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本『時の旅人』

時の旅人 (岩波少年文庫)

『時の旅人』
アリソン・アトリー
松野正子 訳
岩波少年文庫

ロンドンからダービシャーの農場にやってきた少女が
16世紀の荘園屋敷に迷い込む物語。


時空移動が行き当たりばったりだったり、
過去の人々が主人公を簡単に受け入れてくれたり、
タイムトラベルものとしては作りが粗いのですが、
なによりイギリスの農場の暮らしがすばらしい。

(私的タイムトラベル児童文学ベストは
『トムは真夜中の庭で』と『ある朝シャーロットは…』)


「お客様がくるから月桂樹とローズマリーをとってきて客間にまいて」とか
シーツがラベンダーの香りがしたとか、火のしで温めたベットとか、バター部屋とか、
ポセット、ジンジャーブレッド、ハーブビールなど、ぽんぽんでてくる料理にも
生活にも当たり前のようにハーブが使われているのにうっとりします。


舞台となるマナーハウスは400年の時を経て残っているので、
時空を超える場所として存在感があり、やや強引なタイムトラベル設定を支えています。


そもそも主人公が時間を超えるというより
建物に残っている過去の幻影を見ていると考えたほうがわかりやすい。


エリザベス女王とスコットランド女王メアリー・スチュアートの対立は
物語の中でも説明されてますが、背景となっている宗教戦争、
魔女狩り、スペイン無敵艦隊の脅威などもすんなり理解できたので、
『若い読者のための世界史』を読んでおいて良かった!と思いました。

<読書メモ>

バイオリンがはじまると、私はいつも目をさましました。
そして、バイオリン弾きが宿を出てテームズ河の岸へ歩いていくと、
空想の中で、そっと踊りながらついていきました。
音楽にあわせて右に左に、時にはふわりと空中にとびあがって。


その時、おばさんが階段の下でちりんちりんとベルを鳴らしました。
私たちはちらちらするろうそくを持って、笑い声をあげながら、
いそいでさっきの大きな台所へおりていき、雨水をためた流しで手と顔を洗いました。
その水は、苔と紅葉した秋の木の葉を思わせるにおいがしました。
壁に埋めこんだオークの棚からラベンダーの香りのするタオルを取って顔をふき、
炎をあげている暖炉の前で手を温めました。


私は、鏡の中の少女はだれだったのかといぶかりながら、
ゆっくりあとについていきました。あの人は私に何をはなしたかったのだろう……、
いや、あれはほんとは私自身だったのだろうか?
私の知らない、どんなことを、あの人は知っているのだろう?
それにしても、私はだれなのだろう?

「つづりは、人それぞれのこと」といいました。
「私には私の好みのつづりがあり、すきなように文字をえらぶ。」

言葉は、だれでも自分の気分にまかせてつづればよいのであり、
それが書くことのよろこびの一つであって、人には美しい言葉を作りだす自由がある、といいました。
そして、おまえもいつもいつも同じつづりで書くようなつまらない者であってはいけない、といいました。


「私は未来の者、未来に生きている者なの」と、私はもう一度いいました。
「そして、未来は私たちのまわりにあるの。ただ、あなたには見えない。
私は過去の者でもあるの。過去にも生きているのよ。
だって、こうして、あなたと過去を共にしているのだから。
未来も過去も、両方ともが、“今”なのよ。」

 

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