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本『侍女の物語』

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

『侍女の物語』
マーガレット・アトウッド
斎藤英治 訳
ハヤカワepi文庫

1985年の作品だが、Huluでドラマ化されたことで再び注目されている。
タイトルからヴィアトリア朝時代あたりの話かと思っていたら、
近未来ディストピア小説でした。

語り手がどういう境遇にあるのか、というのは
次第に明らかになっていくわけですが、最初から一種の諦念というか、
何かを諦めていかないと生きていけない彼女の語りがしびれます。

設定自体がとてもおもしろいのですが、
彼女の抑制された語りそのものも読み応えがあります。
静かな諦めと微かな希望、悔恨あたりが混じった感じは
『わたしを離さないで』にも似ている。

人間が管理社会にどうやって飲み込まれていくのか、というあたりは『一九八四年』。
女性が子供を産むための器となった世界からみた
フェミニズム、恋愛観というのもすごい。出産シーンの醜悪さ!

めちゃめちゃおもしろくて他の本を放り出してこればかり読んでいたので、
三日ほどで読み終りました。Huluのドラマも気になる。

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本『アンデルセン童話集 2』

アンデルセン童話集 (2) (岩波少年文庫 (006))

『アンデルセン童話集 2』
アンデルセン
大畑末吉 訳
岩波少年文庫

『アンデルセン童話集 1』は『おやゆび姫』や『みにくいあひるの子』など、
いかにも子供向けの童話!という感じの話でしたが、
『童話集 2』は『人魚姫』、『マッチ売りの少女』など、
アンデルセンの中でも暗い話満載で本領発揮という感じです。

靴を汚したくなくて白いパンを踏んだため、
泥の中に沈んでしまった『パンをふんだ娘』とか、
病気の男の子のために咲いた花(『天使』)とか、
解説のいうところの「深い宗教的な諦念」が感じられます。

『人魚姫』は子供の頃は、助けてくれた人魚姫から王子を奪うなんて、
隣の国の王女はひどい!と思っていたんですが、
今読むと徹頭徹尾、人魚姫の片思いですね。

「王子のへやの外のビロードのクッションで寝てよろしい、
というおゆるしが出ました。」なんていう一文もあって、
これってセクシャルなメイドみたいなものじゃないの?
(倉橋由美子版では人魚姫は愛人として書かれてるとか。)
王子にとって人魚姫は結婚相手どころか、恋愛対象ですらなかったのでは。
人魚姫が王子を殺しに行くのが、
新婚初夜のあとのふたりの天幕だというのもなんだか気持ち悪い。

さらに、人魚姫は海の泡になって終わり、
ではなくて、泡から空気の精となり、300年のあいだ、よい行いをすると、
「不死のたましい」を授かり、神さまの国へのぼっていけるというラストでした。
妹は「なにその苦行」と言ってましたが、ほんとだよ。

一方で、『野の白鳥』でエリザがさまよう森の描写の美しさとか、
子供向けの本ではわからなかったアンデルセンの魅力も感じられた巻でした。


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本『レシピがいらない! アフロえみ子の四季の食卓』

レシピがいらない! アフロえみ子の四季の食卓

 

『レシピがいらない! アフロえみ子の四季の食卓』
稲垣えみ子
マガジンハウス

アフロえみ子こと稲垣えみ子さんの料理本。

『もうレシピ本はいらない』実践編という感じなので、
内容にそれほど目新しさはないんですが、
玄米ご飯に梅干し、ぬか漬け、干し野菜の味噌汁
といった地味なビジュアルが実においしそう。

料理自体はたしかに簡単そうですが、自家製味噌やぬか漬け、
干し野菜あたりにおいしさのポイントがありそうなので、
そのまま真似できるかどうかはわかりません。
でも、ぬか漬けはチャレンジしてみたい。

『もうレシピ本はいらない』のときはご存命だった稲垣さんのお母様が、
この本の時点では亡くなられているのが、少し悲しいですね。
以下、引用文が心にしみます。

「ああ「ご飯を作って食べる楽しみ」とは、自分で作り上げているようでいて、
実はそうじゃなかったのです。
それを喜んで食べてくれる誰かにそっと支えられてようやく成り立っていたのだなあ。」

「でもそれは一人暮らしであっても、結局は同じことなのかもしれません。
自分で料理を作り続ける原動力は、何よりも、
その料理を心から「おいしい」と思って食べる自分自身です。
どんな逆境に置かれようとも、例えば会社をクビになろうと、
連れあいに先立たれようと、自分で料理を作り、
それを心から美味しいと思って食べられる自分がいれば、
人生は全くもって何とかなっていくんじゃないでしょうか。
自給自足とはまさにこのことです。」

