルが語るところにグッときます。


マープルものは住んでる人がみんな知り合いのような小さな町で事件が起こるわけで、
本作は1950年の作品ということもあってそこに戦後の混乱が加わります。
そういう背景抜きに日本でドラマ化できるのかとドラマの公式サイトを見てみたら
レティシア・ブラックロックは黒岩怜里という役名になっていてなんか不安。
そもそも男性探偵でマープルじゃないしな。


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本『一汁一菜でよいという提案』

一汁一菜でよいという提案

『一汁一菜でよいという提案』
土井善晴
グラフィック社

2016年あたりのベストセラー。
『もうレシピ本はいらない』が2017年なので、
断捨離シンプルライフが食卓にも波及している感じです。


「一汁一菜でいい」なんて楽でいいじゃないか!と思って読んでみましたが、
レシピ自体はシンプルなものの、
「食事を通じて日本文化を伝えよう」「和食を初期化して原点に立ち返ろう」
という、わりと壮大な話です。


話の中には理解できることできないこと、
納得できることできないことがあったりしましたが、
「生きることは食べること」なんだなと。


コンビニのお弁当には食べる人と作る人という関係はなく、
伝わる情報のやり取りは何もないという話に、
コンビニ弁当がなぜ味気ないのか腑に落ちました。


例によって図書館で借りたので帯ないですが、
表紙の紙はご飯の色、題字は菜の色、帯は味噌の色と聞いて、おおっと思いました。
著者が「デザインという回答」と評しています。


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本『時の旅人』

時の旅人 (岩波少年文庫)

『時の旅人』
アリソン・アトリー
松野正子 訳
岩波少年文庫

ロンドンからダービシャーの農場にやってきた少女が
16世紀の荘園屋敷に迷い込む物語。


時空移動が行き当たりばったりだったり、
過去の人々が主人公を簡単に受け入れてくれたり、
タイムトラベルものとしては作りが粗いのですが、
なによりイギリスの農場の暮らしがすばらしい。

(私的タイムトラベル児童文学ベストは
『トムは真夜中の庭で』と『ある朝シャーロットは…』)


「お客様がくるから月桂樹とローズマリーをとってきて客間にまいて」とか
シーツがラベンダーの香りがしたとか、火のしで温めたベットとか、バター部屋とか、
ポセット、ジンジャーブレッド、ハーブビールなど、ぽんぽんでてくる料理にも
生活にも当たり前のようにハーブが使われているのにうっとりします。


舞台となるマナーハウスは400年の時を経て残っているので、
時空を超える場所として存在感があり、やや強引なタイムトラベル設定を支えています。


そもそも主人公が時間を超えるというより
建物に残っている過去の幻影を見ていると考えたほうがわかりやすい。


エリザベス女王とスコットランド女王メアリー・スチュアートの対立は
物語の中でも説明されてますが、背景となっている宗教戦争、
魔女狩り、スペイン無敵艦隊の脅威などもすんなり理解できたので、
『若い読者のための世界史』を読んでおいて良かった!と思いました。

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本『悲しみのイレーヌ』

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

『悲しみのイレーヌ』
ピエール・ルメートル
橘明美 訳
文春文庫

『その女アレックス』がバカ売れして
日本でも知られるようになったルメートルのデビュー作。

邦訳順は後になりましたが順番的にはこちらが先なので
こっちから読んでみましたがそれで正解でした。


邦題が意味深というかほとんどネタバレなので
終始イレーヌの安否を心配しながら読みました。


原題は『Travail Soigne』。travailは英語だとworking、「働く、勉強する」のほか
「陣痛の」みたいな意味があるらしいです。soigneは「出血」。
(『とらばーゆ』っていう転職雑誌があったね!)


これもネタバレになってしまうので詳細は省きますが、
犯罪小説の名前がいくつも出てくるのがおもしろい
(アガサ・クリスティと映画化した2作くらいしかわからなかったけど)。


残酷かつグロテスクな犯罪現場も数多く出てくるんですが、
いずれも詩的な美しさがあり、そこにこの物語の犯人の美学を感じます。


文庫本460ページの厚さで第二部が405ページから。
こんな後半から第二部?と目次を見た段階で思ったのですが、まさにここからちゃぶ台返し。
あとからあれ、この伏線が前にあったようなと何度か読み返すんですが、
それが第一部だとまた別の意味になるという。


近年の人気も納得のおもしろさでしたが、他の人の感想だと
『その女アレックス』のほうがおもしろいそうなので期待大です。


「ミステリがこれほどもてはやされるのは、
人々が無意識のうちに死を求めているからです。
そして謎を。誰もが死のイメージを追い求めるのは、
イメージが欲しいからではなく、イメージしか手に入らないからです。
血に飢えた人々のために政府が用意する戦争や虐殺をのぞくと、ほかになにがあるでしょう?
そう、死のイメージです。それしかありません。だから人々は死のイメージを求めます。
そして、その渇きを癒すことができるのは芸術家だけです。」

 

本『若い読者のための世界史』

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫) 若い読者のための世界史(下) - 原始から現代まで (中公文庫)

『若い読者のための世界史』
エルンスト・H・ゴンブリッチ
中山典夫 訳

『銃・病原菌・鉄』に続く世界史入門として読みました。
文庫本上下巻、各200ページほどというお手軽さ。


「若い読者」は20代くらいかと思っていたのですが、
それよりももっと若い、中高生くらいを対象に書かれたようです。

時間的な制約もあり、作者のゴンブリッチは本書を6週間で書き上げたとか。
それもあって平易な言葉で簡潔に歴史が語られていてとても読みやすい
(上巻1日、下巻3日くらいで読了。)


高校の時に世界史が苦手だったのは
「〇〇国が〇〇国を占領し〇〇帝国が誕生」といった感じで、
まったく人が見えないからだったのですが、
この本では当時の人々が何をどのように考えて歴史が動いていったのか語ってくれるので、
ひとつひとつの流れが物語として頭に入ってきやすい。
なにより「世界史っておもしろい!」と感じることができたのが収穫。


想定された読者がドイツの子供たちなので、ヨーロッパ視点ではありますが、
逆にヨーロッパから見たアジア、日本観が新鮮です。


「もしその気になれば、カトリックとプロテスタントのあいだの戦いについて
わたしは、もっともっと多くを書くことができるだろう。しかしその気になれない。
まったくそれは、おぞましい時代だったのだ。
そして状況はますます混迷におちいり、やがて人びとは、
もともと自分たちが何に賛成し、何に反対して戦っていたのかわからなくなっていったのだ。」

 

本『秘密』

秘密 (文春文庫)

『秘密』
東野圭吾
文春文庫

東野圭吾の1998年の作品。
そういえば広末で映画化してたな程度の記憶しかないのですが、
ベストセラーとなり、人気作家としてブレイクするきっかけとなった作品、らしい。


例によって3日くらいで一気読みしたんですが、読み終わってなんだかうーんという感じ。

娘の身体と妻の心をもつ少女を抱けるのかとか、
失ったのははたして娘なのか妻なのかとか(これ最後までぼかすべきだったんじゃないか)、
いろいろおもしろいところはあるんだけど、語るに落ちるというか、
消化不良というか、納得できないようなモヤモヤが残ります。


(突っ込むとこはそこじゃないとわかりつつ、娘でも妻でも一緒にお風呂ってキモい。)

『手紙』は2003年の作品だけど、ここでも被害者家族、加害者家族のその後は重要なテーマで、
『秘密』では遠回しではあるものの「和解」が成立している。

 

 

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