 

 

本『富士日記 上』

富士日記(上) 新版 (中公文庫 (た15-10))

『富士日記 上』
武田百合子
中公文庫

年末年始、富士が見えるところに行くのだからと、
『富士日記』に手を出してみました。
勝手にお洒落なおばさまのお洒落な日記だと思っていたら、
なんとも豪快な女性の元気な日記で楽しく読みました。

自衛隊に向かって「バカ」と言い、ご主人の武田泰淳にたしなめられ、
口の悪い若者たちに言い返して、娘に「あんなことやめてね」と言われ、
テヘペロしてる感じの百合子さんがかわいいです。

私は乗物酔いしやすいこともあり、車の運転にまったく興味がないんですが、
車がないと暮らしていけない富士の山荘で、買い出しに出たり、
原稿を出しに行ったり、湖に泳ぎに行ったり、
フットワーク軽く運転している百合子さんを見ると、
運転できるというのも悪くないのかもという気がします。
(武田泰淳が運転を妻に完全にまかせているのもまた。
「桜を見に行こう」とか「明日東京に帰る」とか
さらっと決めて運転は百合子さんという。)

昭和三十九年八月十七日の日記に
「今朝、佐田啓二が蓼科の別荘からの帰り、韮崎で交通事故死。」
とあったので、母に聞いてみたら、
地元の人は「当時、事故現場まで見に行った」と言っていたとか。
「佐田啓二ひとりが亡くなったのよね」とよく覚えている。

日記なので急がずタラタラと読んでいこうと思います。


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本『それでも人生にイエスと言う』

それでも人生にイエスと言う

『それでも人生にイエスと言う』
V.E.フランクル
山田邦男、松田美佳 訳
春秋社

積読本シリーズ。
『夜と霧』のフランクルの著書。

1946年に行われた講演をもとにしているので、文章自体は読みやすく、
それほど長い本でもないのですが、
強制収容所を生きのびた人が語る「生きる意味」はとても重く、
今まで3回くらい挑戦しては途中で挫折し
(第1章を3回、第2章を2回くらい読んでいる)、やっと今回、読了しました。

どんな状況でも、苦難と死にもかかわらず、病気を抱えていても、
強制収容所にいてもなお、人生には意味がある。

フランクルは精神科医であり、心理学者なので、
いくつもの診療ケースからこの結論を導き出しており、
強制収容所での経験は実践例のひとつです。
この講演の1年ほど前にはまだ彼は収容所にいて、
自分の未来を考えることすらできない状況だったとは!

人ははたしてそこまで強くなれるものか、
今の私には自信がありませんが、
生きる意味を問い直したくなったときに再読してみたい一冊です。

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本『読んでいない本について堂々と語る方法』

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

『読んでいない本について堂々と語る方法』
ピエール・バイヤール
大浦康介 訳
筑摩書房

積読シリーズ。フランスでは2007年、日本では2008年出版のベストセラー。
2020年、一冊めがこの本でいいのか。

帯には「読書感想文ももう怖くない!」とありますが、
そんな簡単なことではなくて、「本を読む」とはなにかという話でした。

そもそも「未読」にもいろんな状態があって、
「ぜんぜん読んだことがない」、「ざっと読んだことがある」、
「人から聞いたことがある」、「読んだことはあるが忘れてしまった」
という段階がある(この本には「完読」という状態はない)。

私たちは「本を読んでいる」と思っているけど、
その実、「本にまつわる言説」を読んでいる。
だから「本にまつわる言説」を理解できれば、本そのものを読んでなくても
その本について語ることは可能である、と著者はいう。

ネット時代とはいえ、本に関する情報を集めて取捨選択するには
当然、本についての知識も必要となり、
ほかの本と対象しての「位置関係」を理解するには、
まったく一冊も読んでいない状態では無理。
あきらめて地道に本を読んだほうが早いのではと思うので、
これは一種の著者流のユーモアなのかも。
それとも「完読」したつもりでも、「本にまつわる言説」、
「本の位置関係」を理解していないのであれば、読んでいないと同じという皮肉なのかも。

各章にいろんな本からの「読んでいない本についてコメントする」例が引用されているんですが、
映画『グラウンドホッグ・デイ(邦題『恋はデジャ・ブ』)が出てくるのは嬉しかった。

ほかにも、ゲームに勝ちたくて『ハムレット』を読んでいないことを告白してしまい、
終身在職権を失ってしまった大学教授の話とか(デイヴィッド・ロッジ『交換教授』)
もおもしろかったです。

著者は大学教授であり、精神分析家なので、後半の本領発揮の部分はなかなか難解。


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